②日銀のバランスシートも貨幣発行の記録にすぎない

 

 日銀のバランスシートも「貨幣発行」に関するメモ書きにすぎません。前出の政府のバランスシートは平成21年度のものを転載しましたので、日銀のバランスシートも平成21年度のものを転載します。

【日銀のバランスシート】平成21年度

【貸方】(負債の部)発行銀行券77.4兆円、当座預金等23.5兆円、政府預金3.0兆円、売現先勘定11.7兆円、退職給与引当金0.2兆円、債券取引損失引当金2.2兆円、外国為替等取引損失引当金0.8兆円、負債の部合計118.8兆円、(純資産の部)法定準備金2.6兆円、当期剰余金0.4兆円、純資産の部合計3.0兆円

合計 121.8兆円

【借方】(資産の部)金地金0.4兆円、現金0.3兆円、買現先勘定5.0兆円、国債73.1兆円、社債0.2兆円、金銭の信託(信託財産株式)1.4兆円、貸出金35.8兆円、外国為替5.0兆円、有形固定資産0.2兆円、その他資産0.4兆円

合計121.8兆円

 退職給与引当金、債券取引損失引当金、外国為替等取引損失引当金はいずれも予定金で、必ずしも現在時点で負債勘定に上げなくても良いものですが、ここでは内部規則で挙げられているものです。

 日銀の【貸方】(負債の部)の「発行銀行券」とは通貨発行という行為を表しています。「発行銀行券」では何かの「券」という物理的存在が想像され、誤解の元になっているようなので、「銀行券発行」と名称を変えて、行為であることが明確となる表示に変えるべきでしょう。そして、それは負債の部に置かれるべきではありません。なぜなら、それを負債と呼ぶことは事実と異なるからです。

 一般的に、企業の貸借対照表の【貸方】には、(負債の部)として、他人からの借入金または未払金が表され、(純資産の部)として、資本金および純利益の今年度までの累計が表されています。

 これに対して、日銀の貸借対照表の【貸方】では、(純資産の部)として、まず法定準備金がありますが、これは、日銀法で定められている企業としての日銀自身の積立金です。当期剰余金は、いわゆる日銀の純利益のことで、純利益は国民の財産として政府の当座預金に納付されす。だから、日銀に累積剰余金とか内部留保金とかいう概念はありません。

 (負債の部)として、金融機関から預かった準備預金(当座預金)および未払金が表されていると共に、貨幣発行残高である「発行銀行券」が表されています。

 「発行銀行券」が、金本位制が廃止され、管理通貨制度となった現在においては誰にも負債を負わないのに(負債の部)におかれていることは、多くの経済学者によっても、疑問のあるものと指摘されています。

 日銀における【貸方】(負債の部)の「発行銀行券」という通貨発行行為に対して、【借方】(資産の部)に通貨発行行為で生まれた「現金」が発生します。

 それは、その「現金」が「通貨発行」という行為によって生まれたことを言い表すためです。

 そこで生まれた現金は通常ただちに、国債を買ったり、金融機関に貸し出したりされ、借方の資産は現金という物的資産(所有権)から債権資産に変化します。

 「通貨発行」を融資の財源とすることは他の金融機関にはあり得ないものです。

 他の金融機関では、信用創造の仕組みにおいて、一般企業や個人からの預金という負債がスタートなのですが、日銀では「発行銀行券」(通貨発行)という無から生まれた資産がスタートになります。

 日銀が金融機関から国債を買い取り、金融機関に現金が引き渡された後、金融機関は国債の売却代金を日銀に開設している当座預金口座に預金します。(実務としては、日銀が国債の売買代金を当座預金口座に振込み、金融機関はそれをそのまま保有することになります。)

 貨幣が金融機関から日銀に預けられた場合に、日銀のバランスシートの【貸方】(負債の部)に預かり当座預金という負債が生まれ、【借方】(資産の部)に現金が生まれますが、これは、「通貨発行」とは別の預かり業務の結果です。

 日銀では「通貨発行」がスタートなのですが、「通貨発行」は日銀のバランスシートでは【貸方】(負債の部)に「発行銀行券」と表現されます。しかし、あくまで、貸方の負債の部にあるとはいえ、これは貨幣を発行したという行為を表すだけで、外部から借りて来たということではありません。

 これは、返済義務(他の異なる形式の資産との交換義務)がないことから、(負債の部)ではなく、(純資産の部)に置くことが妥当です。

 そして、また、何らの返済義務(他の異なる形式の資産との交換義務)もないからには、日本銀行券つまり通貨を、日銀の発行した借用書と呼ぶことは出来ません。

 負債かどうかの判定は、他の資産をもって行う返済義務があるのかどうかにかかっており、返済義務が無いのなら、負債の定義に合いません

 返済義務が無いものについて、「返済義務の無い負債」と言うことは定義の変更に他なりません。定義を変更してまで、政府発行通貨を負債にするのは意図が分かりません。

 今まで「発行銀行券」すなわち「貨幣発行」が【貸方】負債の部に置かれて来た事情はハッキリしています。

 それは金本位制の時代に遡ります。金本位制の頃は、本位貨幣は金(gold)であり、紙幣は金(gold)の預り証であったのですから、紙幣発行者は、紙幣保有者に対して金(gold)をもって返済すべき義務がありました。よって、紙幣は正真正銘の借用書でした。

 すなわち、金本位制の頃は、まず、最初に、日銀の金庫に金(gold)がありました。この金(gold)は、政府自身か大資本かの誰かが持ち寄ったものです。この、最初に金(gold)があったということを貸借対照表にあらわすと(第一の勘定)、

【貸方】純資産の部)純資産〇〇円

【借方】資産の部)金(gold)〇〇円

となります。そこで、金(gold)を担保に紙幣を発行したとすると、これに次のような第二の勘定が追加されます。

【貸方】負債の部)兌換紙幣発行〇〇円(※または兌換紙幣の保有者に金(gold)を返済すべき債務)

【借方】資産の部)兌換紙幣〇〇円

 現在の日銀において、貨幣発行行為が負債の部に置かれている理由は、金本位制度が廃止され、管理通貨制度になったときに、第一の勘定が廃止されたにも関わらず、第二の勘定だけが残されたからです。

 なぜ。貨幣発行が純資産の部に置き換えられていないかというと、金本位制を復活させようとする勢力が、通貨発行行為を純資産の部に置き換えることに反対しからで

 しかし、これに対して、いまだに通貨発行行為が負債の部に残されたままであることは、安易な政治的妥協(保身的尻込み)を行った政治家たちや経済学者たちの怠惰と言うしかありません。この怠惰は卑怯でさえあります。

 現在は金本位制から脱出して、管理通貨制度になっていますから、もはや、通貨が終着点であり、通貨を何にも交換義務はなく、したがって通貨に負債性はなくなりました

 冒頭に例として挙げた平成21年度の日銀のバランスシートにおける貨幣の流れを見ると、以下のようになります。(通貨発行はまだ負債の部に置かれたままです。)

 まず、日銀が77.4兆円の貨幣発行を行います。この会計処理は、【貸方】(負債の部)に「発行銀行券」(通貨発行)を立て、【借方】(資産の部)に「現金」を立てます。

 この「現金」は、もともと日銀の主人たる日本政府のものですから、日本政府にポンと渡せば済む話です。

 ところが、日本には日本銀行法があり、ポンと渡せば済む話ではなくなっています。政府は、まず、国債を発行して民間の金融機関等に買い取らせて、現金を手に入れなければなりません。つまり、一旦は現金を民間から借りるという形式が採られるわけです。

 その後、日銀が金融機関等から、金融緩和によってその国債を買い入れ、金融機関に自ら発行した現金を支払い、金融機関の現金を元に戻します。その手順を踏んで、ようやく、日銀は、日銀の資産である「現金」を、遠回りをして政府に引き渡すことが出来ると言う仕組みです。

 もちろん、日銀が金融機関等から国債を買い入れないでそのまま金融機関が国債を保有にしておくという選択もあります。つまり、金融緩和しないでおくという選択です。

 通常は、税収を使いまわしているかのような会計処理が行われ、日銀から政府への通貨の引渡しもなく、政府支出が日銀の通貨発行を伴っていないかのように装われています。

 しかし、原理としては、一々、日銀から政府への通貨の引渡しが行われ、税収については、政府から日銀への通貨の引渡しが行われているのです。

 こうして、日銀は過去から現在まで、通貨の発行と回収を繰り返し、平成21年現在、差し引きを累積して、77.4兆円の貨幣を発行しました。

 このときのバランスシートは、【貸方】(負債の部)に「銀行券発行」77.4兆円、【借方】(資産の部)に現金77.4兆円です。

 その貨幣を金融機関に引渡し、代わりに、例えば、金融機関等から国債73.1兆円分および外国為替4.3兆円の引渡しを受けています。このとき引渡しを受けるものは引渡しの証でさえあれば、国債でも、外貨でも、金や銀でも、とんでもないガラクタでも何でも構いません。資産でなくても、贈与でも構いません。

 この場合、日銀のバランスシートの【貸方】(負債の部)に「銀行券発行」77.4兆円、【借方】(資産の部)に例えば「国債」73.1兆円と「外国為替」の内4.3兆円が立てられます。

 日銀が民間金融機関や、回り回って政府に現金を渡すまでを通貨発行者の役割とすれば、日銀の仕事はここまでとすることも出来ます。

 これを日銀の最初のアクションとし、以下、その機能を第一部門【通貨発行部門】と呼ぶことにします。

 その後、政府や金融機関との間の貨幣のやり取りは、貨幣の発行を伴わない貸借が繰り返して行われます。

 このやりとりは日銀の第二のアクションとし、以下、その機能を第二部門【通貨貸借部門】と呼ぶことにします。

 日銀と、政府や金融機関との間の通貨のやり取りとは、つまり、政府や金融機関が日銀に預け、日銀が預かることを指します。預かる行為は、通貨発行とは全く別の独立した行為です。

 日銀に開設している、政府や金融機関の当座預金の金額は、貨幣発行権とは別要因、例えば、金融機関が自らの金庫に保管しておき、当座預金に預けようとしない場合の意思も関係するものであり、必ずしも通貨発行の必然ではありません。

 ただし、金融緩和における、通貨発行という第一のアクションと、金融機関が日銀に通貨を預けるという第二のアクションは同時に行われます。(金融機関が自らの金庫に現金を保管する場合を除く)。

 金融機関の信用創造の仕組みとして預かった通貨を利用して融資を繰り返すのと同様に、日銀も預かった通貨を利用して国債の買取りを行いますから、【借方】(資産の部)に現金は極めて小額しか残りません。

 例えば、日銀が金融政策を行おうとして、まず、100万円の現金を発行します。日銀は金融機関Aから国債100万円分を買い取り、金融機関Aはその代金の現金100万円を日銀に開設している当座預金に預けます。それによって、日銀の手元に現金100万円が戻ることになります。

 日銀はその戻って来た現金100万円で、今度は、金融機関Bから100万円分の国債を買い入れます。金融機関Bは、また、その代金の現金100万円を日銀に預けます。

 この時点で、何が起こっているかというと、日銀が発行した現金は100万円、買い取った国債は200万円分です。

 金融機関は、保有する国債が200万円分減り、金融機関の日銀当座預金に保有する預金は200万円に増えました。

 そして、日銀当座預金には金融機関Aに対応する100万円の現金は金融機関Bの国債買い取りに使いまわされていますから残っておらず、金融機関Bの預金として(金融機関Bからの預り金として)現金100万円だけが日銀の手元に残っていることになります。

 そして、日銀は、金融機関Bからの預り金の現金100万円を、なんと、最初の通貨発行行為(発行銀行券という名称)と相殺し、資産の部の現金100万円を消し去ります。

 そして、再び、金融機関から国債を買い取る必要が出来たときに、改めて、通貨発行を行い、100万円を創り出し、(または、通貨発行行為100万円と資産の部の100万円を復活させ)、金融機関から国債を買い取るのです。

 このようにして、日銀の保有国債は増え続け、当座預金も増え続けます。

 しかし、当座預金が増えているからには、(預かったものは原型で保有しておくと言う一般常識に照らし合わせると)日銀の保持する現金も増えていなければならないはずですが、信用創造に似た方法で、通貨発行行為と預り金との相殺を行い、そこに至るまでの手順や関係性が判りにくくなっているのです。

 金融機関が当座預金から現金を引き出そうとしたときに、保持する現金が無くては困りますが、正に、金融機関が当座預金から現金を引き出そうとするときに、日銀は通貨発行行為によって資産の部の現金を復活させ、金融機関からの払い出し請求に応じます。

 そのときに、日銀は改めて【貸方】(負債の部)の「発行銀行券」を増やします。

 しかしこれは、現金を使いまわして国債を買い取ったときに、使いまわすことなく、本来その都度「発行銀行券」を増大させて国債を買い取るべきだったものを、その先送りされた貨幣発行行為が遅ればせながら実施されたということです。(なぜなら、本来においては、預かったものはそのまま現金の形で保持していなければならないはずだからです。)

 このような日銀の信用創造は、金融機関の預金の信用が担保または金融機関自身の信用に基づいているように、通貨発行権という信用に基づいて行われています。

 普通の企業なら、借りたものは、返すべきときに返すことが出来なければ倒産してしまいます。相手方もそれが心配ですから、担保や保証人を取ります。

 日銀もまた、自由に、日銀は他の誰にも頼ることなく、自ら、通貨を生み出す能力を持っていなければ、この相殺は決して出来ないのですが、日銀(厳密に言えば中央政府)はその通貨発行の能力を持っています。

 通貨を発行する時は物価を気にしなければなりませんが、物価という結果についても、他の誰からも制約を受けることなく、政府が自由に操作することが出来るのですから、「政府の通貨発行権は物価から制約を受ける」などという約束どこにも存在しません。

 政府自らがあえて選択した政策としての「物価」が存在するだけです。

 通貨発行権の行使の留保を繰り返し、「現金」の量を最小限に抑えた結果、現在の日銀のバランスシートが出来上がっているのです。

 つまり、【貸方】に(見えている部分だけで言えば、第一部門として、貨幣発行行為で生み出した「発行銀行券」が77.4兆円(預り金の結果としての現金資産と相殺出来なかったもの)、および、第二部門として、預り行為で出来た当座預金が44.4兆円ということになります。【借方】にそれで買ったものが列記されているのです。

 第二部門の【貸方】(負債の部)の預かり当座預金は「預り金」にすぎず、【借方】(資産の部)にその「資産」がありますから、「資産」で「預り金」を返してしまえば第二部門はチャラとなり、バランスシートで問題とされる収支の記録は、第一部門の貨幣発行の記録だけとなります。

 以上の通り第二部門を清算してしまえば、日銀の保有する国債その他の資産は、日銀にとっては、すべて純資産であり、貸方に存在するものは貨幣発行記録にすぎないことが解ります。

 付け加えれば、日銀にとって借方に存在する資産の価値などはどうでも良いものです。日銀のバランスシートが黒字になろうが赤字になろうがどうでも良いことです。

 なぜなら、日銀が資産を活用するときは、市場から貨幣を回収する金融緊縮(売りオペ)のとき以外にありませんが、日銀のそれらの資産が無くなったとしても、市場から貨幣を回収する手段は、政府が税収を増やしたり、国債を発行して民間に売り付けたりするなどいろいろな方法があり、何も心配する必要はないからです。

 

 

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