命とは、愛とは、結婚とは、死とは。

十人を産めば、一人を殺すことができる。

殺人を許された社会で、育子は

姉が名誉ある「産み人」であることを

周囲にはひた隠しにしていた。

姉の十人目の出産が近づいてきて…。

前々からジャケットとあらすじで

気になっていた短編集。

いざ読んでみますと…そんじょそこらの

ホラーより怖くないかという恐怖を感じました。


表題作は、人が人から生まれずとも、

女から生まれずとも生まれることが可能。

しかしその上で人から生まれる命を尊ぶ。

でもその裏で命が数値化されてる。

合理的という言葉だけで納得できるはずのない

「命の数」が管理された社会。


この社会での価値観に疑問を持ちつつ

受け入れつつある主人公の一人称ですが、

これが怖い。

今この物語を読んで感じる大きな違和感が

所詮今自分が今いる社会で育てられた

価値観に沿ったものでしかないのだと。


恐るべきカルチャーショックを受ける短編。

ラストとかかなりグロいこともあります。


命ってなんだろう。


これと同様に、恋愛、結婚、そして死が

ありえない、とは言い切れない

絶妙に現代社会とズレた価値で描かれます。


違う、けど不思議な説得力を持って。


たかだか数十年という短い期間においても

価値観はどんどん変化していく。

そのことへの恐怖をそこはかとなく感じます。


良作。面白かったです。