前立腺がんや乳がん治療後の

認知機能低下に関する研究について。



「前立腺がんに比べ若年での発症例が多い乳がんでも,

化学療法後に生じる永続性の認知機能の低下でQOLが

悪化する副作用「ケモブレイン(chemo brain)」の詳細を解明するための研究が進んでいる。



米・University of Texas MD Anderson Cancer Centerの

Shelli R. Kesler氏らは,乳がんサバイバーを対象とした

後ろ向き解析で,治療レジメンにより認知機能への

影響が異なることを報告したJAMA Oncol 2015年12月3日オンライン版 )。



2008~14年にStanford Universityで診療を受け,

治療終了から2年以上経過した初発乳がんのサバイバー62例

(平均年齢54.7歳,SD8.5歳)について,認知機能検査と

安静時機能的MRIによる頭部画像を評価。

アンスラサイクリン群(20例),非アンスラサイクリン系薬による

化学療法を受けた群(19例)ならびに

非化学療法群(23例)の3群での比較が行われた。


アンスラサイクリン群では他の2群に比べ,

即時再生や遅延再生の有意な低下,

左大脳半球の楔前部の機能的結合性の有意な低下が見られた。

また,アンスラサイクリン群と非アンスラサイクリン群では

非化学療法群に比べ,患者報告に基づく認知機能不全,

精神心理的ストレスの有意な悪化が認められた。

同報告では,レジメンによる悪化の程度に差はなかった。


同氏らは「アンスラサイクリン系薬によるレジメンは

その他の化学療法および非化学療法に比べ,

特に認知ドメインおよび脳機能ネットワークに

悪影響を及ぼしていることが示唆された」と結論。


また,レジメンにかかわらず,化学療法により非特異的な

認知機能への影響が及んでいる可能性があると述べた。



米・Indiana University School of MedicineのKelly NH. Nudelman氏らは

付随論評(JAMA Oncol 2015年12月3日オンライン版 )で既に

化学療法と認知機能低下の関連は示されているが,

脳の機能的結合性にレジメンによる差があることを示した研究は

あまりなかったと評価。


今後,大規模な前向き研究により遺伝子による治療の影響の違い

など,より精密な個別化治療につながる検討が必要と展望した。

ケモブレイン,どこまで解明?

ケモブレインの原因,あるいは脳腫瘍を除くどのような

がん種に起こりやすいかは,まだ十分明らかになっていない。


一部の化学療法薬の神経毒性が関連すると考えられている他,

動物実験レベルでは血液脳関門を通過し,

脳細胞に障害を与えた薬剤に関する報告もある。


また,乳がんなどではホルモンの変化に伴う免疫不全や

微小梗塞といった要因も挙げられている。


この他にも,頭部外傷やうつ病学習障害などの

既往がケモブレインのリスク上昇に関連する可能性もあるそうだ。


現時点では,ケモブレインと疑われた場合には,

神経内科医や神経腫瘍医の受診が勧められている」


(参考:American Academy of Neurology発行の患者向け冊子 Neurology Now 2014; 10: 20-27)。