診察の現場で、よくあるご質問なのですが、どこかに書いていそうで書いていない、知りたいけど調べても分からない、そんな内容をまとめて回答するシリーズ、今夜は第4弾です。なお、個人個人の体質で治療方針は変わりますので、ご自身の方針は必ず医師に相談・確認するよう、ご注意ください。



Q16)卵巣刺激法は、アンタゴニスト法がベストの方法なのでしょうか。
A16)誰にとってもベストな卵巣刺激法はありません。卵巣刺激法は、ロング法、ショート法、アンタゴニスト法、PPOS(黄体フィードバック法)、低刺激(クロミッド、レトロゾール)、自然周期など様々なものがあり、それぞれに特徴があり、患者さん体質や周期との相性は存在します。ある方法でやったらよくなかったが、別の方法にしたら見違えるようによくなったというのは、決して珍しくありません。

採卵数やOHSSのリスク等から最もメジャーなのはアンタゴニスト法ですが、PPOS(黄体フィードバック法)は、それと同等の結果を出すことができますので、当院の二本柱はアンタゴニスト法とPPOS(黄体フィードバック法)です。ただ、それらでは結果が出ず、ショートがうまくいく方、自然周期が向いている方、低刺激でよい結果が出ることもあります。

 


Q17)顕微授精のほうが「確率が高い治療方法」なのでしょうか。
A17)以前の記事にも紹介していますが、体外受精と顕微授精は、受精率は体外受精≦顕微授精であり、胚発生は体外受精≧顕微授精とされているのは異論のないところです。体外受精で全く授精しない完全受精障害は1%程度、体外受精で受精率が25%以下の完全ではないが受精障害は約1割おられ、それ以外にも男性因子があり顕微授精を選ぶ必要がある方はおられます。それ以外の、どちらでも正常に受精する方にとっては、通常は顕微授精を積極的に選ぶ必要はありません。

 

「通常は」と書いたのは、胚発生は、体外受精≧顕微授精とされているものの、これも頻度は少ないものの、顕微授精のほうが明らかに胚発生・胚盤胞到達率がよい方が少数いらっしゃいます。中には顕微授精をしないと胚盤胞にならないと思われるような方もおられます。受精のプロセスや精子選別に至るまで体外受精と顕微授精は大きな違いがありますので、相性があるのは当然のことで、その方にとっては、顕微授精のほうが胚発生がよいことになります。受精さえすれば、誰でも体外受精のほうがよいかのような説明がネットでなされることがありますが、大筋はそれでよいのですが、厳密には正確性を欠きますのでご注意ください。

 

逆に、頻度は少ないものの、卵子の膜が弱く、体外受精では受精するが顕微授精では(piezo ICSIや非piezo ICSI (conventional ICSI)などの使い分けをしても、polscopeをしても)受精しにくい、あるいは卵が変性してしまう方もおられます。その方にとっては、体外受精のほうが受精率がよい、ということになります。色々な場合があるのですね。

 

 

Q16、17共通に言えることですが、どれほど一般的に(論文上で)良い方法とされるものでも、これらは他人のデータに過ぎませんので、自分に合うかどうかは、やってみるまで分かりません。もちろん、一般論として良いと方法される方法から試しますが、うまくかない場合は特定の方法にこだわらず、幅広い引き出しの中からベストな方法を見極めながら治療を進めるのが妊娠への近道です。

 

 

Q18)連続採卵をすると卵子が減り、しまいには卵巣が反応しなくなってしまうのでしょうか。

A18)そのような意見もありますが、必ずしも正しくありません。もともと卵子は1ヶ月1000個減少するわけですから、卵巣刺激をして、通常1個のところ10個あるいは20個卵胞が育ったとしても、それで卵子がなくなる速度が速くなるというのはおかしな話です。

大切なのは、月経中のホルモン値や卵胞数によるその周期の見極めです。当院では、次回の月経中の卵胞数やホルモン値が問題なければ連続採卵を実施することがありますが、3周期連続で採卵したら3周期目が凍結数や胚のグレードが一番よかったという方も少なくありません。

中等度以上のOHSSの翌月など卵巣腫大が残っている場合や、反応が鈍くなってきた時は1周期休んだ方がよいのですが、卵巣機能が低下している場合は、ピルなどのホルモン剤を使用すると翌周期の反応が悪くなることがありますので注意が必要です。

 

 

Q19)採卵数が多すぎると卵子の質が下がり、妊娠率が悪くなるのでしょうか。

A19)全胚凍結の場合には、刺激周期で採卵数が多い方が圧倒的に有利な状況であることが明らかにされています。重症OHSSのリスクを圧してまで卵巣刺激を加えるべきではなく、安全が担保できる範囲内でというのが大前提ですが、卵子がたくさん取れるに越したことはありません。

 

 

Q20)こんなに頑張っているのに結果が出ません。これ以上どう頑張ったらよいのでしょうか。

A20)過ぎたるは猶及ばざるが如し、といいます。頑張り過ぎは、自分や周囲を精神的に追い詰める原因になることがあります。必要なことはきちんとやり、検査や治療法を尽くした上であれば、あとは「人事を尽くして天命を待つ」の心境で達観することも大切です。ふわっと気持ちがゆるんだ時に妊娠するという方は、決して少なくありません。難しいのですが、ほどよく頑張る、ということが大切です。

 

 

よくある質問①

 Q1)自然妊娠をしたことがあるので、着床の窓はずれていないと思いますが?

 Q2)体外受精をする上では、卵管は閉塞したままで大丈夫ですか?初期胚の移植でも大丈夫ですか?

 Q3)出産あるいは流産後、なかなか妊娠しません。慢性子宮内膜炎検査は受けるべきですか。

 Q4)まだ、タイミング・もしくは人工授精の治療中です。オプション検査は早めに受けておいた方がよいでしょうか。

 Q5)連続採卵はやめたほうがよいのでしょうか。

 Q6)着床の窓の検査と、慢性子宮内膜炎検査と、子宮収縮検査は同一周期に実施可能ですか?

よくある質問②

 Q7)採卵周期中に出血がありました。生理でしょうか、大丈夫でしょうか

 Q8)閉経が近いのでしょうか

 Q9)凍結胚移植で、凍結時4AAから融解後(移植時)には3AAに「悪く」なっていました。なぜでしょうか

 Q10)採卵をして、胚盤胞が2個と初期胚1個が凍結できました。次は移植がよいでしょうか、もう少し採卵したほうがよいでしょうか

よくある質問③

 Q11)ホルモン補充周期で妊娠歴あり。前回は、D20で移植したので今回もD20で移植したほうがよいのでしょうか、D19で移植したら着床の窓はずれてしまうのでしょうか。

 Q12)胚盤胞のほうが妊娠率が高いのに、初期胚でも凍結することを提案されましたが、なぜでしょうか。

 Q13)40代や卵子の数が少ない場合は、初期胚がよいのでしょうか。

 Q14)妊活中や特に胚移植後は、安静にしてお姫様生活を送った方がよいのでしょうか。

 Q15)FSHが100以上あります。妊娠の可能性はもうないのでしょうか。