ついに、選挙戦が始まった。
ここからは、もう後戻りできない。
泣いても笑っても、この数日で決まる。
これまで積み上げてきたものが、全部ここで試される。
認知度ゼロから始まった挑戦。
毎朝の駅頭。
数百回再生のYouTube。
手作りのショート動画。
少しずつ増えていった仲間たち。
全部が、この選挙戦に向かっていた。
最後の決起集会が終わった時、空気は完全に変わっていた。
疲れているはずなのに、みんなの目だけは死んでいない。
「悔いのない戦いにしよう」
そう言葉にしなくても、そこにいる全員が同じことを思っていた。
絶対に負けたくない。
その気持ちだけで、身体を動かしていた。
選挙の構図は、事実上一騎打ちになっていった。
相手は、あの三党から推薦を受けた候補者。
自民党
立憲民主党
国民民主党
名前を聞くだけでも、その後ろにある大きさが伝わってくる。
こちらは、何もないところから始まった小さなチーム。
一方、相手には強力な後ろ盾がある。
当然、有名な人たちも応援に来る。
枝野さんまで来ていた。
さらには、県知事まで応援に入る。
その光景を見た時、正直、胸の奥が重くなった。
「ああ、向こうは本気で勝たせに来ているんだな」
そう感じた
相手陣営の人たちは、きっと思っていたと思う。
これだけ後ろ盾があれば勝てる。
普通に考えれば、こちらが当選するはずだ。
そういう空気が、はっきり見えた気がした。
こっちは、駅に立つところから始めた。
名前を知ってもらうところから始めた。
一人ずつ声をかけて、
一枚ずつチラシを配って、
数百回の再生に一喜一憂して、
怒鳴られても、悔しくても、ここまで来た。
それでも、巨大な後ろ盾の前では、すべてが小さく見えてしまう瞬間がある。
でも、だからこそ思った。
ここで負けたら終われない。
そんな中で、さらに神経を削られる出来事も起きた。
選挙中は、事前に設置していたポスターなどを撤去しなければならない。
もし残っていれば、選管に通報が入り、こちらが撤去に向かうことになる。
これが、想像以上に大変だった。
それを一つひとつ確認し、回収するだけでもかなりの労力がいる。
みんな、もう体力の限界だった。
朝から動き、夜まで動き、また翌朝には駅に立つ。
寝不足
焦り
疲労
緊張
その全部が、身体の中にたまっていた。
そんな時に、通報が入る。
「まだポスターがあります」
夜でも関係ない。
連絡が来れば、確認に行かなければならない。
車を走らせて、現場に向かう。
でも、行ってみると何もない。
ポスターなんて、どこにもない。
一度ならまだいい。
でも、そんなことが続くと、さすがに気持ちが削られる。
ただでさえ時間がない。
体力もない。
余裕もない。
それなのに、何もない場所へ向かわされる。
正直、頭にきた。
「確認してから連絡もらえませんか!?」
思わず、そう言いたくなる。
いや、実際に言った。
もう、みんな限界だった。
誰かが悪いとか、そういう話を冷静に整理できるほど、余裕なんてなかった。
イライラが募る。
でも、心だけは折りたくなかった。
ここまで来たんだ。
認知度ゼロから始めて、
誰?と言われるところから始めて、
ようやくここまで来たんだ。
絶対に負けたくない。
それだけだった。
そして、ついに投票日を迎えた。
もうできることはない。
あとは、市民の判断を待つだけ。
この数日間、何度も心が折れそうになった。
何度も悔しい思いをした。
何度も「こんなのあるか」と思った。
でも、それでも進んできた。
勝てるのか。
本当に届いたのか。
あの声は、川越の街に残っていたのか。
祈るような気持ちで、結果を待った。
そして――
その日、とんでもないことが起きた。