今日はちょっと小耳に挟んだ興味深い話をひとつ。
何系の人かわからないんですが、ちょっと浅黒い肌のアメリカ人の若者と知り合いになりました。
彼は３ヶ月かけてかねてから行きたいと思っていた国や街を旅してまわったそうです。
ニューヨークにももちろん立ち寄り、南米に行ったりマレーシアに行ったり、日本にもちょいと立ち寄ったそうですが、「どこの国が一番よかった？」と訊くと
「うーん。よかったっていうか、なんといっても興味深かったのは北朝鮮だなあ」
へえっ。北朝鮮に行ったの！？
と私がびっくり仰天すると、
「北朝鮮は、直に行ってみないと絶対にわからない国だよ。マスコミやなんかで報道されている様子もまた真実ではあるんだろうけど、とにかく行ってみない事には全然わからない素晴らしいところがいっぱいだよ！」
へえー。どんなだった？
「まず人々が素晴らしいんだ。いや。親切とかそういうことだけじゃなくて、ユーモラスでねえ」
へええええっ。たとえば？
「南北の国境に行った時なんだけどね。韓国側からも国境線まで行ったことがあるんだけど、韓国軍の兵士達は本当にシリアスでちょっとこわくて、僕たち観光客に『一列に並んで！写真撮影は、よしと言うまで一切禁止！私語はだめ。笑ってもだめ！指を指してはいけない！』と細かい指示を出してきてね。よしと言われたら決められた角度で決められた場所だけを撮影して、一瞬で終わり。ところが北朝鮮側の国境ときたら、兵士達もタバコをすったり物を食べたり飲み物を飲みながらずいぶん気楽そうでね。『南に向かって中指を立ててもいいよう。ほれファッキュー』なんて言ってみんなで大笑いしたり。思いがけないぐらい気さくな人たちばかりだったよ」
へええええええええええええええ～～～。
「でも、宿泊や食事やショッピングは、全て時間も場所も決められた通りにしか動けなくて、ショップもレストランも看板の類いは一切無くてね。黙って連れて行かれた場所は、普通のビルディングなんだけど、中に入るとショップだったりレストランだったりしたんだ。
食事はひどくまずかった。何もかも冷たいものばかりで味もあまり良くなくてね。でもたった一度だけ、これは美味しいなあと思う暖かいスープが出てきたんだよね」
ほうほう。
「ビーフシチューかなと思って食べていたんだけど、ちょっと味が違うから『コレとっても美味しいけど何の肉？』って訊いたら、ガイドさんが『ワンワン！』って…」
ぐえええええええっっっっっっっっっ！！！！！！
ぐええぐええぐえぐえぐええええええええええええええええええっっっっっっっっっ！！！
「食べ終わるまで訊かなければよかったよ」
いやそういう問題じゃないだろうっ！！！
「それを訊いてすっかり食欲が無くなって…」
だからそういう問題じゃないだろうってばっっ！！
私が受けた衝撃をよそに、語り続ける彼。
「北朝鮮は貧しい国なんだけど、でもとても美しかったよ。国を閉ざしているせいで、西洋文化に侵されていなくて、とても伝統的で、何もかもが切ないぐらいはかなくて美しかった。国民は西洋文化に憧れて、早く国を開いて豊かになりたいと思っているようだったけど、ひとたび西洋化してしまうと、もう後戻りはできない。韓国をごらんよ。街のどこに行ってもジャスティン・ビーバーのビルボードが飾られていて、アメリカのポップミュージックやそれに似た音楽が流れていて、若者はみんなアメリカ人みたいな服装や髪型ばかり。北朝鮮には、あのまま世界の果てでひっそりと閉ざされた文化を守ってほしいと本当に思うよ」
なるほどねえ…。
彼が最後に北朝鮮を評して言った言葉は" It was soooooo Korea"だったんですが、これって旅人ならではの感想だよなあ、ってつくづく思いました。
私もたくさん旅をしますけれど、どこに行っても
「ああ素晴らしい。ずっとここに住みたい」とか、まあ住むのは無理だけど、また来たいな、ずっとこのままでいてほしいな、と思う国や街、村はたくさんあります。
スペインの片田舎で出会ったおばあさん2人組なんて、私が全く理解できないのにずっとスペイン語で語りかけてくれて、しまいにゃお家にご招待してくれて、なんか知らんけど歌まで歌ってくれたりしました。
おばあさんたちに、永遠にあのままでいてくれといってもそりゃまあ無理な話ですが、過疎化がどんどん進んでいるその村は、私が訪れた時でもすでに住人２７人とかでしたから、１０年ぐらいたった今となってはどうなっていることか…。
北朝鮮の国民にしてみれば、『このまま世界の果てでひっそりと』とか、わけのわからんアメリカ人に言われたくないんじゃないかと思いますが、旅人としては、旅のセンチメンタリズムを壊してほしくないという気持ちで、『ずっとこのままでいてほしい』って思うわけですよね。
ちなみに彼は米国籍で、北朝鮮に入国するためのビザをとるために２年間待ったそうです。
ここまで書いてちょっと不安になってきたんですが、彼、まさかもしかしていくらなんでも、北朝鮮と韓国を間違って記憶してるなんてことは…まさか…あるまいな…。