故 炭粉良三氏が辿り着いた合気の世界。彼は己が世界を零式(れいしき)と名付けた。
己の存在も、力も技も不要。ただあるがままの、何者にも縛られる事の無い状態。そこには一部の「我」すら存在してはならない。故に零(れい)。
零式は医武同源。手を当てるだけで病をも癒すと言う。
かつて炭粉氏が零式を後継に伝える為に、幾名かの希望者を各流派から募り、求道者に零式の基礎を伝授しようと試みた。
勿論私も参加者の一人だった。
その後、氏から出版が叶わなかった、とある原稿を頂いた。
そこには零式を体得する迄の、戦慄が走るが如き苦闘の記録全てが記されていた。
また、零式後継者のもう一人であるK先輩から、外部開示厳禁の動画を授かった。勿論、炭粉氏の許可が有っての事だ。
動画には、顔面有りの殴り合いの中、静かに零式が産声を上げた瞬間が捉えられていた。
零式は実戦の合気であった。
そこには武道家として、空手に一生を捧げた男の集大成とも呼ぶべき世界があった。
宮本武蔵 二天一流の世界が。
いつかあの世で再会する際は、笑顔で私達の話を聞いて下さい。
共に酒を酌み交わしながら…
またお会いするその日まで。
合掌
鎮魂 完