ロールプレイ事例:「ひきこもりの息子 変えたい」

●長崎里子(65)主婦  夫:太一(67)  息子:慎太郎(37)

同居する三十代後半の息子に関する悩みです。

真面目で口数が少ない子です。

大学3年の時、行きたい学校ではなかったと言って中退し、数ヶ月間引きこもり状態になりました。

働くように私がしつこく言うと、渋々アルバイトを始め、現在も続けています。

でも、自立するように再三促しても家を出ようとせず、生活費も入れません。

一番の悩みは、本人が自室を片付けられず、ゴミ屋敷のようになっていることです。私が片付けようとすると切れるため、布団はここ数年干しておらず、シーツも4ヶ月くらい取り替えていません。

こうなったのも私の子育てに原因があったと思っています。

夫は毎日のように飲んで帰り、私一人で息子の面倒を見ました。

ストレスから叱ることが多く、手をあげたこともあります。愛情不足を深く反省しています。

これからでも遅くないので、息子を変えたい。どう接し、声をかければいいでしょうか。

 

【伊藤昭彦プラクティカム・スーパーバイザーによるデモンストレーション】

(カ:カウンセラー  ク:クライアント)

カ:長崎里子さんですね。こんにちは。カウンセラーの伊藤です。よろしくお願いします。

ク:はい、よろしくお願いします。

カ:お手紙拝見して、息子さんのことで、ちょっとお母さんご自身が、ご自分のことを責めてらっしゃるような文面があったんですけど、そのへんはどうなんですか?

ク:まあ、ちょっと育て方を間違えたかなって感じがしています。はい。

カ:お手紙によると、旦那さんがちょっとお酒好き?

ク:そうですねぇ、はい。

カ:で、だいたいお一人で、子育てされてきて。

ク:そうです。

カ:で、ちょっと手、出しちゃったりとか?

ク:そうですね。

カ:まあ、そのことが今の状態の?

ク:そうです。そこが今の息子に大きく影響してるんじゃないかなって、思ってます。

カ:うーん。どうなんですかねぇ?それ。

ク:うーん。あの時、ああいうふうにしてなければ、もうちょっとなんかいい子だったんじゃないかな、と思っています。

カ:まあ、長崎家の子育て、というのがあると思うんですけどね、ちょっとそれ置いといて、一般的に、例えばご両親いらっしゃるけど、お父さんがお酒好きでね、まあ、お酒でなくてもいいんだけど、とにかく子育てからちょっと離れてる?

ク:はい。

カ:で、お母さんが一手に子どもの面倒を見てる。で、時々ちょっとカッとなって手出しちゃう?

ク:うん。

カ:そういうご家庭って、少ないですか?

ク:いや、まあ、ありがちな気がしますけど。

カ:そうすると、そういう環境で育った子どもって、みんな引きこもっちゃう?

ク:いやあ、みんなではないですかね・・・、はい。

カ:だとすると、どうなのかな、原因なのかな?原因がお母さんにあるのかな。

ク:うーん。全部はないとしても、ちょっとはあると思います。

カ:うーん。ま、ちょっとはあるけども、今、それ私とのやり取りでそう思ったでしょ?

ク:はい。

カ:さっきまでは?

ク:すごいあると思ってました。

カ:ああ。だいぶ違うね(笑)。

ク:(笑)。

カ:すごいとちょっとって。

ク:はい(笑)。

カ:で、なんでこんなことを切り出したかというと、本当のところはどうなんだろうということね。

ク:うーん。

カ:で、今のことでいうと、本当はこれぐらいなのかもしれないけれど、これぐらいに思っちゃってる。

 (カウンセラーが、思いの大きさを手で表現して示して)

ク:うん。

カ:思っちゃってる里子さんがいたわけね。

ク:あ、はい。

カ:だとするとどうなんですか?これでいいの?(思いの大きさを、こんな大きさでいいの?という意)

ちゃんと、これぐらいだという意識を持っている里子さんと、ちょっとこれが大きくなっちゃってる、膨らんじゃってる里子さんとね、どっちが望ましいんですか?

ク:いやあ、こっちです。(と、小さい方を指す)

カ:だよね。

ク:はい(笑)。

カ:じゃあ、この膨らんじゃってる部分て何なんだろう?

ク:うん。

カ:もし整理できれば、整理した結果、ここか、というのがわかるといいのかな?

ク:はい。

カ:そうすると、もしかしたら直せるかもしれない。

ク:うん。

カ:ねぇ?

ていうのが1つね。それと、えー、お手紙最後のところでね。

ク:はい。

カ:慎太郎さんを、息子を変えたいと書かれてたんですね。

ク:はい。

カ:ということは今まで、息子を変えよう変えようって、いろいろやってきた里子さんがいると。

ク:はい。

カ:で、結果は?

ク:変わってないので、どうやったらいいかが知りたい。

カ:なるほどね。で、息子さんは変わったの?

ク:変わらないですね。

カ:だけど、長崎家でね。

ク:はい。

カ:少なくとももう1人変わってない人がいるんじゃないかと思うんだけど・・・、誰?

ク:夫ですか?

カ:夫?(おっと)夫も変わってない?

ク:夫は変わってないです。

カ:うんうん・・・。旦那さんだけ?

ク:うーん。私ですか?

カ:それ、質問?

ク:(爆笑)。私。そうですね。うん。

カ:里子さんも変わってない?

ク:そうですね・・・。変わってない、です。

カ:というのは、ま、息子さんは変わんなかったね?

ク:はい。

カ:だけど、その変わらない息子さんを変えよう変えようって、ずーっと、いつも同じことをやってきた里子さんも変わってないんだよね。

ク:はあ。あ、はい。

カ:でしょう?

ク:そうですね。

カ:でね。あの、私たちって、カウンセリングやってるんだけど、ベースの考えでね、人は人を変えることはできない、というのを持ってるんですよ。

ク:うーん。

カ:だけど、ちょっとそれ置いておいてね、もしも変えることができると、それを前提としたらね。

ク:はい。

カ:えー、里子さんが息子さんを変えることと、里子さんが自分自身を変えることと、どっちが簡単?

ク:自分を変えることです。

カ:本当にそう思う?その2つを比べるとね。

ク:息子と自分ですよね?

カ:ええ。

ク:・・・。変えられなかったので、息子は。

カ:それよりは、今までの自分を変える方がやりやすいかもしれない?

ク:うーん。

カ:て、思った?

ク:そうですね。

カ:私も実はそう思います。

ク:うん。

カ:じゃ、どうしますか?

ク:どうしますか・・・?(考え中)

カ:息子さんを変えることに今まで同様、エネルギーを注ぐのか?その注いでいたエネルギーを、ご自分が今までと違う自分になることに注ぐのかね?

ク:うーん。でも、息子にはもうちょっと・・・、人として?

カ:うん。

ク:やっぱ、自立してほしいので。

カ:うん。という思いがあるよね?

ク:はい。

カ:だからこう一生懸命促してきた。働きかけてきたんだよねぇ?

ク:はい。

カ:だけど、ってことなんだよね?

ク:うーん。私が変わっても、息子が変わらなければ・・・。

カ:うん。

ク:息子がこの先困ると思うんですよ。自立しなかったら、困るのは息子なので。

カ:そこで、じゃ、次の質問していい?

ク:はい。

カ:里子さんが、今変わろうかなって、思った。

ク:うーん。

カ:その目的って息子さんを変えるためなの?

ク:はい。

カ:息子さんをおいといて、本当に自分自身を変えるためなの?

ク:・・・。息子を変えるためです。

カ:じゃ、それ今までと一緒じゃないですか(笑)。

ク:(爆笑)。

カ:ちょっと手段を変えるだけで、目的は一緒じゃないですか(笑)。

ク:そうですね、うん。

カ:私が、里子さんが変わるのと、息子さんを変えるのとね、どっちって言ったのは、息子さんを変えるために、里子さんが変わったほうがいいですよって言ってるわけではない。

ク:うーん。

カ:じゃ、なんで言ってるの?って顔してるけど。

ク:(笑)。あー。

カ:これ、やってみなきゃわかんないんですよ。だけど、今までと違う里子さんになったとしたら・・・。

ク:うーん。

カ:今までと違う、物事の見方、考え方を、持つこともできるかもしれない。

同じ環境に身を置いても、何か感じるもの?あるいは発言する内容?それが変わる可能性があるかもしれない。

ク:うーん。

カ:ですよねぇ?

ク:はい。

カ:自分が変わるんだから。

ク:はい。

カ:その結果、どう事態がね、どういうふうになるかっていうのは、実はやってみなきゃわかんない。

ク:うーん。

カ:だけど、そういうことを覚悟したうえで、やるかどうか、ていうところを確認したい。

ク:うーん・・・。そうですねぇ・・・。(考え中)

カ:困ちゃった?

ク:そうですね。やっぱりどうしても息子が変わったらうれしいな、って思っちゃいますねぇ。

カ:息子さんはどう思ってると思う?

ク:どう思ってる?

カ:お母さん、里子さんが今のままであってほしいと思うか、お母さんもちょっと変わってくれたらいいのになぁ、と思ってるか(笑)。

ク:ああ、(笑)。変わってくれたらいいのになぁ、と思ってると思います(笑)。

カ:あ、そう?

ク:(笑)。

カ:なるほど。で、別にその期待に応えるわけじゃないけれど。

ク:うん。

カ:もし、里子さんが今までとちょっと違ったら、息子さん、どう思うんだろうね?

ク:おや?と思うと思います。

カ:熱でもあんのか?とか(笑)。

ク:(笑)。急にどうした?と思うかもしれない。

カ:て、ことは、息子さんも見方が変わったということ?

ク:まあ、そうですね。

カ:今、可能性の話してるからね。

ク:はい。

カ:ほんとはやってみなきゃわかんないんだよ?

ク:はい。

カ:でも、可能性の中には、里子さんが変わることによって、その何というか、副産物としてね。

ク:うん。

カ:息子さんにも影響を及ぼすよね?

ク:うん。

カ:そういう話なんですよ。

ク:はい。

カ:だから、やってみなきゃわかんないんだけど、やってみますか?ってことだね。どういう結果がついてくるかわかんないけど。

ク:はい。

カ:それを伺ったわけ。

ク:なるほど。それだったらちょっとやってみようかな。

カ:やってみようかな?息子が変わるかもしれないから?(笑)。

ク:ははは(爆笑)。まったくなくはないですけど、でも、さっきの息子も見方が変わるかもしれない、というのは納得しました。

カ:それはでも、お互い様だもんね。

ク:うん。はい。

カ:じゃあね、何から変えるか

ク:何から変えるか(考え中)

カ:だよね?

ク:うん。

カ:それを考えないと。

ク:はい。

カ:変えようがないよね、ちょっと漠然としててね。

ク:はい。

カ:その時に、変えやすいものから変えてった方がいいよね?

ク:そうですね。

カ:私のほうを一生懸命見てるけど(笑)

ク:(笑)。

カ:私が答えを持ってるわけじゃないですよ。

ク:(笑)。

カ:これはご自身で考えてもらわないとね。

ク:うーん。

カ:まず、何から着手するか。

ク:何から。(考え中)

カ:ていうのは、今、そうやって考えてくれてんだけど、そう簡単に答えは出ないよね、この場じゃ?

ク:はい。

カ:どのくらい必要?時間。日にち。

ク:2,3日。

カ:2,3日。じゃ、5日後ぐらいにまた来れる?

ク:あ、はい。わかりました。ちょっとそれ考えます。

カ:で、今まで、そんなこと考えてもみなかったでしょ?

ク:はい。

カ:でもそれ、考えてみようって今、それ実はもう変わってんだよね、今までとは。

ク:うーん。

カ:考え方は。あとはやってみるという。

ク:うん、うん、うん、うん。

カ:思考と行為って私たち言ってるんだけどね。

ク:はい。

カ:まず、思考を変える。あとは行為を変える。

ク:うん。

カ:で、結果はやってみて。

ク:うん。

カ:もしかしたら、息子さんに影響は及ばないかもしれない。

ク:はい。

カ:でも、ご自身にはすごく及ぶよね?

ク:そうですね。うん。

カ:・・・楽しみ?

ク:うーん。ちょっと楽しみですけど。

カ:けど?

ク:見つかるかなって、気がして。

カ:ほーう。あのう、寝ずに考えないでね。

ク:(笑)。はい。

カ:気楽に考えて、ちょっと変えてみようかなって。今日はノーヒントで帰ってもらうから、ね?

ク:はい。

カ:まずはご自分で考えて、で、5日後にまた見えた時に、すり合わせしますか?

ク:はい。

カ:じゃ、今日は時間なんですけど、どうですか?まだ、10分ちょっとしかお話できてないんですけど、ここに来た時のご自分と、今こうして帰ろうとしているご自分と?

ク:うーん。なんか、悩みの質が変わりました。

カ:うん。どういうふうに?

ク:息子のことをずっと思ってたんですけど、自分が何を変えるか、というところに変わってますね。

カ:うん、うん。じゃ、とにかく変わっちゃったんだ(笑)。

ク:あ、(笑)。うん。

カ:わかりました。じゃ、またお待ちしています。

ク:ありがとうございました。

                           (ここまでの所要時間12分間)    以 上