最初から読む

前回の話

 

M田は考えた。

クス男に異様に執着していた翔子。

婚活パーティーでカップリングしたのに、LINEをブロックされてしまった。

しかも、クス男には既婚者疑惑もあった。

愛が憎しみに変わっての犯行ではないだろうか。

 

ただ、翔子にハブと貴子を殺害する動機は見当たらない。

最初の事件はやはり貴子による無理心中で、クス男の事件とは別なのだろうか。

しかし、翔子とクス男がハブの部屋に入っていたのが気になる。

そして、クス男のダイイングメッセージには「リカティ」と記されていた。

 

うーむ、謎は深まるばかりだ・・・。

 

M田はお手上げ状態に。

 

「これ以上、素人の我々が首を突っ込んでも、ますます事件は迷宮入りする一方です。そろそろ雪が止みそうな気配なので、明日には警察が来れるでしょう。もう警察に任せるしかないですよ」 

 

「ただ、警察が来る前に翔子がまた何かしでかさないか心配だ・・・」

 

加山の言葉を受けて、M田の脳裏にちか子の顔がよぎった。

 

「そうですね。我々は今後、翔子さんの動向に目を光らせておきましょう!」

 

ちか子さんは私が絶対に守る!

M田は決意した。

 

 

ドアをノックすると、ゆっくりドアが開いて隙間からちか子が顔をのぞかせた。

 

「あら、莉多子さん。どうしました?」

 

「ちか子さん、今ちょっとお話できるかしら?」

 

「ええ」

 

部屋に通すちか子。

 

テーブルに向かい合って座り、おもむろに莉多子が話しだした。

 

「ちか子さん、以前婚活パーティーで私と出会った時のこと覚えている?」

 

「え?」

 

「今から18年前の話よ。当時私は25歳。婚活を始たばかりで、初めてお見合いパーティーに出かけたの。同じパーティーにあなたも参加していたわね?当時から、あなたはおキレイだったから、とてもよく覚えているわ」

 

「18年前?いやだわ、私はまだ小学生ですよ。完全な人違いです」

 

「そうかしら。当時あなたは22歳で、パーティーの最年少だったわね。だから、男性陣からモテモテで人気ナンバー1だった。それが私、悔しくってね。だって、絶対に私より年上に見えたのに。婚活で女は若さが最大の武器になるわ。見た目がもっと上に見えても、20代と言えば男はたくさん寄ってくるもの」

 

「え、何を言っているんですか?」

 

「ちか子さん、あなた一体おいくつなの?」

 

「27です!女性の年を疑うなんて失礼だわ」

 

「さすがに20代は、無理があるわよ・・・。確かにあなたはお肌がきれいだけど、髪や手、首に年齢が出ているわ。男はダマせても、同性の目はごまかせないわ」

 

「私、今まで苦労してきたから、年の割に老けて見えるだけです!本当に失礼な方ね!」

 

「私、昨日からあなたのことを観察していたけど、生まれ年や干支を聞かれた時に答えられなかったわよね。ちか子さん、27歳なら平成生まれよね?平成何年生まれなの?」

 

「・・・・・・」

 

「お願いだから、これ以上もう婚活中の男性を傷つけないで」

 

「ハァッ?傷つける?私が?」

 

「今まで、あなたにダマされた男性が複数いるの。今はカモさんがターゲットなのかしら?カモさんはとてもピュアな人だからダマしやすいかもしれないけど、私の大切な友人だから傷つけないで」

 

「カモさんからは一方的に好かれているだけです。付きまとわれて、正直迷惑してます」

 

「それなら、あなたも思わせぶりな態度をとらないことね」

 

「私、あなたの本を読んだことあるけど、結婚相手にお金の有無は関係ない、好きな人と結婚できたら幸せになれると書いていたわよね。私、あれ読んで笑っちゃった」

 

「え?」

 

「あれを読んで、本気でお金に困ったことない、脳内お花畑の人が書いたんだなーって(笑)。私は結婚相手は絶対に経済力が重要だって思っているわ。お金さえあれば幸せになれるのよ」

 

「お金持ちの相手からお金を搾取することが、あなたにとっての幸せなのね?」

 

「私は相手からお金をだまし取ったわけではない。相手が一方的に私に金品を貢いできただけ。お金をかける価値のある女だって思われてきただけなのよ。それって悪いことなのかしら?」

 

「私にはわからないわ。でも若さを失ってもなお、若さを武器に男たちをたぶらかすのは、だんだんしんどくなっているんじゃない?そろそろ足を洗ったほうが、あなたのためでもあるのよ」

 

「余計なお世話よ!用がないならとっとと出ていって!」

 

ちか子の部屋を出ていく莉多子。

 

 

物陰に隠れ、莉多子の後ろ姿を呆然を見つめるM田。

 

今の話は一体何だったのだ!?

 

もう一度ちか子の部屋に行こうとしたM田は、

先に莉多子が部屋に入っていくのを見て、

思わず壁に耳をつけて話を立ち聞きしてしまった。

 

そうしたら、信じられない会話が聞こえてきた。

最後のほうでヒステリックにわめいていたのは、本当にちか子さんだったのだろうか?

まるで別人だ・・・。

 

今、聞いたことはきっと幻聴。

幻だったのだと、M田は無理矢理思うことにした。

 

続き