来年の4月から不妊治療の保険診療化が予定されているようですが、現時点では体外受精・人工授精・精巣内精子回収等の治療費は自費となっています。その補助として、「不妊治療助成金」と「医療費控除」などが挙げられます。

 

医療費控除とは、所得から、かかった医療費を控除するということです。例えば、医療費が10万円かかったとしましょう。この10万円の原資は給料です。普通に払えば、この10万円は税引き後の金額であり、例えば、もともとは12万円くらいあったものが、税金が2万円引かれて10万円だけが残り、それを支払ったと考えることができます。つまり、税引き前金額に換算すればとすれば12万円かかっているとも言えます。しかし、医療費控除を受ければ、医療費は税引き前の金額にかかったことでき、本来その10万円にもかかるはずの税金をかからないことにしましょう、ということです(税引き前金額で10万円しかかからない)。上記の例では、だいぶ前後あると思いますが、2万円くらい還付される、という計算です。

 

実際には、かかった医療費が10万円以上の場合に最大200万円に対して医療費控除を受けることができます。例えば、医療費が140万円かかった場合で、助成金を30万円もらっており、所得税率が20%の場合、140万円から、最初の10万円と助成金の30万円(この医療費はかかっていない扱いとなる)を除いた100万円が医療費控除額であり、所得税率が20%なら、この100万円にたいして税金が免除されるわけですから、20万円が還付額となるわけです。(所得税率は所得によって異なり、所得が高いほど税率が大きく上がります)

 

実際に振り込みで還付されるのはこれだけですが、医療費控除をしておけば次年度の住民税も安くなります。住民税は前年の所得が基準となっています。住民税率は一律約10%ですので、上記の場合、翌年の住民税も10万円安くなりますが、還付されるわけでも、控除金額がどこかに表示されるわけでもないので目につかないのですが、ダメ押しの10%は大きいです。

 

年収600万円以上の場合、所得税>住民税なので、医療費控除の金額がそれなりになりますが、年収600万円未満の場合は、所得税<住民税であり、確定申告をしても還付金額が少ないなと思ってしまいがちですが、確定申告をして還付される以上の金額が翌年の住民税から引かれますので、忘れずに医療費控除を申請しておくとよいでしょう。

 

所得が高い方が控除額が大きいことに色々思うところがある方もおられると思いますが、もともとより多く払っていたものが戻ってきているだけで、助成金のように税金から支払われるわけではありませんので、不公平というわけではありません。

 

ちなみに、医療費控除は、実際に支払った金額に対するものであり、それが保険か自費かは区別されません。保険の場合は支払った金額が基準、自費の場合は支払った金額から助成金等を受けた金額を差し引いた実負担金額が基準です。不妊治療は医療費控除の対象ですが、「美容整形」や「将来のための卵子凍結」等は原則として対象外だが事情にもよる、「インフルエンザなどの予防接種」などは、治療ではないみなされて対象外となります。

 

 

ところで、採卵や胚移植は、基本的には生命保険の給付金の対象外です。だいぶ昔に契約してそのまま契約変更したいないケースでは、第一生命や住友生命等の一部の契約において、採卵や胚移植に対しても給付金がおりるケースがありました(ここ10年くらいに契約したものはほぼ対象外です)。

 

しかし、大半の保険診療の手術等は、生命保険の給付金の対象です。不妊治療が保険診療になった場合、果たして生命保険がどうなるのでしょうか。もちろん、それを給付金の対象にするかどうかは、完全に生命保険会社の自由であり、不妊治療を給付金の対象にする義務は保険会社には全くありませんが、保険診療となれば給付金の対象とする生命保険会社が出てきても不思議はありません。

 

ただし、生命保険は加入時に分かっている疾病は給付金の対象外というのが原則です。つまり、仮に不妊治療が給付金の対象であったとしても、不妊症あるいは何らかの婦人科疾患がある診断されてから入った保険だと給付金は下りないことになりますので、すでに子宮筋腫や子宮内膜症がある方、その他の婦人科疾患がある方、あるいはすでに不妊治療を開始している方は対象外です。あるいは、条件を付けることもできますので、不妊治療を給付金の対象とする保険に入りたい場合は、保険会社提携の婦人科を受診して筋腫や内膜症、あるいは現時点で不妊症ではないことの証明を求められる可能性もあります(実際に、いわゆる死亡保険では提携医療機関での健康診断を条件とする会社もあります)。さまざまな条件がつく可能性はあるにせよ、不妊治療の保険化が本当に実現するのであれば、こうした部分にも影響が出るかも知れません(ただの想像です。ならない可能性もあります)。

 

ということで、今日は医療費控除について解説いたしました。次回もお楽しみに。