鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

1956年に落語に出逢い、鑑賞歴50余年。聴けばきくほど奥深く、雑学豊かに、ネタ広がる。落語とともに歩んだ人生を振り返ると共に、子や孫達、若い世代、そして落語初心者と仰る方々に是非とも落語の魅力を伝えたいと願っている。


テーマ:

上方落語に“東の旅シリーズ噺”というものがあり、伏見から大阪へ向かう三十石船の船中や船宿での様子を描写した滑稽噺「三十石」がその最終話となっている。

 

伊勢参りを終えた後京都見物をした喜六と清八が三十石船(写真上)に乗って大阪へ帰ろうと、伏見街道を下って船宿・寺田屋(写真下)に着くところから噺が始まる。以下演者によって重点の置き所が多少異なって個性が観られるが、“船宿の番頭が乗船者名簿を作成しようとするが鴻池善右衛門とか西郷隆盛とか小野小町とか、全員好き勝手な名前を名乗って番頭をからかう件”と“満員の中、船頭に「お女中を一人、面倒を見てくれ」と頼まれた清八が「膝に乗せてでも」とこれを引き受け、船を降りてからそのお女中といい仲になるという空想をするが、乗って来たのはおまる(便器)を抱えた老女であったという件”がメインで笑いを誘う。船唄を2節、3節聞かせた後、「やがて枚方・鍵屋浦に差し掛かった頃は真夜中で乗客は全員白河夜船、三十石夢の通い路でございます」と高座を下りるのが一般的な演り方である。

 

 
 

実はこの噺には続きがあって、全員寝込んだところで盗難事件が発生するが、船頭の機転で盗人を捕らえ金も戻ってきて、「船頭が1割の礼金を貰い、得をしました」とサゲるのが本来の筋だそうだ。

 私は後半の部分を聴いたことがなく、近代では、前半だけの噺半ばで打ち切るスタイルが定着してきているようである。この為であろうか、「三十石夢の通い路」という別題で演じている噺家もいる。

 演じ手の多い噺であるが、六代目笑福亭松鶴、その弟子の三代目笑福亭仁鶴二代目桂枝雀の高座が出色である。

 

【雑学】吉は桃山城を築いた頃伏見に港を開き、伏見と大阪を結ぶ淀川水運を開始した。この水路を主に人を運ぶ為に就航したのが三十石船で、明治3~4年頃に蒸気船に取って代られるまでの凡そ280年間にも亘って淀川の水上輸送を担ってきたという長い歴史を有するものである。

歌川広重(安藤広重)の浮世絵に三十石船と枚方名物・くらわんか舟を描いたものが残されており往時の姿を観ることができ、落語ファンにとっては大変興味のある嬉しい資料である。

 三十石船は伏見・寺田屋の浜と大阪・八軒家(現在の天満橋辺り)を結んだ。一日一往復で下りは夕方に伏見を発って12時間、上りは八軒家を朝に発って24時間を要したという。今は京阪電車で40分足らずの区間であるから、実にのんびりとした船旅であったようだ。

 乗客定員は28人で船頭が4人就いた。便数と定員からみて運べる人数は限られており、脚力に自信のない人が専ら利用したと考えられ、多くの旅人は淀川に沿って整備されていた京街道を歩いたのであろう。この為、京街道(京都-大阪)には伏見、淀、枚方、守口の4つの宿が設けられていた。

 京阪枚方市駅近くに保存されている「船宿・鍵屋(写真)」には往時の資料が展示されており、水陸双方の旅の様子を窺うことができる。

 

 

落語「三十石」には往時の風俗情報が噺の中に多く盛り込まれている点でも興味深いものがある。整理しておこう。

 

(1)伏見の人気の土産は「伏見人形」であった

 伏見街道には人形を売る店が立ち並び、伏見の代表的な土産であったそうだが今には伝わっていないようである。寺田屋近くの民家に飾られていたものを見たが、博多人形を思わす陶器の人形であった。

(2)乗船者名簿を作成し、役所へ提出していた

 今でも長時間航路では万一の事故に備えて名簿の作成が義務付けられていると思うが、当時の「船旅は危険度が高い」という意識は今以上のものであったろう。

(3)人気の京土産は「おちり」に「あんぽんたん」であった

 「おちり」はちり紙を丁寧に言ったもので、現在で言うなら「“よーじや”のあぶらとり紙」といったところであったろうか。

 「あんぽんたん」はかき餅に砂糖をまぶしたもので、どちらも船宿で売られていた。

(4)大阪・おぐらや(小倉屋?)の「鬢つけ油」が人気であった

 中書島に船頭相手の遊郭があり、そこの遊女が愛用していたそうである。このブランド品はその後どうなったのであろうか。

(5)船客は「役銭」というチップを要求された

 これは土砂が溜まって川が浅くなった時に掘ってもらう人足への報酬に当てられた。今でも受益者負担という考え方はあるが、一律の通行税的なものではなく、感謝の気持ちというところに現代との違いを感じる。

 海外旅行でチップという風習に戸惑った人も多いと思うが、江戸時代にこうした考え方が日本にもあったということが事実であれば、私にとっては新しい発見である。
 


にほんブログ村


落語ランキング

blogramのブログランキング

AD
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)

rakugogakushiさんの読者になろう

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります

SNSアカウント

AD

ブログをはじめる

たくさんの芸能人・有名人が
書いているAmebaブログを
無料で簡単にはじめることができます。

公式トップブロガーへ応募

多くの方にご紹介したいブログを
執筆する方を「公式トップブロガー」
として認定しております。

芸能人・有名人ブログを開設

Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
ご希望される著名人の方/事務所様を
随時募集しております。