平手side




気持ちが落ちて何をしていても楽しくない



何を食べても美味しくない、味がしない



誰といても楽しくない



生きてて楽しいことなんて何も無い








仕事があるから事務所がある会社に向かう




会社に入る1歩手前で立ち止まる




入れない

動悸が激しい

なにかあるわけじゃない



誰が嫌いとか苦手とかある訳じゃない



なぜか入っていくことが出来ない



1歩が踏み出せない



よしっ!!と気持ちを切り替え入ろうとすれば、途端に吐き気に襲われる











踵を返し来た道を帰る



近くの公園に足を運びベンチに座り1人で泣く






「なんで…足が動かないの…またみんなに迷惑かけるのに…ダメなのに…」







周りには人がいる

泣いていたら見られてしまう

だから私は下を向いたまま声を殺し泣いた






















どれだけ泣いていたかな

泣いたら少しだけスッキリする





「マネージャーに電話しなきゃ…」





それだけでも憂鬱になる



言うのが怖い



迷惑かけるのがわかっているから



そう思っているのに携帯を持つ手が震える








「ダメだ…出来ない…」







私は再び泣いた



苦しい



誰も知らないどこかに行きたい



私は心の中でどうしようもない感情を処理できずにいた



















「平手?」



声のする方に顔を向ければそこにはリサがいた






「やっと見つけた。探したんだよ。どっちがいい?お茶かジュースか」




私は声にならないほどリサの前で泣いた






「大丈夫だよ〜思いっきり泣きな。ずっとそばにいるから」




「でも、マネージャーにっ……電話っ……しなきゃ…」




「それなら大丈夫だから。平手は何も考えなくていいよ。平手1回私の家行こっか。そこなら人目も気にならないでしょ?」




「でも、リサ仕事が……っ」




「大丈夫だよ。今日は打ち合わせだけだったから。だから私の家行こっか」








きっと打ち合わせだけっていうのはウソだ





リサは優しいから私に気を使ってそうやって言ってくれているんだとわかった







いまはそのリサのウソに甘えてしまおうと思った







私は自分がどうにかなっちゃいそうで、どうすればいいかもわからなくて1人でいたらきっとダメだとも思った





私はリサに背中をさすられながらリサの家に向かう



























リサは家に着くなり私をソファに座らせ暖かいココアを入れてくれた







「なんで?今夏なのに暖かいココアなの?」




「最近平手ずっと長袖でしかもお茶飲むのもホットだったからそうかなって」




「リサはすごいね…羨ましい…」




「なにが?」




「観察眼」




「私は平手の方がすごいと思うよ。平手周りのことすごく見えてるから尊敬してるんだよ?」




「私なんか…」




「平手?寝れてる?ご飯食べれてる?」




「…」




「少しでもご飯食べて少しでも寝よ?」




「食欲無いし寝むれない…」




「お味噌汁作るからそれなら飲めそう?」




「お味噌汁なら飲めるかも…」




「じゃあ今から作るから少し待ってて」

















リサside





私がお味噌汁を作る間平手はずっと下を向いて目が合うことがなかった





平手は慣れた人とは目を見て話せるはずなのに公園で見つけた時の最初だけしか目が合わなかった







お味噌汁を作り終わり平手の前に出す




「はい、どうぞ」




「ありがとう。いただきます。」






一言も交わすことなく食べ続ける平手




私はその間に家のことを色々済ませる




洗濯を畳んでいると平手がひょこっとやってきた




「リサ…私帰るね…」




「どうした?」




「…」




きっと平手は私に申し訳ないと思って言ってるんだと思った








「私に申し訳ないと思ってるならその考え今すぐやめて」




「…」




「ふぁ〜眠くなってきちゃった。平手少し寝ない?それから帰りたいなら帰ってよ〜」







平手は少し考えてから頷いた





2人でベッドへ寝っ転がり少しだけ話した





「そんなに帰りたい?」




「…うーん、迷惑かけてるのがわかるから」




「私が平手と話したいから誘ったんだけどな〜」




「私なんかと?」




「平手の事色々知りたくて。知らないことばかりだから」




「そうかな?」




「そうだよ(笑)家では何してて何が好きでとか気になる(笑)」




「そう?」




「うん。私は平手に興味がある」




「そうなんだ」







少しの沈黙があったと思う



隣を見ればスースーと規則正しい寝息が聞こえてきて私は少しだけ安心した







「これで長い時間寝られたらいいんだけど…」









私もすこしだけ寝ようと思い目をつぶればすぐに意識を手放した