#295 勘定合って銭足らず? ~「花見酒」~ | 鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」
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鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

1956年に落語に出逢い、鑑賞歴50余年。聴けばきくほど奥深く、雑学豊かに、ネタ広がる。落語とともに歩んだ人生を振り返ると共に、子や孫達、若い世代、そして落語初心者と仰る方々に是非とも落語の魅力を伝えたいと願っている。

2020年の花見は新型コロナの感染拡大防止で全国的に宴が自粛された。桜はいつもより1週間位早く満開の花を付けたがギャラリー不在で精がなかったことであろう。

これまでに「百年目(拙ブログ#100参照)」「桜鯛(#155)」「長屋の花見(#157)」「花見の仇討(#184)」「あたま山(#203)」「おせつ徳三郎(#276)」など花見に関係した噺を採り上げて来たが、ここでは「花見酒(はなみざけ)」というちょっと分かりにくい滑稽噺を六代目春風亭柳橋の高座で聴いてみよう。

甲男と乙男はいつもつるんでいる友達同士で、花見の時期のことである。「居るかい?」と甲男が乙男宅を訪ねて来た。「あっ、兄貴、何か用ですか?」「うん、一緒に金儲けをしようと思ってね…」「いいですね、どういうことです?」「昨日、向島へ花見に行って来たんだ。花は3分ぐらいだったが無性に酒が飲みたくなってね」「それでどうしました?」「ところが、辺りに酒を飲ます所が一軒もねえんだ」「それで?」「花見の場で酒を売ったら儲かるんじゃねえかと思ったんだ」「成程」「それで俺とお前とで金を出し合って商売をして金儲けをしようと誘いに来たんだ」「儲かりますか?」「コップ一杯1貫で売るとすれば元手は倍にはなるね」「いいですね」「よし、俺がここに2両出すからお前も2両出しな」「生憎と一銭も持ち合わせがねえんです」「しみったれた奴だな。じゃあ、他の奴に声を掛けるよ」「待ってくれよ、取り敢えず兄貴の2両を元手にして二人で始めようよ。そうしたら2両が4両になる。売り切れたら4両分仕入れて売る。そうすると、4両が…8両になる。また、仕入れて売る。そうすると、8両が………」「駄目な奴だな、2桁になると勘定が出来ねえんだから。二八…14両だよ。まあいい、それでいこう。早速酒を仕入れに行こう」。

 

二人は酒屋へ行き、2両分の酒を買い、樽と天秤棒を借りる。二人で担ごうとした時、乙男が「ここ3日、何も食ってねえので担げない」と言う。兄貴分も持ち金全部をはたいていたので酒屋に頼んで1貫を借り、「これで芋でも買って食え」と言って乙男に渡した。

 

二人は歩き出した。樽が揺れ、粘着性を感じさせる液体の揺れといい匂いが乙男を誘惑した。「兄貴、芋を買っても芋屋を儲けさせるだけの無駄使いだ。この1貫で俺にこの酒を売ってくれないか?そうすれば二人の儲けになる」「成程、そりゃあ無駄がなくていい」。

乙男がコップ酒を美味そうに飲むのを観ていた甲男も我慢ができなくなった。「じゃあ、今貰ったこの1貫で俺にも一杯売ってくれ」。何度もこれを繰り返したので花見場に着いた時は二人共へべれけに酔っ払っていた。

 

「さあ、いらっしゃ~い、お酒は如何ですか?一杯1貫だよ」と乙男がろれつの回らない売り子になる。「見ろよ、酔っ払いの見本になって酒を売っているよ。面白いね、飲んでやろう。一杯おくれ」と客が寄って来る。「いらっしゃい、あれ?空っぽだ。お客さん、売り切れました。しばらくお待ち下さい。兄貴、売り切れたよ」「そうか、じゃあもう一度仕入れに行こう。売り上げの4両を出しな」「兄貴、1貫しかないよ?」「おかしいな?」「だって俺と兄貴で買い合いをしている間に売り切れたんだよ」「そうか、してみりゃ無駄がねえや」。

 

 この噺が有名になったのは、1962年に刊行され、ベストセラーになった「花見酒の経済」(笠 新太郎著)という書にこの噺が引用されたからであった。難しい経済書に与太話である一落語が引用されたのだから落語ファンにとっては欣快の至りであった。私も経済学士のはしくれとしてまた一落語ファンとして本書を一読した。当時の高度経済成長の脆さを予見した書であったかと思う。

この落語はサゲの意味が分からない噺である。そんなこともあってか、今は演じられていないようである。この一席を聴いて私は直感的には、「国の内輪でやったりとったりしても、資源を消費するだけで富の蓄積にはならない。一国の富を増やすには外需に求めざるを得ない。特に資源を持たない日本にあっては技術・観光立国が生きる道だ」と考えたものである。とにかく経済学は難しくて手におえないので学士号を返上し、今は落語学士を名乗っている。

 

 

 

 

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