骨
画家の頭が
骨を
舐めさせるのだ。
唇から差し込んだ
舌先が
まず触れるのは
硬い歯で
ながいこと
人のかたちを
骨格で
捕らえてきた画家は
詩人の唇の中に
味のない
骨のかけらをさぐり
ほっと息をつく。
甘いことばに
取り乱すべきじゃなかった。
お前に
特別なところなどない。
ただわたしはいつものように
対象を確かめたいだけだ。
詩人は黙っている。
黙って画家に舐めさせる。
ながいこと
人の表情を
筋肉で
捕らえてきた画家は
詩人の唇から
ほほの上に
まぶたの上にまで
舌をはわせ笑顔をなぞる。
いつもしてきたようにする。
視覚と同じように触覚でつかむ。
詩人は微笑み
こっそりと読み続けた。
忘れないで。
触れることは
同時に
触れられること。
舌はどちらにも甘く暖かかった。
諏訪敦さんの絵が好きで
画集「どうせなにもみえない」を思いながら
勝手にこれを書きました。
私の好きな角田光代さんの
「かなたの子」の装丁に
諏訪さんの絵が使われたのを知り
また嬉しくなったり。
今月、角田光代さんに
小説の講座で私のとても短い小説を
読んでもらえそうです。
楽しみですが、緊張します。