有馬温泉

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 有馬温泉に行ってきた。時々行く宿は土間で食事をするので、冬は寒い。初めての宿だったが、宿や食事より細く急な坂道を抜けていくスリリングな20秒のほうが印象的だった。
 
 高台にある、その宿の3階の温泉から見下ろす雪景色は何だか変。湯けむりが1本しか見えない。時間をおいても1本。ここから見る景色に温泉宿が少ないのか、どうなのか。
 

 金泉はしょっぱく懐かしいが、体を拭いても赤銅色がまとわりつかない。バスタオルもタオルも白だ。赤銅色は体の隙間からは出てきたが、赤銅色に染まったバスタオルが重ねられていたのはいつの頃だったのだろうか。


 温泉に行く前に長女から電話があった。マンションを借りるから父親に保証人になってほしいという内容だったようだ。車中から電話を入れると「もう、決めた。」のだそうだ。

「ところで、今(妊娠)何か月やった?」
「ん、6ヶ月」
「えぇっ、腹帯いるやん」
「ん、もう、もらってきたで」
「えっ?」
「ほら、山本さんも行ったって言うてたから。二人で行ってきた。」
「えぇぇぇぇ!。山本さんはお母さんいいひんけど、あんたはいるやん(差別用語でしょうか。お許しあれ。母と娘のたわいもない会話の再現です。山本さんはその後お父さんが再婚され、お義母さんと仲良くされています。産後もお義母さんが面倒見る気満々だそうです)」と、私。


 娘の妊娠状況の把握もできていないことに後で気づくが娘も娘だ。私の「キャピキャピ」をまた体験させてくれなかった。結婚も。
 本人たちが決めてから報告があり、彼を家に招いてどうのこうのと娘とやり取りをするテレビドラマのようなシーンを私は体験していない。私の落胆ぶりにさすがに悪いと思ったのかウェディングドレスを選ぶときは誘ってくれたが、それこそ、わが想いにどっぷりつかっているので、夢見る乙女には付き合いきれず、彼に任せて2時間で解散した。新婚生活で使う道具もいずれ家を建てたら、と今まで下宿で使っていたものを使っている。合理的で無駄がなくええやん、私は自分に言い聞かせる。


 私が嫁ぐとき、母は和ダンスを着物と小物でいっぱいにした。「整理ダンスにタオルを入れるもんやない」と洋服を詰めた。近所の人が来て、嫁入り道具を見、個々に箪笥の引き出しを開けていた。もう、そんな時代でもないし、そんな近所づきあいもない。昼間はほとんど家にいない、夜だけ家にいるパート住民である。


 世の多くの女性が母親との関係に悩んだであろう。娘も私との関係から「こう言われるだろう。」と予測し距離をおいていたのだ。それでいいと思う。それができる環境にあるのだから。母(私のこと)は自分の好きなことをし、家事と仕事を適当にこなしあまり干渉をしない。たまに家にいるとその発言に娘は傷つけられていたのだろう。



 私の家には胡椒がなかった。大学生になり、はじめて先輩の下宿に泊めてもらい、朝ごはんの目玉焼きに乗っていたグレイの粉を見て「これは何ですか?」と聞き、ドン引きされた。母は、胡椒を食べたら馬鹿になると心底信じ私を育てたのだ。母と娘の関係は微妙である。


 今日もその母(私の実母)は「今日はここ(相生)に泊まるわな。母親(私の実母の実母、私の祖母)に言うといとくれ。」と、私に言う。6人兄弟で自分だけ高校に行かせてもらえず、担任の先生や父親、長男からも言ってもらったがどうしても自分(祖母)の手伝いが必要だ。「私(祖母)も女学校出たけれどなんの意味もなかった。」と言い、祖母は泣いてごてる母(私の実母)に対し、聞く耳を持たなかった。母のその悔しさは認知症という脳の病気に侵された今も強く、強く残りいまだに言う。商売が忙しく、お手伝いさんもいたのだが……。


 (おばあちゃん、お母さんを高校に行かせてやってくれていたら……。こんなになってへんかったかもしれへん)。母と喫茶店に入ると必ずこの悔しい思いを繰り返し私に言う。でも、かあさん、これが母さんの人生や。たった一人やけれども、ええ子生んだやん。飛び切りの孝行娘やで。母さん、母さんは今幸せなんやで。娘は少々うるさいけれども、そばにいるし、3人も孫がいる。周りのみんなが気ぃつこうてくれている。認知症という病気をスタッフも入居者の人も理解してくれているから、みんなが優しくしてくれる。すぐに爆発する感情も上手に対応してくれ、穏やかに過ごせる時間の方が長いでしょ。悔しい思いはわかるけれど、母さんはよう頑張った。相生でもよう、手伝ってくれている(職員だと思っている時もあるが)。ありがとう、おかあさん。大事に思っているよ。

 


 有馬の湯けむりをあとに、東山市場で明石の昼網で捕れたカワハギを買う。丹後から子供たちのいる長岡京市に来られたYさんの「魚が食べられない」に挑戦するのだ。カワハギは絞められていたがこれはおそらくおいしい肝を、おいしくいただくため。隣のカレイもガシラも飛び跳ねていた。


 翌日、「夕食の時間は静かやったわ。みなさん、魚を黙々と食べ、きれーいに食べはったわ。」という報告を受け、小さくガッツポーズ。やったね!