[Shall we ダンス?] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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周防正行監督・原案・脚本。栢野直樹撮影。周防義和音楽。大貫妙子主題歌。96年、東宝配給。


スカパーチャンネルNecoの録画にて再観。ビリー・ワイルダー監督も絶賛する観る人を明るく楽しませる映画の王道といっていい傑作。[シコふんじゃった]で話題を独占した周防正行監督が日の当たらない社交ダンスにスポットを当て、世界的大ヒットさせたことで、世間では社交ダンス・ブームが起こったくらいこの年の日本アカデミー賞、キネマ旬報ベストテン1位など話題を独占した映画。


周防正行は、主人公の杉山(役所広司]がダンス教室の窓から見える美しい女性舞(草刈民代)に惹かれ、ダンスをやり始める導入部から徐々にダンスに夢中になっていく様子を丁寧に描き込む。キャロル・リードの[フォロ・ミー]をオマージュした、そんな夫を不審に思い探偵(柄本明)に素行調査を依頼する妻(原日出子)、杉山がダンスに打ち込む姿を見て、舞も父親に指摘されていた自己の過去をやっと見直す、それぞれが人生の方向性を見出しといくサクセス・ストーリーの中に家族の絆をしっかりと盛り込んだ作品であり、一切の無駄がない。


真面目でこれといった趣味も持たないサラリーマンの杉山正平(役所広司)は、ある日の会社の帰り、電車のから見えるダンス教室の窓に、物憂げに佇むひとりの女性(草刈民代)を見つけた。その美しい姿に目を奪われた彼は、数日後、その“岸川ダンス教室”を訪れる。中年のたま子先生(草村礼子)の勧めでグループレッスンを受けることにした杉山は、同じく初心者の田中(田口浩正)少しダンスを齧っている服部(徳井優)とともに、初めての社交ダンスを習い始めた。杉山が見かけた女性はこのダンス教室の娘・舞で、ダンス・コンテストの最高峰ブラックプールに参加してアクシデントに見舞われてから、パートナーに対する信頼感を持てなくなり、父親(森山周一郎)から半ば強制的にダンス教室の先生をさせられていたのだった。そんなある日、教室に杉山の会社の同僚である青木(竹中直人)が姿をみせた。別人のようにいきいきと踊る青木の姿に驚いた杉山は、同じ教室に通う主婦・豊子(渡辺えり子)のダンスにかける情熱にも心を動かされ、舞と踊りたいという不純な動機もすっかり消えて、ダンスそのものに純粋にのめり込んでいった。一方、杉山の妻・昌子(吉田日出子)は夫の様子がおかしいと感じて、素行調査を探偵(柄本明)に依頼していた。そうとは知らない杉山は、たま子先生の提案で豊子とペアを組んで大会に出場することになり、舞のコーチのもと、さらなる特訓の日々を過ごすことになった。大会当日、会場には探偵から連絡を受けた杉山の妻子の姿もあった。杉山と豊子はワルツをうまくこなして見事二次審査を通過したが、三次のクイックステップで娘の千景(仲村綾)の声援を耳にした杉山は、動揺して大失敗する。自分のダンスが終わったと感じた杉山は、それからダンス教室へ行くのをやめてしまった。しばらくして、杉山は舞がイギリスへ行くと知らされ…。


必死にダンスを踊る役所広司の演技力の高さは言うまでもないが、この映画の後、監督の周防正行と結婚することになる草刈民代の凛とした美しさ、そして、この映画を支えているのは脇役たちの素晴らしさ、気味悪いダンスで存在感抜群の竹中直人、そして物語全編に渡って、重要な役割を担う渡辺えり子。田口浩正や徳井優などこの映画で、それぞれの役者達が名前を売り、TVドラマや映画に使われるようになった。


たま子先生の台詞で語られるが、タイトルになっている[Shall we ダンス?]とはミュージカル映画[王様と私]からの流用であることがわかり、映画的エッセンスにも溢れており、ラストの舞のお別れパーティーシーンでは、観る側にどきどきとする高揚感に周防正行の演出力の高さを実感させられた。


近年、本当に心から観る側を楽しませ、ハッピーにさせてくれる作品がない中、この映画のような社会に活力を与えるような映画を制作して欲しい。この映画はそのお手本と言っていい映画だ。


周防正行。[シコふんじゃった]など。