資料作成を依頼された時の話だ。
朝08時45分。「この10枚の資料を、いつものようにA4用紙3枚にまとめてほしい」と、僕は上司に資料作成を依頼された。
僕はメモ帳を持って、資料について改めて詳しく尋ねた。
「何時に提出ですか?」
「ファイルの作成はExcelですか?PowerPointですか?」
「縦型ですか?横型ですか?」
「用途・閲覧者は何方ですか?」
細かく質問し過ぎると思うかもしれない。
けれど、「いつもの」「普通に」といった不明瞭な用件で依頼を約束すると、後でトラブルに発展しかねない。

依頼した相手の「いつもの資料の形」と、こちらが想像する「いつもの資料の形」が、いつも一致するとは限らない。
昨日まで資料は縦型で作成していたのに、昨夜の晩、TVで見たアメリカだかフランスの企業に影響を受けて、
「これから資料作成は横型にしよう」なんて言い出す可能性が、0%では無いからだ。
「いつもの資料の形」は、人の数・その時期において無数に存在する。
だから「いつもの頼むよ」の一言で、お互いの想像する「資料」がピッタリ合致する事なんて、まず無い。

最初に相手の要件を十分に汲み取らず、不明瞭なまま資料を作成すると、
「俺はこういうつもりで頼んだんじゃない。全然違う」と後で拒否されトラブルに発展する可能性がある。

初期の段階で要件について詳しく尋ね、
不明瞭な部分を無くす事が、トラブル回避に繋がる。
実際。イイ上司ほど、後でトラブルを発生させないために、
上記のように細かく要件を指定して作成指示を出している。


改めて要件を訪ねた結果、
●午後01:00までに提出
●Excelファイルで作成
●10枚の資料を参照
●A4用紙 3枚でまとめる
●表紙なし
●縦型
●部長・副部長・課長のみ閲覧
●左上ホッチキス留め
●25部印刷
という形で資料をまとめることになった。

現在、午前09:00。
提出まで4時間。
この間、僕が作業する項目は以下の12項目。

01.10枚の資料を解読
02.資料の概要をまとめる
03.P1の用紙に執筆
04.P2の用紙に執筆
05.P3の用紙に執筆
06.P1の誤字脱字の見直し
07.P2の誤字脱字の見直し
08.P3の誤字脱字の見直し
09.総見直し
10.上司確認
11.25部印刷
12.ホッチキス留め

資料を解読・再構成する01と02に1時間 (10:00完了)
文章執筆03-08に2時間 (12:00完了)
総見直し・上司確認09-10に45分 (12:45完了)
印刷・ホッチキス作業11-12に15分 (13:00完了)

文章は120分中、3枚執筆するので、
1枚あたり40分で執筆。 (10:40/11:20/12:00各々完了)

以上の時間配分を目安に作業を進める。
通常業務と並行して行うので、作業の停滞は必ず発生する。
前倒しで作業を行い、資料提出を目指した。


弊社にお客様をお呼びして、打ち合わせした時の話だ。
僕はお客様がお見えになる前に、会議室の準備を始めた。
お茶の準備・打ち合わせに使うPCの起動・配布する資料の印刷・部屋の温度・机の布きんがけ等、
会議室の事前準備は若手の役目だ。
「本日の会議で使う資料、何部印刷しますか」
「コーヒーとお茶、それぞれ幾つ御用意致しますか」
「プロジェクターはお使いになられますか」
お客様に失礼にならないよう、上司の指示に従って慎重に準備を進めた。

事前準備が終って一息ついた頃。
ちょうど、お客様が弊社へ到着した。
「お客様がお見えになりました」
僕は上司にお客様がいらっしゃった事をお伝えした。
けれど、上司はろくに返事もせず、自分のPCを睨んだまま席を立たなかった。
僕が続けて会議室の部屋番号を伝えようとすると
「お前。先行っててくれ」
と遮るように上司は言った。
理由は何も言わなかった。


僕はお客様4人を会議室へ案内し、上司が来るのを待った。
「今日は寒いですね。こちらに来られる間、寒くなかったですか」「前回。資料の方、ありがとうございます」
当たり障りのない会話をしながら、会議室に上司が来るのを待った。
…10分。…20分。
一向に上司は現れない。
「いったい何をしているんだ…?」
不信に思った僕が、上司を呼びに席を立とうとした時
両手いっぱいに用紙を抱えて、上司が大慌てで会議室に入ってきた。

「いや~。遅れて申し訳ない。
資料を印刷しようと思ったら、プリンターの調子が悪くて」
そう言いながら「ほら。配れ」と言わんばかりに持ってきた用紙を僕に渡した。
使う資料を変えたのか。追加の新しい資料なのか。
なぜ会議開始直前に、資料を変えたのか。
事情はよく判らないが、僕は不信に思いながら上司が刷ってきた用紙をお客様に配った。
持ってきた缶コーヒーの蓋を開けて、上司はゴクゴクと喉を鳴らしながら一息ついた。
「いやー。遅れて申し訳ない。すいませんね。
資料に書き忘れたことを追加していたら、つい遅れてしまって」
神妙で弱った表情を見せながら、上司は独り言のように呟いた。
「はぁ…。」と、お客様も曖昧な返事をしながら配った用紙を受け取った。
「それじゃ。始めますかね?」
場を取り繕うような、能天気な上司の一声で会議が始まった。
お客様と約束した時間から、30分ほど過ぎていた。

僕の上司は頭がおかしい。

約束を守らない。
人に迷惑をかけて場を乱す事に、「自分」という存在意義を見出している。
ワザと遅刻したり大きな仕事を急に依頼して、職場や取引先を混乱させて迷惑をかける。
「混乱を起こした自分」を「第一線で活躍している自分」に歪めて解釈し、自分に酔っている。
かけた迷惑は「仕事によるもの」と都合良く解釈し、「仕方がなかった」と割り切っている。

結論や計画が、よく途中で変わる。
その日の気分や周りの環境(雨とか寒いとか眠いとか)で意見や計画を変える。
100の仕事が60になり、思い悩んで40になり、
時間が足らずに大混乱になって、結局10の成果しか残らない。
あるいは、午前中は東に向けて歩いていたのに、午後になって「やっぱり西へ行こう」と目的地を変える。
理由は「なんとなく」

「変わる前に素早く仕事を済ませる」スピードが自分の身を助ける。
注意したいのは、早く仕事を提出し過ぎると「じゃあ、コレもやって」と追加で仕事を依頼する事がよくある事だ。
約束を守らないから、仕事内容を変更・追加注文する事に、ためらいがない。

名前を呼ばない。
部下は「お前」で呼び、上司は名前で呼ぶ。
もちろん僕は誰に限らず「○○さん」と呼んでいる。上司は「○○部長」だ。
上司と部下の自覚を「お前」という呼び方ではっきりさせるのが本人の目論みのようだけれど、
僕には憎しみと反感・嫌悪感しか沸かない。

まず否定から入る。
どんな話をしても

「いやそれは」「いやだから」「っていうか」「要するに」「なんていうか」「そういう意味で言うと」等、
人の意見を聞かない。話を途中で遮って、被せる時もある。
ちゃぶ台をひっくり返して自分を中心に話を持って行くので、会話が成立しない。
「お前もそう思うだろ?」と意見を求められて「○○だと思います」と答えても、
「いやそうじゃない。これは…」と否定されて説教が始まる。
それなら最初から意見を求めないで欲しいし、真面目に答えることが馬鹿馬鹿しくなってくる。
最近は、口を開くのも辛い。

異常に人を頼る。
僕や周りの人に「コレどうやるんだっけ」「お前手伝って」と、よく声をかける。
お手洗いへ席を立つ時「コレもついでに」と、ペットボトルのゴミを渡す。
デスクに置いてある誰かのペンや電卓を勝手に使って、どこかへ置きっ放しにする。
僕も含めて周りのみんなは、目の付かない机の奥にペンやハサミ・ホッチキス等を仕舞っている。
お昼時。社内弁当を頼んだ人は、食堂へお弁当を受け取りに行く。
「俺の弁当も一緒に持ってきて」と、もう一人の上司によく弁当を頼む。
持ってきてもらっても「お前さあ。腹へってんだから、早くしろよ」と、
礼も言わず文句で返す事も多い。

見栄っ張りで、異常に対抗心をもつ。
F市へ、僕と上司の二人で出張に行った時だ。
F市まで電車へ行く事も十分できた。周りの皆も、当然電車で行くと思っていた。
けれど「俺のドライブテクニックをお前に見せてやる」と、社用車を使って車で行く事になった。
ガソリン代・高速代も含めれば、電車の方がはるかに交通費が安いし、移動時間も短い。何より安全だ。
みんなが首を傾げていたけれど、異論を唱える人はいなかった。
上司に何を言ったって、どうせ聞く耳を持たないと、みんな呆れていたからだ。

こんな人が運転する車だから、
事故に巻き込まれて死ぬかもしれないと、僕は本気で死を覚悟した。
予想通り上司の運転はとても荒く、道中、染みが出るほど脂汗で背中がベットリだった。
高速道路で他の車に抜かれる度に「あっ!クソ」っとアクセルをグイグイ踏んでスピードを競い、
「急いでいるから」と窓から手を挙げて、車の列に何度も割り込んだ。
僕は助手席に座っていたんだけど、相手の運転手が鋭い眼つきでこちらを睨むのを何度も見た。
大きく口を開けて、こちらに向かって何か叫んでいる運転手もいた。
「はっ!?」とか「バカじゃねーの!?」とか罵声の類を叫んでいたんだと思う。それくらい愚かな運転だった。
僕は一緒に乗っていて、とても恥ずかしかった。

片道2時間45分。往復5時間30分
休む事無く、上司は僕に話しかけた。
自分の兄妹達の話から、買った車の話。
若かった頃やった危険なことや、家族のこと。子供のこと。
会社のこと・上司のこと・最近の若者のこと。
ほとんどは自慢話・愚痴・説教・悪口・不平不満・後悔・妬み・恨みだった。
「そうですか」「大変ですね」「○○だったんですね」「お疲れ様です」
僕は当たり障りの無い言葉を順に繰り出して、上司の話を右から左へ聞き流した。
少しでもまともに受け取ると、心の底にベットリ居座って、寝つきが悪くなりそうだった。
それくらいヤな話だった。
一秒でも早く目的地に着くことを願った。

途中。
走行中の車から勢い良く転がり出て、このまま遠くへ逃げたいと思った。
走行中に外へ出るのは危険だと、無論分っている。
けれど、自然にドアノブへ手が伸びた。
偶然じゃないと今なら思える。

一緒の空間にいたくなかった。
声を聞きたくなかった。
何も見たくなかった。
これ以上何もしたくなかった。
この関り合いが消えるなら、自ら消えても悔いは無かった。

喜んで僕から消えよう。
無事故で生還を望んでいた昨日なのに、今は自ら消えて無になりたいと願う僕は、
もしかしたら頭がおかしい上司に関わって、少しずつ頭がおかしくなってきた、のかもしれなかった。



僕の上司は頭がおかしい。
このブログは、そんな上司の下で働く僕が、あれこれ感じた事をしたためるブログです。