日本の漢方を牽引してきた著名な漢方薬メーカーの創業125周年記念講演会に参加してきました。

 

とても素晴らしい講演会でした。

演者の先生方も錚々たるメンバー、企画の方向性、提示の仕方などどれも一流と感じました。

 

日本漢方の過去、現在、未来を提示して頂いたのです。

 

 

 

私が医学部生だったころは、カリキュラムに漢方の講義は全くなく、漢方なんて胡散臭いという認識しか私にはありませんでした。

 

医師になってから、急性副鼻腔炎になったとき、抗生剤を幾ら飲んでも症状が改善せず、見かねたMRさんが分けてくださった葛根湯1包を服用することで、びっくりするほど鼻づまりが改善し、頭痛などすべての症状が改善されたことが切っ掛けで、漢方医学に足を踏み入れました。

 

本当に漢方は奥が深く、私がその奥を極めたとは到底言えないのですが、敢えて私の視点から講演会の内容をシェアしたく、またその内容への感想をここで述べてみようと思います。

 

 

漢方の歴史(過去)

 

漢方医学の重鎮でいらっしゃる寺澤先生のお話は、漢方と共に生きていらっしゃった先生の歴史を感じました。

漢方は排斥の歴史で、明治維新後、脱亜入欧の政策の元、漢方医は政府の定める国家試験を通らなければ医師として認められなくなったこと。

 

T社はその直後に逆風の中で創業したこと。

最初に販売したのが女性の更年期症状に効果のある「中将湯」で発売以来ロングセラーになっていること。

中将姫という方が処方した方剤が中将湯であること。

 

 

 

第一次世界大戦が起こったとき、ドイツは敵国であったので、医薬品が一切輸入されなくなり、慌てて漢方をその時復活させたこと。

 

漢方が保険適応となった後も、繰り返し漢方排斥運動が起こっていること。

元医師会長、故武見太郎氏は、漢方擁護派であったこと。

 

とても興味深く、漢方の恩恵に今でも預かれるのは先人の漢方医学を存続させようとする不断の努力があったのだと、改めて感謝の想いが湧き上がりました。

 

 

 

漢方の現状(現在)

 

1.がん支持療法と漢方

 

抗がん剤の副作用で口内炎が酷く、治療を中断せざるをえない状況の時、「半夏瀉心湯」が非常に有効であるとの報告で、そのエビデンスとして

 

①フリーラジカル消去作用

②抗炎症作用

③鎮痛作用

④抗菌作用 (レッド・コンプレックスという歯周病を起こす菌に選択的とのこと)

 

が証明されたと言う発表です。

 

2.超高齢社会と漢方

 

近年、高齢者の介護前段階を「フレイル」と呼び、カタカナ言葉が流行っていますが😆、要するに漢方で言う「腎虚」がぴったり当てはまる状態のようです。

フレイルにはフィジカルフレイル(筋力低下・変形関節症)、メンタルフレイル(うつ・認知症)、ソーシャルフレイル(独居・閉じこもり)があるそうです。

 

フィジカルフレイルを形成する重要な要素がサルコペニア(加齢に伴う骨格筋の筋量、および筋力の低下)だそうで「牛車腎気丸」は抗サルコペニア作用があります。

 

作用機序として

①インスリン/IGF-1シグナルの増加・ミトコンドリア機能の回復

②TNF-α(炎症性サイトカイン)の産生抑制→疼痛改善

 

が証明され、動物実験では筋肉の炎症が牛車腎気丸の投与により抑制され、筋量が戻ったという発表です。

 

 

3.健康長寿と漢方

 

葉緑体を有しない個体の生命維持に消化器は非常に重要であり、脳を含めそれ以外の臓器は、如何に食行動を効率よく行うかを目的に、そこから消化器に付随して発達してきたそうです。

We are what we digest. ですね、、

 

胃粘膜から分泌されるグレリンは食欲を亢進させるホルモンですが、この受容体は全身の臓器に広く分布しているそうです。

このグレリンの分泌を促進させるのが「六君子湯」です。

 

①グレリン分泌促進

②グレリンの代謝抑制

③グレリン受容体への結合活性増強→グレリンシグナルの増強

④Sirtuin1(Sirt1)遺伝子=寿命遺伝子の活性を上昇させる(動物実験)

 

が証明され、六君子湯はグレリンを介して全身臓器に分布しているグレリン受容体の活性を上昇させ全身状態の改善に寄与する可能性が指摘されました。

 

私が漢方を習いだしたころは、確かに色々な場面で効果があるけれど、何で効くの?作用機序は?エビデンスは?と言った意見が良く聞かれました。

現在、これだけ色々な作用機序が分かり、しかも単一の作用でないことが分かってきており素晴らしいと感じます。

いわゆる漢方に対するエビデンスは科学の進歩でドンドン解明されてきているようです。

 

 

 

漢方の可能性(未来)

 

システムバイオロジーと漢方

 

システムバイオロジーとは、生命をシステムとして理解し、生命現象の背後にある多くの遺伝子や分子の相互作用ネットワークの動作原理を解明しようという学問です。

生命現象は一つの要素に帰着させるのではなく、要素間のネットワークに本質的な重要性があるとするため、複雑系を理解する学問と考えて良いように思います。

 

この学問と複数の生薬の組み合わせからなる漢方は高い親和性があると考えられ、実際にスーパーコンピューターを駆使して、複雑な数式を導き出して、シミレーションをしながらそこから漢方を理解しようとする試みが始まっています。

 

この技法を用い、漢方薬が摂取から血中へと移行する段階で、その成分にどの様な変化が見られるのか、更にそれがどの様なシグナル伝達系に影響を与えているのかの一端を解明したそうです。

 

AI時代の幕開けとともに、考えようによっては思いがけない組み合わせではありますが、AIの力を借り漢方が更なるエビデンスを積み上げれば、大勢の医師に使用してもらえるようになるのではと大きな期待を持った講義でした。

 

とても充実した講演会でした\(^o^)/

 

 

 

ゆいクリニック院長          由井郁子(ゆい・いくこ)

 

 

 

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