君の存在は、『光』であり『拠り所』であったんだ。

君は知らなかっただろうけれど。

君という存在だけが、唯一つの『標』だった。




「ギフト!」

10年ぶりに再会を果たした幼馴染が、オレの名前を叫ぶ。

怒りと悲しみと困惑の混じった表情に、笑いが浮かんでくる。

昔から誰にでも優しく、怒りを他人へ向けることのなかったフォルス。

そんな誰にでも平等に与えられる優しさなんて、オレはいらなかった。

オレは、オレにだけ向けられるフォルスの感情が欲しかった。

他の誰にも向けられないものが欲しかった。

それが怒りでも憎しみでも、オレにだけ向けられるものならば

それはオレにとって何にも勝る甘露だ。

だからもっとオレを見て、オレの名を呼んで。

オレのことを考えて―――オレのことだけ。

意識のすべてがオレのことだけに支配されてしまえばいい。

オレが、君に支配されているように。


「フォルス!」

感情に任せてギフトに近付こうとしたフォルスを諌める声。

その声に名を呼ばれた瞬間、フォルスの瞳に理性が戻る。

声の主である眼鏡をかけた警察騎士に視線を向けたフォルスは、

その姿を瞳に映し安堵したような表情を浮かべた。

それは、かつて己の兄であるエルストに向けられていた表情と同じで。

その事実が、ギフトに凄まじい程の怒りと憎悪を抱かせた。

フォルスの絶対の信頼を得ていて、尚且つ頼られている警察騎士の男に対して。

『フォルスに頼られる』

―――それはかつてギフトが望んだことで、現在でも叶っていない夢だ。

それを現実にした男に対して、殺意を抱くのは至極当然の感情だろう。

ギフトの殺意に反応した泥土が、警察騎士の男に襲いかかる。

しかし、警察騎士の男は身軽に泥土の攻撃を躱す。

「アベルト!」

「大丈夫だ!」

慌てて駆け寄ろうとしたフォルスに、アベルトと呼ばれた警察騎士の男が

安心させるかのように笑いかけ、手にした小太刀で襲いかかってきた泥土を

ただの泥へと変える。

その様を、ギフトは苦々しい気持ちで眺める。


今はまだ駄目だ。

研究が進んでいるとはいえ、まだ完全ではない。

不完全故に自分が望んだ結果を現段階では得ることは出来ない。

フォルスの信頼を得ている忌まわしい男の抹消も。

フォルスに幼い頃とは違う、自分の優秀さを見せつけ認めさせることも。

今は、まだ叶わない。

けれどそれは現段階で、というだけだ。

それまで酷く腹立たしくはあるが、フォルスをしばらくは置いておかなければならない。

だけど、必ず―――

「今度こそ、完全な『冥土』を従えてくるよ」

そして、その時にはフォルスの周りにある不必要なものをすべてを

今度こそ抹消して、君を手に入れる。

君のその瞳に映るのは、オレだけで良いんだから。


幼い日に君がくれた『約束』

その『約束』だけが、オレを生かし続けた。

ああ、でも君は忘れてしまっているのだろう。

オレは一度だって忘れたことはないというのに。

君はオレに希望を与え、同時に絶望を教えた。

でももう幼く力を持たなかったオレじゃない。

オレは手にしたこの力で、今度こそ『約束』を確かなものにしてみせる。






―――君は知らない。

『光』が強ければ強い程に『影』は一層濃くなるのだと。





end



Title/『模倣坂心中』