紫陽花 | ひより軒・恋愛茶漬け
2005-06-13

紫陽花

テーマ:オモイデの輪郭

紫陽花

幼かったから

想いは

軽かったのだろうか。


「お兄ちゃんのお嫁さんになる。」


幼かったけど

願いは

確かにあった。


時々訪ねた

この優しく話すヒトのそばに

ずっといたいという願いが。


「紫陽花を見たい?」


お兄ちゃんとなら

なんだって見たいよ。


縁側から

サンダルを突っかけて

雨の庭におりると


手をつないだ

まだ小さい私が濡れないように


お兄ちゃんは腰をかがめて

一つしかない赤い傘を

そっと、

私の上にさしかけてくれる。


つま先を濡らして

庭の奥に導かれれば


大きな紫陽花が

明るい色を放ちながら

幾つも咲き誇っていた。


「きれいだね。」


雨は細く降り続いていて

お兄ちゃんと私は

そこにしゃがみこんで

赤い傘の下でピタリと寄り添って。


お母さん達のおしゃべりは

ずっと遠い。

もう聞こえない。


半袖から伸びた

汗ばんだ二の腕が

触れ合っている。


土の匂いが

緑の匂いと混ざる。


「お兄ちゃんのお嫁さんになりたい。」


足元の水溜りに目を落として

そう言うと


お兄ちゃんは

腰に下げた植木バサミをとって

ぱちんと

ピンクの紫陽花を切った。


両手で受け取る

ピンクのブーケ。


「本当のお嫁さんみたい。」


嬉しくて

微笑みながら見上げると

笑い返すお兄ちゃんの肌が

あまりにも白くて

ドキドキする。


幼くて


儚い(はかない)というコトバは

知らなかったけれど

消えゆくものの美しさは分かった。


そっと交わされた誓いのキス。


それから

お兄ちゃんは

会えないところへ行ってしまい


守られなかった誓いの記憶だけが

今年も

雨の景色の中で

鮮やかな花をつける。




雨の日の散歩が好きです。



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