改正行政不服審査法(以下、「行審法」と略します。)は、附則6条において、「政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」としておりまして、5年の見直し検討の時期が近づいています。

 

茨城会の鎌田さんと年始に話して提言書作りましたので、関係される方、その他お気づきの点あれば教えていただければと思います。

 

 

 

 

1.裁決書等の公表について

【見直し事項】

総務省行政不服審査裁決答申データベース上に裁決や審理員意見書を登載(公表)すべき。

 

 総務省行政不服審査裁決答申データベース(以下、「裁決・答申データベース」と略す。)には、答申書が公表されているにもかかわらず、裁決書は公表されていない事例(特に、総務省行政不服審査会(国)が答申した事例)が多く見受けられる。

この点、見直し方針2013年「5.その他」において、不服申立ての手続、不服申立ての処理状況等に関する情報の提供については、必要な措置を講ずるよう努めることについて更に検討を進めるとしており、「行政不服審査制度の運用状況について国民に対する説明責任を果たすとともに、その透明性を高め、行政(の自己反省機能)に対する国民の信頼を確保する観点から、審査庁は、裁決の内容その他の不服申立ての処理状況を公表するなど適切な措置を講ずることが適当と考えられる。ただし、裁決書を一律に公開することは、個人情報、法人情報等との関係や行政の事務負担の問題もあることから、適当ではないと考えられる。」としていた。また、行審法においても、答申書の送付・公表については「審査会は、諮問に対する答申をしたときは、答申書の写しを審査請求人及び参加人に送付するとともに、答申の内容を公表するものとする。」としているが(行審法79条)、裁決等の公表については、「不服申立てにつき裁決等をする権限を有する行政庁は、当該行政庁がした裁決等の内容その他当該行政庁における不服申立ての処理状況について公表するよう努めなければならない。」としており(行審法85条)、裁決の公表は努力義務にとどまる。

 しかしながら、行政不服審査会へ諮問した場合、答申が公開されているにもかかわらず裁決が公開されていなければ、審査庁が答申に沿った裁決を行ったか不明である。また、国民や代理人としては、裁決がデータベース上に登載されていない場合、情報公開制度により文書開示請求によって取得するしかなく、裁決・答申データベースの利活用がままならない。

 行審法の趣旨を鑑みれば、裁決の公表は国民に対する説明責任を果たすとともに、透明性を高め、国民の権利義務の適切な救済にも資すると思われる。したがって、運用面で裁決の公表がままならないのであれば、公開を法的義務にする等の検討をすべきである。

なお、審理員意見書(行審法42条1項)についても同様に公表すべきであると思われる。特に、審理員がどのように事実認定を行ったのか答申書・裁決書では詳細に記載されていない事例もあり 、かかる判断が妥当であった否かを検討するうえでも、裁決書のほか審理員意見書を公表する運用が求められる。

 

 2.審査請求手続のデジタル化

【見直し事項】

 審査請求手続を原則オンラインで行い、口頭意見陳述においてもビデオ審理を可能にすべき

 

ポストコロナ下において、行政府のデジタル化の推進は喫緊の課題とされるところ、行政不服申立てに関してもデジタル化を加速させることが国民の権利利益の救済につながる。

イギリスにおいて、審判所(審査庁)のデジタル化が現在推し進められているが、その先駆になったものが交通反則金審判所である。審査請求および証拠はオンラインで提出され、すべての当事者はオンラインで提出された証拠を考察し、それにコメントする仕組みとなっている。書面は存在せず、書面審理に基づく従来の審査過程と比較しても、迅速かつ効率的なものとなっており、交通反則金の事件の準備に2時間~半日費やしていた時間が、現在20分程度で処理ができる。

また、オンラインでの審査請求が困難な者を援助する仕組みも構築されており、コールセンター等が配備されている。

我が国の行政不服申立の状況は、総務省行政管理局「平成 30 年度における行政不服審査法等の施行状況に関する調査結果―国における状 況―」(令和 2 年 8 月)によれば、同年度に処理が完了した審査請求 19,669 件のうち、 裁決まで 1 年以内 が16,774 件(85.3%)であり、 1 年超 2,895 件(14.7%)(うち 2 年超 453 件(2.3%))となっており、簡易迅速な手続が期待される行政不服申立てにおいて、オンラインでの審理が可能にすることで、相当程度の時間とコストの削減につながるはずである。

また、遠隔地の居住者や高齢者等の利便を考慮し、口頭意見陳述のビデオ審理の採用をすることで、広く国民にとって利用しやすい制度とすべきである。

さらに、一つのポータルサイトあるいはダッシュボード上に、原処分、審査請求書、処分庁の弁明書、反論書、口頭意見陳述(ビデオ)の記録、審理員意見書、審査会の答申、裁決がアップロードされていれば、利便性、スピード、柔軟性が向上されることになり、行政手続のデジタル化とともに行政不服審査のデジタル化についても環境整備すべきであると考える。

 

3.審査請求(不服申立)期間について

【見直し事項】

審査請求(不服申立)期間については、既存の3か月ではなく、それ以上の期間延長に設定することも検討すべき。

 

 旧法の主観的審査請求期間60日を3カ月に変更するにあたり、「行政不服審査制度の見直し方針」(総務省平成25年6月)では、審査請求については、①裁決の後で訴訟を準備する期間は確保されていること、②審査請求準備の相対的な(訴訟と比較して)容易さ、③不服申立期間の長期化が必ずしも審査請求人の利益になるとはいえないこと、④補正の余地等に照らせば、不服申立期間は3カ月が相当であるとされていたが、国民にとって審査請求制度は必ずしも容易ではなく、また複雑な事案の準備や、準備段階に処分庁の保有する情報について公開請求等をすることを考慮すると、3カ月という期間は十分ではない。

取消訴訟の出訴期間と同様に、処分の効果を早期に確定させ行政上の法律関係の安定を図る趣旨であれば、出訴期間と同様に6カ月とするべきである。

 

4.標準審理期間の検討

【見直し事項】

 標準審理期間の設定は原則として法的義務とし、また、できるだけ具体的に期間に設定するべき。

 

 標準審理期間の設定は、審査庁となるべき行政庁の努力義務とされている。審理の対象は、申請に対する処分のほか申請に基づかない処分をも対象とし、また、審理の内容についても単純なものから複雑なものまで多種多様であることから、一律的な設定が困難な場合があり得るため、努力義務とされている(行審法16条)。

 しかしながら、標準審理期間の設定を努力義務とするのは、処分の性質上標準審理期間の作成が困難なものがあることに配慮したためであるから、かかる事情がないにもかかわらず、努力義務であることを奇貨として標準審理期間の作成を懈怠すべきでない(この点につき、小早川光郎=高橋滋『条解行政不服審査法(第2版)』(弘文堂、2020年)189頁)。また、5年後見直しにおいて、審査請求の処理状況について統計が集積されており、各々の処分の実態に即した標準審理期間を設定することが可能であると思われる。さらには、一律に審査請求期間を設定している自治体が多いが、それぞれの分野において、具体的に標準審理期間を設定する方が、行審法の目的である簡易迅速性に資すると思われる。

 したがって、標準審理期間の設定は原則として法的義務とし、また、できるだけ具体的な期間に設定するべきである。

 なお、早期に裁決が行われるべき分野(たとえば、生活保護などの福祉分野)については、設定した標準審理期間に捉われることなく、迅速かつ公正な審理の実現を図るべき運用が求められる。

 

5.都道府県公安委員会に対する審査請求に係る審理員制度の適用除外と審査請求手続について

【見直し事項】

 都道府県公安委員会に対する審査請求手続について、別途例規等で審査請求手続の規則を定めている都道府県公安委員会と、定めていない都道府県公安委員会が見受けられる。都道府県公安委員会ごとに、制度上審査請求手続における手続保障の差が出てしまうのは問題であり、改善が求められる。

 

行審法は、審理の公正性及び透明性を高めることにより、審査請求人の手続的権利を保障するとともに、従前以上に行政の自己反省機能を高め、国民の権利利益の救済及び行政の適正な運営を確保するために、審理手続に関しては、処分に関与していない(いわゆる「職能分離」)など一定の要件を満たす「審理員」が審理主宰者となり、審理手続を行うものとされる(行審法9条1項)。もっとも、都道府県公安委員会等の合議制機関については、手続の公正性が最終的に担保されることを理由に、審理員制度の適用が除外されているところである(行審法9条1項3号、地方自治法138条の4・1項、3項)。

この点、行審法の趣旨を踏まえれば、審理関係人からの主張の整理等を行う審理主宰者についても、処分に関与していない職員等を指名することが適当である。したがって、多くの都道府県公安委員会については、審理員制度と同様の水準で審理主宰者(多くは、国家公安委員会審査請求手続規則(平成28年国家公安委員会規則第1号)に倣い「審理官」としていることが多く見受けられる。)を例規等(以下、単に「審査請求手続規則等」と略す。)で定めていることが多い。

 しかしながら、このような審査請求手続規則等は都道府県公安委員会ごとに定めている場合とそうでない場合が見受けられる。審査請求手続において、都道府県公安委員会ごとに、制度上手続保障の差が出てしまうのは問題である。行政不服審査制度において客観性・公正性を高める必要性については、国・地方で異なるものではない。したがって、都道府県公安委員会における審査請求手続については、例規等の統一などの改善が求められる。

 なお、本件については、都道府県公安委員会のそれぞれの実情を踏まえて検討されるべきものであり、「5年後見直し」とは必ずしも趣旨・目的を同じくするものではない旨が指摘される可能性があるところ、都道府県公安委員会に係る審査請求については、審理員制度についてのみ適用除外となるものであって、行審法全体が適用除外となるわけではない。審理の公正性を確保することを目的とする以上、行政不服審査制度の見直しの一環として検討する必要があることから、5年後見直しにおいても検討される事項である旨を併せて申し添える。