─── 続き

勝手な約束の一週間目の土曜日が来てしまった。

目覚めて一時間程は普段通りの時間が過ぎていった。
もしかしたら、一週間前のあれは夢だったのか?と思えるくらいに普段通りに…。

そう思った頃に彼が切り出してきた。
「一週間考えてくれた?」
と、「13年一緒にいた人との事を一週間で整理しろって言う方が無理…。」やっとの思いで言葉を絞り出した。

「もうオマメが一番じゃなくなったんだよ。その人と一緒の時間が心地よくなってきたんだ。」

一番じゃない。
一番じゃない…。

会社の話を比較的話してくれる彼から聞いていた女性の話を思い出す。

3年前くらいに福岡から上京してきた13年下の女性。
彼の会社と兄弟的な会社に入ったのに、その職場の上司がパワハラをすると何故か彼に相談し、不憫に思った彼が自分の会社に異動させて部下になった。
名前はS田さん。

でも、1ヶ月前にお婆さんの介護の為という理由で福岡に帰った。

それは、彼が彼女との事を告白する前に彼から聞いていた話。

「どれくらい内緒で会ってたの?」

「3年くらい前から時々、家に行っていた。最初は仕事の相談に乗って欲しいって、彼女の住んでいる所の駅で会って話を聞いてた。」

3年…。
想像以上の期間に頭が真っ白になる。

なんで仕事の相談を自分の住んでいる街の駅まで呼んでするのか?
告白される前から感じた事だが計算高い女性だ。

彼女にアプローチされて、私の事を話しても「それでもいいって…。」と彼女が言ったと…。

正直呆れた。

それでもいいと言ったから、据え膳を食ったの?

まんまと計算高い女性に取り込まれた彼に何とも言えない感情が湧き上がる。

私の頭の中がぐちゃぐちゃして、よくわからない…。
3年も裏切られていたショックと、怒りと悲しみ。

色々な思いが溢れる中で結論を出した。

──── 続く






─── 続き

10数年共に過ごして来た彼から、突然別れを切り出させた日からの一週間は本当に辛かった…。

誰に言えるともなく、自分の中だけで消化しなければならない思い。
プライベートの友人たちは彼と共通の友人なので、相談した瞬間に友人が彼に怒りをぶつけてしまいそうだからだ。

そんな中でも、社会で働く身なので自分でも驚く程に冷静に仕事をこなしていた。
会社の中で責任のあるポジションに立っているので、プライベートでの出来事を仕事に影響させるわけにはいかない。

仕事を終え自宅に戻ると、別れを申し出てきた彼と2人きりで過ごす不思議な時間。

当たり前に彼の分も食事を作り、当たり前に彼の分も洗濯をし、当たり前に同じテレビを観て、そして、当たり前に同じベッドに寝て…。

幸いにも、彼が未だ仕事が忙しい期間が続いているので、帰りが遅いのが救いのような気がした。

「一週間考えて───」何を考えろと…。
その答えは別れを受け入れろということだ。
冷静に考えると、なんて勝手な申し出なんだろう。

相手がいてもそれでも良いと彼と浮気した部下。
因果応報。
自分も同じ目にあえばいいのに。
いや、必ず彼は同じ事を繰り返す。
そんな癖がある男だからだ。

そんな彼でも、こんなに好きな自分が悔しい。
女性に弱い彼も自分が最期の女性に違いないと思っていたからだ。

悔しくて涙が出そうになる。
でも、意地でも彼の前では泣きたくない。
それから、シャワーを浴びながら泣く日々が続いた。

一週間はあっという間だ。
気付くと金曜日の夜になっている。
今夜眠ると、とうとう土曜日がやってくる。

約束の一週間…。
いや、勝手な約束の一週間が終わろうとしていた。

──── 続く
───続き

寝息を立てる彼の横で、私も一瞬眠気をもよおし
た気もした。
でも結局、脳が必死に状況を把握しようと動いて目がさえ始める。
ただじっと横になる事数十分。

その空間がなんとなく耐えきれずに、トイレへ行った。

なんでこんな非常事態なのにトイレに行きたくなるんだろう…。
そんな事をトイレの中で考えていたら、リビングに彼の気配を感じた…。

「もう起きたのか…。」そんな事を思いながら、トイレを出た。

再び、膝を抱えて座っている彼。
午前中のデジャヴか?

午前中同様に彼の横に腰をおろす。

「どこの人?」
今度は私から切り出した。
「まさか、同じ会社の人?」

「そうです。」

そう言えば「数年前に同じ会社に九州からわざわざ東京の会社に移動願い出して来た子からやたら積極的なメールが来る。」みたいな事を言ってたよな…。
でも、確かその時には自分には相手がいるって伝えたって言ってた…。
「会社の男の子に変な所に連れ込まれそうになったから、助けに来てください。」とか妙なメールをして来るって言ってた…。

あれは何年前?

会社の人の話しを比較的する彼なので、なんとなくの同じ部のメンツの名前と様子がわかってしまう。

思い浮かぶ女性はただ1人しかいない。
もちろん名前もわかる。
確か1 2 ・3歳年下だったはず。

上京してきてすぐに、その職場の上司のパワハラ的な言動が耐えられないと違う場所の彼に相談して来て、しかも自分がされたではなく人がされているのに、そこで不憫に思った彼が自分の部に入れたと当時聞かされた。

何となく打算的な女子だなと、当時彼から話を聞きながら感じた。

彼女しかいない。

聞いてみた。
当たりだった。

「そう。相手がいてもそれでも良いって言われて…。」
脱力した。

元々、女性には弱い一面を持っている人だった。

この10数年の間に5年位前にも何となく感じた事もあった。
でも、しばらくすると気配が消えていた。

この数年は新事業や新プロジェクトとかで、激務続きで帰りも遅くかったり、泊まり込みもあったりした…。

「仕事で忙しいって嘘だったの?」と聞いたら「それは本当なんだ。信じて欲しい。」とこの状況下でよく解らない事を言う彼。

その言葉の何を信じろと?

「オマメを裏切り続けていたんだ。オマメの事を大好きなお袋や妹にもオレは怒鳴られるだろう。でも、もう彼女にオマメと別れるって言ったんだ。彼女は先月九州に帰ったんだ。今日話すって伝えてる。」

と、具体的な計画まで話してくれた。

でも、女性に何となく弱い欠点は承知の上だったから「なる程ね。彼女が離れた事で火が着いたのか…。」なんて冷静に感じる自分がいる。

「でも、突然過ぎて考えらないだろうから、来週の土か日曜日に休むから、そこまで考えて欲しい。」と彼は突然中締めした。

「わかった。でも、私からもお願いがある。この一週間、重たい空気は作らないで。」と。

なんで、こんなに冷静に話せているのか不思議だ。
でも、それは単に実感が湧いていないだけ。

そして、ただ一つ心にあるのは、そんな欠点を持つ人だけど、そんな欠点も含めて好きだという思い。

実感は徐々に押し寄せて来るんだと思う。

───続く