#65 道具屋が大儲けした噺 ~「火焔太鼓」~ | 鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

1956年に落語に出逢い、鑑賞歴50余年。聴けばきくほど奥深く、雑学豊かに、ネタ広がる。落語とともに歩んだ人生を振り返ると共に、子や孫達、若い世代、そして落語初心者と仰る方々に是非とも落語の魅力を伝えたいと願っている。


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先日、NHKテレビが「アナザーストーリーズ」という番組の中で三代目古今亭志ん朝を採り上げていた。衰退の危機に瀕していた落語界を救った落語家たちの中心的な一人という位置付けであった。志ん朝の持ち前の“キレとスピード”が落語を現代に甦らせたという見方で、私もまったく異存のないところである。

 

 1962年、名人・五代目古今亭志ん生を父に持つ志ん朝が真打ちに抜擢された。入門から僅か4年目の弱冠24歳、しかも先輩たち19名を抜いての昇進で、年功序列を基本とする落語界にあっては異例中の異例の出来事であった。その披露公演で、彼は初日に「火焔太鼓」、4日目に「明烏」を高座に掛けた。これには落語家たちも度肝を抜かれたという。前者は志ん生の十八番であり後者は名人・八代目桂文楽の至芸と評されていた持ちネタであったから、本人の目の前で演じるなどもっての外のことであった。実力は認めながらも志ん朝に先を越されて不満を持っていた先輩たちに、親の七光りではなく実力による昇進であることを見せるという志ん朝の意地があったのであろうと私は思う。緊張この上ない昇進披露の高座を天与の才で無難にこなし、その後大成して歯切れのいい名演を多く残し、名人の域に達したことは衆目の一致する所であろう。

 

「明烏」は#6で採り上げたのでここでは「火焔太鼓(かえんだいこ)」を志ん生の高座で鑑賞することにしよう。

 

 道具屋を営む甚兵衛さん、目が利かず商売下手で一向にうだつが上がらず、女房にいつも馬鹿にされている。

 

 ある日、問屋から埃まみれの太鼓を仕入れてくる。店先で小僧が太鼓の埃を払っていると、はたきで縁をはたいただけで鳴り出すという不思議な現象が起きる。この音がお駕籠で通り掛った殿様の耳に留まり、「観たいので屋敷に持ってくるように」と言われる。「こんな汚い物を屋敷に持ち込むとは不届きな奴だとお仕置きに遭うのが関の山だよ。もし値段を訊かれたら、買い値の“一分(1/4両、約6万円)”で結構ですと言うんだよ」と女房に脅かし半分に言われ、恐々屋敷に持参する。

 

案に相違して殿様はいたく気に入り、300両(約7千2百万円)でお買い上げになる。「どうしてこんなに高く買っていただけるのでしょうか?」と甚兵衛が側用人に訊くと、「お前も知らないのか。なんでも“火焔太鼓”という世に二つとない名器だそうだ」と側用人が教えてくれる(この間の城中での甚兵衛の様子が面白く話されるのが聴き所である)。

 

300両を持って飛ぶように家へ帰ってきた甚兵衛、女房に一部始終を話し二人は大喜びする。女房もこの時ばかりは亭主を褒めちぎり、「お前さん、これからは音の出る物に限るね」と言う。「そうだよ、今度は半鐘で一儲けしよう」と甚兵衛が返すと「半鐘はいけないよ、おじゃんになるから」。

 

半鐘(写真下 火の見櫓の上部)も見なくなった物の一つである。火災の発生を知らせる鐘のことで、叩いてジャンジャンと鳴らして急を知らせた(これがサゲに使われている)。志ん朝の高座も志ん生に負けず劣らずのもので、「火焔太鼓」を聴くならこの親子のものに限るというのが私の結論である。

 

 

“火焔太鼓”というのは雅楽で使う楽器である。横溝正史の代表作の一つである「悪魔が来たりて笛を吹く」で、事件を解くカギの一つとして火焔太鼓が使われていたことを思い出す。

 

私が志ん朝を初めて知ったのはNHKテレビの「若い季節」(1961年)というコメディドラマであった。レギュラーの一人として出演しており、明るい二枚目でシャイな人柄は人気が出そうな気配が感じられた。父・志ん生も、息子がタレント化することなく本業に精進して欲しいと言う思惑もあって早く真打ちにしておこうと考えたのかも知れない。

冒頭に紹介した番組によると、落語協会で志ん朝の先輩であった七代目立川談志は、先を越された志ん朝へ反発しつつも銭の取れる唯一の落語家として認めていたと言う。また、六代目志ん生襲名を薦め、志ん朝も言下に否定はしなかったようであった。だが2001年、志ん朝は63歳の若さで逝った。六代目を継ぐとしたら彼しかいないと思うが、私は名跡襲名という慣習には疑問を持っており、傑出した人物が出現した場合は、プロ野球でいう永久欠番という考え方もあってもいいのではないかと思っている。“志ん生”は五代目で、そして“志ん朝”も三代目で永久欠番にした方がいいのではないかと私は思っている。

 


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