800ページ近くあるという長編の後半を一気読みしたと言っても過言ではないくらい【幻夜】にハマってしまった。予想はある程度していたものの、やはり自分の自制心の弱さをやや嫌悪した。
第4章まで読んだところでは【白夜行】の続編にしては、悪事に手を染める時の描写が露骨すぎ、ミステリーにしては謎もシンプルすぎと少しばかりがっかりした気分だった。
それが徐々にテンポが速くなり、導かれるがままに、次のページへ次の章へと手を止めることができなくなっていった。
謎というほどの謎は主人公の名前と生い立ち以外は殆どが分かりやすいものだったというのに、「そこで?」「こう来るんだ?」っていう思い掛けない展開が次から次へと仕掛けられていた。流石天下の東野圭吾様だわと何度感心したものか。
しかし、それでもこの【幻夜】の主人公は【白夜行】の主人公とは同一人物ではないと私は確信する。いくら同じ関西出身、同じ人を操る力を持ち、同じ得体の知れない妖しい魔女であってもだ。「ホワイトナイト」と名前を付けた店を主人公が経営していたとしても、やはり同じ人物であると私は思わない。
雪穂の身の周りに起きた事件に彼女自体が直接手を染めた描写が一つも無かったし、パートナーの亮司に会うシーン一つ無かったからというのも関係はあるけど、どうしても雪穂は美冬よりかは「心」らしきものを少なからず持っていたと感じる。
美冬だって幼少時に遭った何かでバケモノと化していったのかもしれないけど、それでも雪穂と違って彼女は、旦那の秋村社長が言うように彼女自体が操られているみたいだった。
パートナーへの気持ちにしても大いに違う。雪穂と亮司は全編を通して触れ合いの描写がほとんど無かったのにも、二人の間は強い絆で結ばれていると感じ取れるのに対して、美冬と雅也が交わったり会話を交わしたするシーンがやたらと細かく描かれている、それなのに絆それっぽっちも感じなかったのだ。
人を操る手段にしても雪穂はそんなに手慣れた感じでもなく、それで言ってそんな卑劣なものでも無かったような気がする。美冬の場合はオンナを使い過ぎているような印象を受ける。
雪穂の生い立ちからどこかで彼女の行いを許し、知らずうちに美化してしまっているところもあるだろうけど、天下の東野圭吾様の筆先に生きる二人を似ても似つかぬように仕上げたと理解しているところかな。
どちらも黒幕が片付かないオチっていうのは腑に落ちないと感じつつも、今すぐにでも次の長編を手に取りたいこの気持ち、、、すっかり虜になってしまったわ。人間の心理をよくお分りになられるからこそこのような作品を描かれる先生なんだから、虜になってしまっても仕方ないことにしておこう。(^_^)