(つづき)

骨髄採取の全身麻酔が切れたのでしょう。気がついた時は自分の病室のベッドに横になっていました。壁の時計を見ると、時刻は11時25分頃です。朝、手術室へ向かってからほぼ3時間たっているようです。医師も看護師さんも、病室には自分のほかは誰もいません。

麻酔が始まります、と、目をつむった後からこの瞬間までの間の感覚も記憶も全くありません。途中経過なしで、突然病室のベッドに戻っているのでした。全身麻酔が終わると、意識は徐々に戻るのではなく、突然100%の状態に戻っているのでした。

ただ、意識がなくなった瞬間からはいくらか時間が経過しているような感覚はあります。とはいえ、せいぜい20〜30分くらいの感じですが、実際には約3時間経過していました。骨髄を提供したというよりは、3時間という時間を切り取って、闘病中の患者さんのためにお分けしたような、そんな気がしました。

どこも痛くもないので、本当に骨髄採取したのかも怪しくなってきます。腰の術部にガーゼか綿のようなものが厚く貼られているのが感じられたので、まあ、キャンセルにはならず無事に終わったものと想像するばかりです。

そういえば、どうやって病室のベッドに移ったのでしょう。病室までは、出発したときのストレッチャーに乗せられて戻ってきたのでしょうが、ストレッチャーから病室のベッドには、ドラマの場面で見るように、医師や看護師さん数人がかりで移してもらったのでしょうか。覚えていないだけで、自力でベッドへ移っている場合が多いようなのですが、真相は分かりません。

人工呼吸器を外す時も、多少なりとも意識が戻ったのを確認して行うようなのですが、何か確認や声掛けを受けた記憶も全くありません。顔に酸素マスクが当てられているのと、手(指)に何かケーブルがつけられている感覚とがあるのみです。

当分はベッド上安静(採取部位である腰を、自分の体重でベッドへ圧迫して止血するため)と手術前に聞いていたので、体を起こさず黙って当分の間、横になります。途中うとうとしていたようにも思いますので、この間の記憶がややあいまいです。

16時過ぎ、そろそろトイレに行きたくなってきた頃、傷口(採取部位)を確認しますということで、骨髄採取を担当された医師たちが来られました。まだ出血があるとのことでした。普段、多少のけがで出血してもすぐ止まる体質なので、ガーゼにしみ出る程度で、流れ出ているわけではありませんが、採取後数時間経過してもまだ出血があるというのは少しびっくりです。骨髄採取後は、これで普通のようです。

消毒処置が終わる頃、トイレに行って良いかと尋ねると、歩いて行くのはもうしばらく待ってほしいとのことで、採尿器を使ってベッドでお願いします、ということになりました。
(このC病院では、骨髄採取のドナーには尿道カテーテルは行わないそうです)

横になったまま採尿器で、というのはなかなか緊張します。医師・看護師さんたちは既に退室しているので、誰か見ているから緊張するということではなく純粋に、横になったままこぼさず用を足すということに神経を使ったからです。(過去に経験がなく、また、使い方のレクチャーがあるわけでもないですので)

幸い、「事故」にならず終えることができました。結局、採尿器での用足しは、この1回のみとなりました。
まあ、何度も好んで行いたい経験ではなかったのですが、1回だけというのは残念な気もします。

(つづく)