日々是遺言 清水寺の兵隊さん | 京都 coffee bar Pine Book

京都 coffee bar Pine Book

日々楽しく生きるにはコツがあります。
まずいちいち反応しない事です。
そしてオセロの4つ角を取る事です。
4つ角とは?
1 健康
2 人間関係
3 趣味
4 仕事
コレが楽しく生きるコツです

お父ちゃん、話してや、寝る時。 

太郎冠者か?

せや、せやで。 

もう何回も何回も話してるやんか。覚えてるやろ?太郎冠者の話しは。

忘れた、ボク。話してや!

当時、本当は太郎冠者の話しは知ってるし、結末も。 しかし、本来の狂言に登場の太郎冠者のストーリーとはなんの関連性もなく父親の創作であったのが判明したのはずっと後の事である。

ある日、太郎冠者は何かを取りに山の御堂に行くのです。で、そこで知り合う老人と仲良くなります。夕暮れ時になり太郎冠者は老人に告げた。そろそろ日も落ち暗くなりますから帰ります。

老人と別れる時、ではサヨナラー。と太郎冠者は山から坂道を下り家路と急ぐのであった。

コレっ!太郎冠者っ!老人は、太郎冠者を呼び止めます。振り返る太郎冠者。すると老人は赤い恐ろしい鬼に変身しているのです。

驚いた太郎冠者は一目散に坂道を転げるようにーーーー。

あー怖かったっ。よかった無事で。シャンシャン。終わり。

なんていう事のないお話です。でもボクは坂道を転げるように帰宅する太郎冠者に自らを当てはめ感情移入するのが寝る時のルーティンだったのです。

そんな怖い話しを聞いてよく眠る事が出来るなぁー?とお思いのそこのあなた!そーなんです。老人と別れる時までに眠らないと、垂れますオシッコ。で、老人と別れるまでにボクは寝落ちします、いつも。

ツギオーーーー。行くか?  

華頂学園幼稚園のお休みの日は朝から行くのです。決まって、清水さんへ。シミズさんではありません。京都の人は大概のコトバにサンを付けて呼びます。お揚げさん、おイモさん、うんこさん。

ボクの気分が乗らない時は?

きょーは行かへ〜ん。

買わへんのか?小さいお人形さん。 

買う、買うでぇー。

で、母と共に清水寺まで急な坂道を散歩し、帰りに小さなコレクションが1つ又増えるのです。

陶器の町、清水。小さな轆轤が自宅にあるお家が我が町内にも沢山ありました。自宅が工場になっていて、同じお茶碗やお湯呑みを自宅裏の小さな庭で轆轤を器用に足で廻して制作するのです。

その残った粘土で小さな小さな動物を着色して焼くのです。 ボクはかなり動物とりわけカエルが好きで書棚の上にズラっーと並べコレクションにしていたのです。

さて、母と清水寺までの散歩の最中にいっつも兵隊さんが座ってアコーディオンを弾いて参拝者からお恵みをもらっているのです。何やらハガキも売っています。ある時、ボクは母に小さな声で尋ねました。

な〜な〜お母ちゃん? 

なんえっ?どないしたん。

あの兵隊さんな、足無いの?

見ると片足がありません。膝小僧に茶色の革がプロテクトされていて、横に松葉杖が立て掛けてあります。

あのな、兵隊さんな、足、失くさはったんやわ、戦争で。

どないして家まで帰らはるの?

あの松葉杖付いて帰らはるのえ。

ふーん。松葉杖か。帰れるか?あんなもん付いてアコーディオン持って?

ボクは兵隊さんが帰って行く場面を見たくて見たくてどーしようもありません。

なーお母ちゃん!兵隊さん帰るとこみたい。

そんなん、ずーっと帰らはらへんて。待てへんて。

ボクは見たいのです。兵隊さん帰るとこ。 

さー小さな人形買うて帰ろか。

ボクは新しいカエルを棚に並べてから、お母ち ゃん、三角公園で遊んで来るしなー  

ツギオーーー、早く帰ってくるんやで。おひさん(太陽の事をおひさんといいます、京都では)はよー沈んで暗くなるでー

わかったぁーはよ帰ってくるー


ボクは必死であの坂道を登っていきます。あの兵隊さんのとこまで。

いましたっ!兵隊さん。兵隊さん、帰る支度しています。小さな池の周りに生い茂っている垣根からそーっと監視しています。

あっ!兵隊さん帽子を脱ぎました。あっ白い着物を脱いでいます。着物は小さくたたまれてカバンの中に入れました。さーさーさー、足です。足っ。うわッ。足が足が生えて来ましたー。なんと失くした足は、折り畳まれていたのです。ガサガサ。兵隊さんがこちらに目を走らせます。誰やー!誰やー。ボクは太郎冠者になっています、さっきから。うわっ〜。猛ダッシュです。坂道を転げるように。

ふぅーむっちゃ汗が吹いています。  

どないしたんそんなに汗かいてぇ。

母に言いたいけど言えません。ボクは三角公園で遊んでの帰りになっていますから。

やっぱりおかしい?と思った感は大当たりでした。兵隊さんの嘘つきっ。

しかし、悪いやっちゃなー。

でもよかったです。兵隊さん調査して。スーっとしました。あー怖かったぁ。誰にも言えないもどかしさは今も覚えています。

長々とーサンキューっ。