#45 消化薬の正体は? ~「そば清」~ | 鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

1956年に落語に出逢い、鑑賞歴50余年。聴けばきくほど奥深く、雑学豊かに、ネタ広がる。落語とともに歩んだ人生を振り返ると共に、子や孫達、若い世代、そして落語初心者と仰る方々に是非とも落語の魅力を伝えたいと願っている。


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落語は江戸時代中期に江戸、京都、大阪でほぼ同時期に発生した話芸と考えられている(#9参照)。当初は江戸と上方に分かれて独自の活動をしていたが、やがて東西の交流が活発となって情報交換が進むようになり、江戸ネタが上方へ、上方ネタが江戸へ移入されるようになった。この移入の際、少しでもローカル色を出そうとして筋書きで地名(花見や富くじの場所)などのマイナーな変更が加えられたりしたが、演目名と筋書きも変えられた噺も少なくない。

 

 “所変われば演目名変わる”、“江戸(東京)上方”という図式で拾い上げてみよう。

 

うどん屋風邪うどん     お化け長屋借家怪談    かつぎや正月丁稚

 

紙屑屋浮かれの屑撰り    蜘蛛駕籠住吉駕籠     佐々木政談佐々木裁き

 

三人無筆向うづけ      新聞記事阿弥陀ヶ池    酢豆腐ちりとてちん

 

粗忽の釘宿替え        そば清蛇含草       だくだく書割盗人

 

垂乳根延陽伯         茶金はてなの茶碗     時そば時うどん

 

長屋の花見貧乏花見      寝床素人浄瑠璃          野ざらし骨つり

 

花見の仇討桜の宮         宿屋の富高津の富        四段目蔵丁稚   等々

 

 では、「そば清」と「蛇含草」を聴き比べてみよう。

 

「そば清(そばせい)」

あるそば屋の店内、常連客が、「そばとせんべいだけは音を立てて食べないと美味くないね」「つゆは少しだけ付けて食べるのが乙だね」などと話しながら蕎麦を食べている。そこへ見慣れぬ客が入ってきて、あっと言う間に“盛り”を10枚ほど平らげて出て行く。

別の日、その男が店に入って来た。常連が「先日は見事な食べっぷりでしたね。どうです、“盛り15枚で1()“という賭けをやりませんか?」と持ち掛ける。男は渋っていたがこれを受け、アッと言う間に15枚を平らげて賭けに勝つ。

 また別の日、“20枚で2分”という賭けの申し出に、「自信はありませんが勝ち逃げはいけませんので」とこれを受け、また、あっさりと平らげる。「畜生、頭にくるなァ。亭主、あいつは何者だね?」と常連が訊くと、「あんたたち、何者か知らずに賭けをやっていたのかい? あの人は30枚は簡単に平らげる大の蕎麦好きで、“そばの清さん”と呼ばれている人ですよ」と亭主が答える。

 数日後、意地になった常連たち、なんとかへこましてやろうと“50枚で5両”という大きな賭けを持ち掛ける。清さん、5両には魅力があったがさすがに自信はなく賭けを断る。

 

清さんが中山道を旅している時、うわばみ(大蛇)に出くわした。物陰に隠れて様子を観ていると、大蛇を撃とうとしていた猟師をパクリと丸呑みした。腹が丸く膨れ上がり苦しそうにしていた大蛇、草むらに入り込み赤い草を舐め始めた。すると、みるみる腹が凹み、元に戻った大蛇はゆうゆうと山中に消えて行った。即効性に優れた消化薬だと思った清さんはこの草を摘んで持ち帰る。

 

 江戸へ帰った清さん、早速羽織姿で赤い草を持ってそば屋へ行き、顔を見せていた常連に「先日の賭けを受ける」と申し出る。48枚はなんとか食べたがそれ以上は食べられず、動くことも出来なくなった清さん、「ちょっとやりたいことがあるので、隣の間へ運んでくれませんか」と頼む。隣の間に移った清さん、「ふすまを閉めて中を覗かないでください」と言って赤い草を舐め始めた。

 清さんがなかなか部屋から出て来ないので、「休憩を取るのは違反だよ、早く出て来いよ」と常連がふすまを開けると、蕎麦が羽織を着て座っていました。

 

「蛇含草」

 真夏のある日、留という男が甚平姿で友人宅を訪れる。暑さ対策について話しているうちに、床の間に活けている見慣れぬ草に目が止まった。「あれは何という草です?」「おー、あれか? あれは谷間に生えている“蛇含草(じゃがんそう)”というもので、うわばみが丸呑みした人間を溶かすのに用いる草だそうだ。魔除けにでもなろうかと活けているのだ」「へえー、珍しいものですね。少し頂けませんか?」と貰った草を帯の間に挟み込む。

 

 留が友人宅を訪問すると友人は火を起こし始めていた。「何をしますの?」と留が訊くと、「うん、祝い事で餅を沢山もらったので焼いて食おうと思ってな」と言う。「そうですか、私も餅は大好物です」と留は言って、焼ける端から餅を勝手に食い始める。「おいおい、人様の物を勝手に食う奴があるか。“親しき仲にも礼儀あり”だよ。そんなに好きならあの餅箱の餅を全部食えるかい?」「お安いご用で」と食べ始める。

 「ただ食うだけでは芸がないので、“曲食い”をお見せしましょう」と、“放り受け”に始まって“お染久松”、“淀の川瀬の水車”、“箕面の滝”など様々な餅の食べ方を披露する。(この件がこの噺の見どころで、寄席かDVDで味わうしかない。)

 あと2つを残したところで留さんギブアップ、一歩も動けなくなる。「大丈夫か?医者を呼ぼうか?」と心配する友人を振り切ってなんとか家に辿り着く。

 

家に帰った留、「嬶(かかァ)、寝る」と寝間に入りふすまを閉めて横になる。しかし苦しさは収まらない。「そうだ、良いものがあったんだ」と蛇含草を思い出し、起き上がって帯の間から取り出し、食べ始める。

 「無事に帰ったかいな?」と先程の友人が見舞いに来る。「今、寝間で寝ています」と嬶が答える。「寝てはいかん、動かなあかんがな」と友人がふすまを開けると、餅が甚平さんを着て座っていました。

 

サゲは秀逸で、草は人肉しか溶かさない消化薬であったという考え落ちである。サゲから判断してこの2つは同根の噺に違いないが、内容は随分趣を異にしている。東西どちらも良く出来ている噺である。

小咄を一つ。ある男が何でも溶かすという画期的な薬剤を発明した。しかし、実用化はされなかった。何故か? その薬剤を入れる容器がなかったからであった。

 

(飛鳥寺周辺・奈良 2016年)

 


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