みなさん、こんばんは。今日は、抗リン脂質抗体症候群について説明したいと思います。

 

不妊治療を始めたばかりの方は、ほとんど聞いたことがないかもしれませんが、もともとは、自己抗体ができることによって血栓症ができやすくなり、動脈塞栓・静脈塞栓を繰り返す自己免疫疾患で、脳梗塞や肺塞栓や不育症などと関連します。反復着床障害あるいは習慣流産の原因としてよく行われる、いわゆる「不育症検査」に関連するものです。

 

当院の不育症検査は、主に抗リン脂質抗体と凝固系となっており、ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗カルジオリピンβ2GP1抗体、PE抗体、aPS/PT抗体などの「抗リン脂質抗体」と、凝固因子12因子、プロテインS、プロテインCなどとなっています。ここで注意したいのは、抗リン脂質抗体が陽性であることと、抗リン脂質抗体症候群であることは全く違うということです。

 

抗リン脂質抗体症候群は、以下のような診断基準になっています。

 

臨床所見
(1)血栓症

 画像検査や病理検査で確認が可能な動脈または静脈血栓症
(2)妊娠合併症
 2-1) 妊娠10週以降の胎児奇形のない子宮内胎児死亡
 2-2) 妊娠高血圧もしくは胎盤機能不全による妊娠34週以前の早産
 2-3) 3回以上つづけての妊娠10週以前の流産

 (ただし、母体の解剖学異常、内分泌異常、父母の染色体異常を除く)


検査基準
(3)ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体IgG、IgM、β2GP1抗体IgG、IgMのいずれかが、12週以上の間隔をおいて2回以上陽性

 

上記のうち、(1)(2)のうち1つと、(3)の最低2点を満たしたものを抗リン脂質抗体症候群と呼ぶわけです。ですから、抗リン脂質抗体が陽性というだけで血栓症もしくは妊娠合併症の既往がない場合や、あっても初期流産が1~2回の場合は抗リン脂質抗体陽性ではあるけれども、抗リン脂質抗体症候群ではないということになります。

 

 

なぜ、抗リン脂質抗体「症候群」であるかどうかが大切か理由は2つあり、1つは抗リン脂質抗体症候群は、厚生労働省が定めるところの「難治性疾患克服研究事業(調査研究対象疾患)」だということ、もう1つは、不育症で使うヘパリン治療の保険適応は、①抗リン脂質抗体症候群の不育症患者 ②アンチトロンビン欠乏症,プロテイン C 欠乏症,プロ テイン S 欠乏症の患者  に限られるためで、例えば抗カルジオリピン抗体IgGが1回陽性だが、初期流産2回以内である等の場合は、厳密にはヘパリンの保険適応の要件は満たさないのです。不育症に対するヘパリン療法を自費で行うことが大半であるのは、保険適応にあたっての条件があるからです。ヘパリンに限らず、保険か自費かについては色々と疑問点が多い方も多いと思いますが、複雑すぎるルールに加えて大人の事情が色々ありすぎて、とてもじゃないが公式的ブログには書けませんので、ヘパリンについてもここまで。

 

 

漠然とした病態があって病名がつき、そこに様々な症状が出てくる「病気」に対して、「症候群」とは、診断条件を全て満たすと自動的に〇〇症候群という、病気と症候群はベクトルが逆の概念なのが面白いですね。

 

 

症候群といえば、おなじみなのが、多のう胞性卵巣症候群(PCOS)です。皆さんよくピーコスと略しますが、私たち医師がピーコスと表現することはまずありませんのでご注意ください。私たちは、ピーシーオー、ピーシーオーエスと言います。

 

日本産科婦人科学会の診断基準では、

①月経異常・排卵障害がある
②多嚢胞性卵巣のエコー所見(片方が10~12個以上)
③血中男性ホルモンが高値、または、LHが高値かつFSHが正常

が3主徴で①~③を満たすものを多のう胞性卵巣症候群と言いましょうということになっています。意外ですが多のう胞性卵巣症候群の診断基準にAMHは入っていません。実際の診療上はAMHが高いとPCOS的な扱いをすることが多いですが、診断基準上は全く関係ない検査結果ということになります。不思議な感じですね。

 

ということでちょっと脱線しましたが、今日は、抗リン脂質抗体症候群についてお話してみました。次回もお楽しみに!