選別の時である。
ロンドン五輪で戦う12選手が決定した。「プリンセス・メグ」こと栗原恵は落選し、「ママさん選手」の大友愛が2大会ぶりの五輪代表に復帰した。
先のワールドグランプリ(GP)の1次リーグ最終戦の夜、真鍋政義監督はホテルの部屋にひとりひとり呼び、選考結果を伝えた。
真鍋監督は言う。
「ロンドンでメダルを獲得するためのベストの12名を選考した。(落選の選手には)シンプルに“お疲れさま”と。淡々とした選手も、感情が入っていた選手もいました」
栗原は覚悟していたようだ。アテネ五輪、北京五輪をエース格で戦った27歳も、2度の左ひざの手術を受けた後、状態がベストには戻らなかった。しかもワールドGP中に左足首を痛める不運もあった。「とにかくひとつひとつのプレイに気持ちを込めた」と言いながらも、ミスがあまりに多すぎた。
すでにロシアのディナモ・カザニは退団している。国内外のクラブと交渉中だという。このまま終わるのは寂しすぎる。
大友の復帰は当然だった。真鍋ジャパンが標榜する「高速バレー」の実現のためには、とくにセンター線のスピードが不可欠である。ならば、相手ブロックを翻弄できる30歳の移動攻撃は外せない。
確かに右ひざ故障の後遺症から、先の五輪世界最終予選には出場できなかった。ワールドGPの動きも全盛期と比べると今ひとつながらも、セッター竹下佳江と呼吸が合ったときの動きは相手の度肝を抜く。まさに閃光のごときブロード攻撃だった。
マイペースな性格の大友も、愛娘を育てることで周囲がよく見えるようになった。たくましくなった。3月に離婚。生来の勝負魂もあり、大舞台では頼りになりそうだ。
大友はワールドGP最終戦の後、こう言っていた。モットーが「自分らしく」。
「目標としていたスピードが出せるようになってきた。テンさん(竹下)はいつも、私がいい状態でトスを上げてくれる。日本のコンビバレーができるよう、自分らしいプレイに徹していきたい」
さてロンドン五輪。
日本がメダルを獲るためには、「世界一の速さと失点の少ないバレー、きめ細かいバレー」(真鍋監督)を追求していくことになる。
カギは堅実なサーブレシーブとセンター陣のスピードアップが握る。サーブレシーブ役としては、リベロの佐野優子と守備のいい新鍋理沙、山口舞、さらにはエース木村沙織が担うことになる。
世界のサーブ力は間違いなく、上がっている。狙われるのは、どうしても木村となる。つまりは木村のサーブレシーブの安定がとても大事な要素となる。
だからだろう、実は木村はワールドGPで大阪入りした直後、かつて日本男子のエースだった荻野正二(現・サントリー監督)のところに指導を仰ぎにいった。真鍋監督の発案だった。真鍋が説明する。
「荻野も現役時代、サーブで狙われて、スパイクを打ちにいっていた。たぶん木村の気持ちが一番わかると思ったのです。効果があったのでしょう、木村の目が輝いていました」
木村、いわく。
「いろんなアドバイスをもらいました。サーブカットのミスをなくして、初めてリズムよく、ボールを打ちにいける。まずはサーブカットに集中したい」
木村の復活なくして、大友の爆発なくして、日本のメダルはない。安定したレシーブと竹下の速いトス回し。二枚看板の木村と江畑幸子の強打。迫田さおりと新鍋のバックアタック。主将の荒木絵里香と井上香織のブロック。狩野舞のインパクト。すべてがシンクロして、初めてメダルが見えてくる。
ここでギアチェンジ、と真鍋監督。
「これからは結束してやっていける。一番輝いているメダルに挑戦したい。(五輪)1戦目から勢いをつけていく」
正直、準備は遅れている。まだチーム戦術が未整備で、連携もつたない。あと1カ月でどう完成度を高めていくのか、注目である。
【ロンドン五輪バレーボール女子日本代表】
竹下佳江、大友愛(以上JT)佐野優子(イトゥサチ)井上香織(デンソー)山口舞(岡山シーガルズ)荒木絵里香、中道瞳、木村沙織、迫田さおり(以上東レ)狩野舞子(ベシクタシュ)江畑幸子(日立)新鍋理沙(久光製薬)<リザーブ:石田瑞穂(久光製薬)>
松瀬 学●取材・文 text by Matsuse Manabu
photo by AFLO
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