「ここ・倫」eu zen(エウ・ゼーン、よく生きる) | ら・鮮・快・談

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村地鮮(むらち・せん)による、自然観察・文学逍遙・野宿紀行・哲学考察などのカオスに満ちた未定型雑記。つまり、あちらからのもらい物に目を凝らし、耳をすませ、あれこれ考えてみた雑記です。

「リストカット」を行う生徒への向き合い方 



「ここは今から倫理です」というタイトルでは長いので、今風に「ここ・倫」としてみた。今回は、リストカットをめぐる出来事があり、それに不登校気味の生徒、それから教師間の考え方の違いが絡んでくる。やや複雑だ。(コミック原題「切っちゃおうかな」)「eu zen」(エウ・ゼーン、よく生きる)という言葉がキーワードになっている。

高崎由梨という女子生徒がいる。以前から、リストカットを繰り返している。自分でも、はっきりした理由はわからない。ただ、ムカつく事があった時、悔しい時、辛い時、手首を切っていた。そして、学校で事件を起こす前の夜、家で母と一悶着があった。鉢合わせた脱衣場で手首の傷を見咎められ、説教され、由梨は(うざ~い、クソ)(めんどくさ)と滅入った気分のまま登校したのだった。

「倫理」の授業。高柳は、〝プラグマティズム〟について講義している。『〝行為〟と〝人格〟は道徳的に同じひとつのもの』『〝行為〟として現れないような〝人格〟など無意味』 そんな学説を紹介している。

由梨は、昨夜来のモヤモヤした気分が続いていて、〝私の人格って何だろう?〟〝リストカットする私の行為は私の人格とどういう関係なんだろう〟なんてぼんやり考えている。そして、ふぅっと筆箱から刃物を取り出して手首に当てる。(授業中だ! しかし、本人は半ば無意識のよう・・)

すると、近くの席の都幾川幸人(ときがわ・ゆきと。不登校気味だが倫理は出席する)が突然に大声で叫んで止めに入る。「な、なんで、そんなことしてんの!!?」 教室中が騒然とする。

保健室の藤川先生が呼びに行かれる。幸人の方がパニックを起こしたのだ。由梨は、何が起きたのか呆然としている。

幸人は保健室のベッドで目を覚ます。幸人の傍らに座る由梨が刃物を持っていない事を確かめると、由梨を抱きしめる。「よかった・・・」と。

それまで由梨は、リストカットをひっそり独りでしていたし、常に説教される対象でしかなかった。幸人の行動も言葉も、直截的だが自分の周りには無かったものだ。


さて、騒動が一段落して藤川先生と高柳との会話。(長くなるけれど、この会話どう思われるか・・)


藤「いったい教室で何があったの?」
高「高崎さんがリストカットをして、それを見た都幾川くんが止めただけです」
藤「ほんとうに、それだけ?」
高「さあ? 知らないです」
藤「そんな無責任な!」
高「リストカットがどんなものかは知っている。彼女がしていたのは知らなかった」
高「リストカットについては、悪い事であるとは言い切れない。その行為自体がある種の〝救い〟であるとも聞くから。しかし自傷を〝し続けろ〟とも言えない。都幾川くんが刃物恐怖症なのも知っている。しかしその原因は分からない。・・我々は他人なのだから・・」


藤「あなた冷たい人ね」
高「いま彼らが戦うべきは〝自分自身〟。我々が無理に入り込んだら、戦う相手が増えてしまう・・」
高「それでも・・彼ら自身が自ら考えて勇気を持って助けを求めてきてくれたならば、私は全力でそれに応えましょう・・」

藤「・・私、貴方の考え方、きらいだわ!」
高「〝他人〟を〝他人〟と切り捨てられない。うっとうしいくらいに人の世話を焼きたがる、貴方みたいなお節介な人・・僕はきらいじゃない」


高「eu zen(エウ・ゼーン、よく生きる)、僕はまだ出来ていないけれど、貴方は出来ている気がする・・・」

藤「・・・・・」

高柳の、冷めたものの見方。〝無理に入り込まない〟・・・
藤川の、(ふだんの行動から窺い知れる)〝うっとうしいくらいに世話を焼く〟・・・

最小限にコメント3つ。

1.高柳が言う「リストカットは〝救いでもある〟」は、摂食障害やうつ病、他にも言えること。どう向き合うか。
2.高柳・藤川の会話とは別個に、幸人の(止めに入る)そのまんまの行動が由梨にとっては出会ったことのない、何か心を動かすものであったことは確か。
3.「人のため」としながら、自分の何かの満足のために「お節介」するのも多々あり。
※蛇足。「eu zen」は、このコミックなりの味付けと思うので深入りせず。