皆さんこんばんは。

 

様々な医師ブログやクリニックブログでは、しきりに「〇〇のほうが妊娠率がよい、確率がよい」という記事ばかりだが、リプロ公式は、斜に構えているので?もちろん定石は大事だけど、定石通りにだけやったってうまくいかない例に対してどう切り込むのか迫ってみたい。

 

なお、プライバシーと分かりやすさのため、似たような実例を複数ふまえてアレンジしていますが、作り話ではありませんので、こういうような方がいるよという例としてお読みください。

 

 

①クロミッドで自然周期移植

 移植には新鮮胚移植(fresh ET)と凍結融解胚移植(FET)があり、FETには、ホルモン補充周期(HRT-FET)と自然排卵周期(NC-FET)があるが、そのうちHRT-FETはホルモン剤で排卵させないようにして行う移植、NC-FETは排卵ありの移植となる。自然周期と言いながら、レトロゾールやHMGなどの排卵誘発剤を使用する場合があり、厳密にはそれらは自然周期という名前はだいぶ不正確だが、そこを分けることにほとんど意味はないので、排卵なし・ありで分類するため当院では排卵誘発剤を使用しても排卵ありのものは全てNC-FETに分類している。

 

 排卵障害がありクロミッドを内服すると排卵する患者さん、一度クロミッドで自然妊娠したことがあるが、色々あって採卵へステップアップ。HRT-FETを何回かやってもなかなか妊娠しない。過去の妊娠歴もあるので排卵周期でやりたいが、自然周期では排卵しない。レトロゾール使っても卵胞が育たない。NC-FETでクロミッド使うなんて普通しないんだけど排卵しないんだから仕方がないのでクロミッドで排卵誘発することにした。クロミッドで卵胞は育ったが今度は内膜が菲い。途中からHMG何回か打って、まだ内膜菲いので最後はプレマリンも内服して何とか内膜厚くなった。自然とは名ばかりでだいぶ薬漬けだったが、それでも妊娠された方は何人もおられる。

 

②顕微授精でうまくいかないので、体外受精と、顕微授精+卵子活性化の半々

 初回の採卵で精液所見不良にて顕微授精したがほとんど受精せず。顕微授精を行って受精しない場合は、卵子活性化(AOA)と、状況によってはpolscopeをするのが定石だが、2度目の採卵では初回より精液所見がよかったため、体外受精もためしてみようということになり、体外受精と、顕微授精+卵子活性化という両極端な方針をトライ。結果、どちらも受精はしたが体外受精のほうから良好胚盤胞が得られた。もちろん、こういうことが多いわけではないが、柔軟な思考が功を奏することもある。

 

③初期胚1個移植

 採卵して初期胚2個と胚盤胞5個凍結。最初は胚盤胞1個移植、その後2個移植、2段階移植など色々やってもうまくいかず、最後に残った初期胚1個。これどうしますとなったが、今までの治療からしたら初期胚1個移植でうまくいくかどうか微妙なところだが、やってみないとわからないので、初期胚1個移植チャレンジしてみたら見事陽性(参考:初期胚でしか妊娠しない方がいる理由)。

 

④ホルモン補充周期(HRT-FET)のP高値あれこれ

 HRT-FETは排卵しない周期であると前述したが、これは黄体ホルモン剤を始めてから5日後に胚盤胞移植(初期胚なら凍結時期により2日後あるいは3日後)するというもの。もし、移植前の診察において、採血ですでに黄体ホルモンが上昇していたら、いつから黄体ホルモンが上がったか分からないため移植日が決められず周期キャンセルする。

 でも移植前の診察でPが高かった。どうする。

 

可能性1)実はもともとPが高い。そこで月経時や採卵周期のP値を全て振り返ってみると、基本的にPが高めに出ている。こういう場合のことをPの基礎値が高い、と表現する。いつもPが高い場合は、何らかの事情でPがいつも高く見えてしまっているだけで実際に排卵したりしているわけではないと考える。このため、移植可能と判断される場合もある(注:状態によりますので注意)。

 

可能性2)「今日排卵」。移植前の診察でPが4とか5とかの場合、何日か前に排卵しているため、いつ排卵なのか厳密な特定ができないため採卵キャンセルとなるが、P基礎値高値ではないが、移植前診察でPが1.5程度の場合、Pが上がってはいるが、排卵日は実質今日ということになり、値もそれほど高くないため、今日黄体ホルモン投与を開始して、5日目に胚盤胞移植するなら移植可能。結局P高値が悪いのではなく、Pがいつ上がったのか分からないのが問題なだけなので、P上昇してもP上昇開始日が分かれば移植はできるということ。もちろん、これで妊娠される方もちゃんとおられる。

 

 

上記はよくあることでは決してないし、1つ1つの記事自体は皆様の治療に役に立つわけではない(あまり参考にしないで欲しい)。しかし、人間の体はいろいろなことが起こる。例えば移植周期にクロミッドはダメとか、初期胚は妊娠率がよくないとか、決めつけすぎると可能性の芽を摘むことになりかねない。

 

〇〇の治療はよくないとか、聞いたことがないとか、普通はしない、など否定からは何も生まれない。常に柔軟に、あらゆる可能性にアンテナを張ると奇跡につながることもある。これからの時代は、そんな全方位的な治療が重要になってくるのかもしれない。

 

 

というわけで、今日はちょっと斜に構えて、「一般的に良しとされない方法でうまくいくこともある」について語ってみました。次回もお楽しみに!

 

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