「月刊!スピリッツ」にて連載中の『映像研には手を出すな!』。

こちらで第1話が試し読みできます。

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女子高生によるアニメ制作を描くこの作品は、連載が開始されるとともにアニメ業界関係者からも話題になり、これを読んだ読者のみなさんも「何か」が違う!という反応に。

その「何か」が違う部分がこのインタビューで明らかになります。

大童澄瞳先生にその素晴らしきこだわりを聞きました!!

これを読めば『映像研には手を出すな!』が1000万倍面白く読める!!

 

赤鮫:大童先生の好きなアニメはなんでしょうか?
大童澄瞳先生(以下 大童):一番好きなアニメは『未来少年コナン』ですね。

 

赤鮫:大童先生の世代よりかなり前の作品ですよね。
大童:僕の母もアニメが好きでして『ウルトラマン』だったら『ウルトラセブン』までとかいう世代で、『宇宙戦艦ヤマト』『アルプスの少女ハイジ』など親の影響で観たり、それが基盤にあると思います。 中学のときに『エウレカセブン』と出会い、めちゃくちゃハマって何回も繰り返し観てました。
 
赤鮫:好きな漫画はなんですか?
大童:『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』などが流行りだしてアニメを観るという行為がひとつのジャンルとしてあったのでアニメはよく観てたんですが…。 漫画も読んではいたんですが、とくに執着するような漫画などはなかったですね。 でも一番好きなマンガは『ドラえもん』ですね。いまでも一番好きです。
 
赤鮫:おおっ、嬉しい答えが返ってきました。
大童:いろんなメカや不思議な道具が出てきて図解とかもあったりするので、すごく好きですね。


赤鮫:『映像研には手を出すな!』にも楽しい図解ページが出てきますもんね!!


赤鮫:ところで先生は独学でアニメを作ったことがあると聞いたのですが、それはどんなアニメだったんですか?
大童:フラッシュアニメブームがあったじゃないですか、あれにすごく影響受けてずっと作りたいなと思ってて、女の子が走るだけのアニメなんですけど、専門学校時代に作ってみたら自分が思ってたより作れたので、もしかしたら自分でも作れるんじゃないかと思ったのですが、アニメって作業量が凄くて…、手がけた作品の全てが未完成で終わらせてしまい、アニメは大変ということを改めて思いまして漫画を描きはじめました。 けっして漫画の方が楽だということじゃないんですが、アニメは何枚何枚も描かないといけないので。
 
赤鮫:1秒間に何十コマもありますもんね。
大童:はい、もう時間がかかり過ぎるなと、漫画だと絵コンテの要領で作ったら一つのお話になるなと思って。
 
赤鮫:絵コンテ=ネームですもんね。
大童:頭の中でもカット割りのイメージがあって、漫画でもそんなふうに描いてます。

 

赤鮫:『映像研には手を出すな!』はどうやって生まれたんですか?
大童:担当編集さんと相談しまして、既存の人気ジャンルの中でオリジナルのストーリーを組み込んで描けないだろうかと。 自分には何があるか考えたときに「映像」というものがあるなと、そういうのを学生が作るっていう視点であれば自分がやってきたことなので適してるかなと考えました。
 
赤鮫:実体験ですね。
大童:はい、リアリティのレベルでも学校の先生とどういう風に交渉していくかとかそういうのも演出に使っていけるかと。
 
赤鮫:『映像研には手を出すな!』で、よく空想世界にダイブする演出が有るんですが、すごく気持ちがわかります。 あの3人と一緒にその世界を共有できるという不思議な感覚。 この作品は想像する楽しさを教えてくれてる、冒険心をかき立てられるワクワク感があるんです。 僕が小さいときは今みたいに物も少なかったし、欲しいものとか簡単に買ってくれないから絵に描いて想像して楽しんでたのを思い出しました。
大童:うちも同じで親がオモチャやゲームを買ってくれなかったんです、同世代の人たちと比べると世代が2つくらい古い世代に生きてきた感じがあるんです。 物を買ってくれないかわりに父はよくキャンプなどに連れて行ってくれて、火のおこし方とか、飯ごうでご飯の炊き方とかを教わりました。
 
赤鮫:なかなかワイルドですね。
大童:はい、冒険とか林の中を走り回ったりしてましたね。
 
赤鮫:そう言えば3話で部室という名の秘密基地が出てきましたよね。
大童:秘密基地作りたいですよね、でも場所の問題やいろんな問題があって思うように秘密基地なんて作れない、なのでその反動もあって理想の秘密基地を作りたいなっていつも妄想してるところがありまして。
 
赤鮫:空き地にダンボールで囲われるだけの閉鎖された自分だけの空間。 屋根があるわけでも何にもないんですけど、何か秘密めいたことをしてる感覚、この作品はそういうのを思い出させてくれる素敵な作品だなと思いました。

大童:ありがとうございます。 そういうのってみんな好きなはずだなって僕は確信してるんです。 でも、今の30代未満の人たちはみんなやれないまま大人になってきたり、大人になろうとしてるんじゃないかなと。 そこはもうちょっと楽しんでもいいんじゃないのかな。
 
赤鮫:ある程度の年齢になったら大人にならないといけないと思ってる感じがありますもんね。
大童:僕の頭の中にずっとあるのが、子供の頃はずっとマウンテンバイクに乗ってて、階段だったり砂浜とかを友達と走り回ってたんですけど、あるときからママチャリに乗り出す瞬間があって。 なんでこんな走りづらいのに乗るんだろう、階段登れないじゃんって思ってたんですけど、そんな感じでファッション性というか、そういうものにだんだん変換して行ってる感じに僕はついていけなくて、いまだにザリガニ釣りは楽しいですし、そういう楽しいことって変わってないはずなのにみんな何でって?
 
赤鮫:ザリガニ釣りは大人でも楽しいですよね。
大童:そういうのを啓発ってわけじゃないですけど、根源的に楽しんでいいんだよって。

 

赤鮫:そういうのを大人になっても忘れないで、やったことない人も一緒にやろうぜみたいな感じですね。
大童:はい、友達になろうよって!
 
赤鮫:あの部室は先生の理想の秘密基地を作ろうとしてるんですね。
大童:じつはそれ以上でもあるんです、浅草たちが部室を秘密基地化して作ってるのが僕の段階での妄想で、浅草たちが妄想している世界っていうところはまた別の妄想というか、僕が子供をやってきて満たされなかった秘密基地像とはまた別で、空を飛びたい妄想とかかなり飛躍した妄想を混在させた世界です。
 
赤鮫:1話も2話も空を飛びますもんね。
大童:空飛ぶのって夢ですよね。 ロサンゼルスオリンピックでジェットパックが出てきたじゃないですか!! もう、こういうのは存在してくれてるだけでワクワクします。
 
赤鮫:『映像研には手を出すな!』は一コマ一コマから映像作品?を観ているような不思議な感じがするのですが、そのあたりで意識してることなどありますか?
大童:このコマなんですけど、柱のところに若干パースをつけてるんです。 こういうことが映像的な画面を作るひとつの要因になってるんじゃないかなと思ってまして。

 

赤鮫:はあ。

大童:元のコマでこれだと垂直です。

大童:そしてこれがパースをつけたコマです。

大童:誤差はこれくらいで。

大童:すこしハの字に広がってて、これを垂直にしちゃうと窮屈になるというか

 

赤鮫:納まってる感じがありますね。
大童:手前に階段を描いてるんですけど、これも合わさって広い空間の遠くにキャラクターがいる感じになるかなと。
 
赤鮫:たしかに階段が有ると無いとでも違いますよね。
大童:あと建物とかまっすぐ道が続いているところで写真を撮ったとしても、その建物が本当にパースに沿ってきっちり並んでるんじゃなくて飛び出したり斜めになってたりするので、そういうリアリティとか、手前と奥とでは同じものが連続していても形が少し違ったり誤差があるものなので、そういうところに関しては定規でピッと引いたような背景とか風景とかではなくて、なるべく自然に見える画面になるように。
 
赤鮫:フリーハンドで描かれているんですか?
大童:そうですね。 パースはほとんど感覚だけで取って、そうすると直線とか引きづらいんですけど、それでも微妙な建物のゆがみとか質感とかが出るので自分の中でもいいなと思ってます。 ベランダひとつとっても、換気扇の排気口をとっても、1軒1軒に人が住んでるんだなという気持ちで描いています。
 
赤鮫:ほかにこだわって描いてるところとかありますか?
大童:質感です。例えばこのコマの大きいパイプ。

パイプは伸縮性がないと冬とかに凍結して割れちゃったりするので、ワイヤー性の網目のロープ状のパイプにしたり、下の部分は金属製ではあるんですけど、鋳型に金属を流し込んで作ったタイプのイメージで、表面はザラザラしたようななめらかなような微妙な鋳造したっぽい感じで描いてます。 あと、変なものを書き込みたいというのもありまして。 

男性用の小便器をさかさまに置いただけの作品でまったく別のものを既存のものとして別の場所に置くアート、マルセル・デュシャンの『泉』という作品なんですが、ただの便器っていうのが好きで、こういうものを適当に書き込んでみたり。
 

赤鮫:お話聞いていくとすべてのコマが見所ですね。
大童:それと物を正確に描きたいんです、物を理解してから描くのと、ただたんに見て描くのとは違うと思うんです。 下のコマの扇風機とかも僕の記憶で描いてたりするんですけど

ただ扇風機の記号として描くと、○かいてプロペラ描いて土台描いてって終わると思うのですけど、これの場合は少し古いタイプの扇風機をイメージしてるので、土台のところが角ばっていてダイアルのタイマーがついてたりをイメージして描いてます。 

右奥の冷蔵庫も瓶のコーラが入ってるようなディスプレイ型の冷蔵庫を描こうと思って。 でもこれが正確じゃないとまずいなと思って調べたんです。まず名称にたどり着いて、それがどういうものなのか、どれくらいのサイズで現在でも生産されているのか調べて描いてます。
 
赤鮫:そこも楽しんでるんですね。
大童:はい、それが楽しいです。
 
赤鮫:この理科室もすごい描き込みですよね。

大童:理科室の感じで言うと、机の横の部分は金属製の波板みたいなのが帯状に張って、丸椅子も人工の皮をばっと丸めこんで張られている赤い座面の丸椅子だったりと。 こだわって描かせてもらいました。

自分の中で書き込みすぎたかなと思ったのは第2話の扉絵ですね。

たとえば電源タップのタグのシールがコードに巻きつけてたり、鉛筆削りは側面に注意書きのシールがあるなとか、うしろの本棚も頂点の裏側に注意書きのシールを貼ったりと。 自分で組み立てたり触れたものは特徴を落としこんで作品に反映させていきたいです。
 
赤鮫:こだわりがすごいですね。
大童:細かいところなんですけどね。 物によっては調べて描くものと調べなくて描くものがありまして、調べなくて描いたほうがこだわりがあらわれるものと、調べて描いたほうがこだわれるものってあるんです。
 
赤鮫:これは懐かしのブラウン管のテレビですよね。

大童:はい、なので背後には熱を放出するためのスリットがあって、持ち上げやすいように手を入れるスペースがあって、下に一段幅がせまくなってたり。ブラウン管テレビって解体すると前面のガラスの部分があって、後ろの部分がガバッと外れるので、外れるための隙間があってボルトがあって、穴の部分も曲面に対して垂直に空いているので楕円形の穴になってるなとか、そういえばそうだなっていうポイントをおさえていきたいです。
 
赤鮫:先生、めっちゃ楽しそうですね!
大童:はい、楽しすぎて描き込みすぎたので進行がかなり遅れちゃいました。 僕は宮崎駿さんと吉田健一さんの影響をすごく受けてる部分があって、立体とか空間に忠実な描画というのがすごく好きで、空間感みたいなものが捉えられないと仮想であっても3次元的には動かせないと思ってるんです。 そういうのを意識して描いてるところもあります。
 
赤鮫:ここに水槽を置くということもそういう空間感を出したくてですか。

大童:そうですね、水槽があるとういうことは机の周りが囲われてる状態になるので、作業スペースとしては空間が狭くて理想的かなと、水槽も水が入ってると光が屈折するので、テレビを横から見るのと同じ感じで、正面から見た金魚が傾いて見えてるんです。 説明するのは難しいんですけど、正面から観た金魚を描いて、パソコンで曲げてここにはめ込んでるんですけど、そうすることで水槽の屈折を描いてるんです。
 
赤鮫:こだわりの塊なんですね。このこだわりをインタビュー読んでくれる方に伝えたいです!そしたら、『映像研には手を出すな!』がもっと楽しく読めるはず。 

そしてはじめて見たんですが吹き出しにパースが入ってますよね。
大童:『探偵はBARにいる』で印象に残ったシーンがあって、街中なんかでなんでもない会話だったりするときに、周りのガヤガヤ感も入ってて、でも重要なセリフではないんだけど、セリフとしては成立してて。それがリアリティだとおもうんです。 そんな雰囲気のセリフを漫画でどうやって描けばいいのかなと考えたときに、僕の方法論なんですけど、キャラクターが話した言葉である以上は吹き出しの中に全部いれたいんです。 絵と吹き出しというのはビジュアルと音声みたいな感じで線引きをしつつスマートに納めていきたいのがあって、本来であれば描き文字で表現されるところも吹き出しにできないかなと。 普通なら流し読みされちゃう部分でも少し印象に残ってほしいなと思ったときに、例えばこのコマなんですけど、「危ないって水崎氏!」はストーリー上では重要ではないんです。

イメージとしては遠くからカメラが撮ってて風がサーっと流れてたり、水の音がしてたりとか環境音みたいなものがこのコマの中にあってもいいシチュエーションなので、セリフもそういうものに流されてもいいかなって。 キャラクターたちがその現場にいる感じを表現するためには、すこし読みづらくて遠くの声のような印象になればいいなと吹き出しにパースをつけて空間になじませてる感じです。
 
赤鮫:それはすごい試みですね。 それを知った上で読みなおせばさらにそのコマの空間感がもっと感じられますね。 最後に先生にとって漫画とは?
 大童:漫画にこだわりがあるというよりは、中に何を描くかってことが一番重要だなと思ってるんですけど…。 んー、自分の中にあるものを出すための「手段」ですかね。
 
赤鮫:今までお話聞いてきてすごく納得できる答えだと思いました。 これからも3人の冒険を楽しみにしてます。今日はありがとうございました。
大童:ありがとうございます。ワクワクドキドキしていただけるように頑張ります!これからもよろしくお願いいたします。

 

 

大童澄瞳先生の作品は毎月27日発売の『月刊!スピリッツ』で読むことができます。

http://spi-net.jp/monthly.html

12月号は本日10月27日発売

こちらにはなんと!!

『映像研には手を出すな!』が2話掲載されてます。