北朝鮮に拉致された日本人が残らずすべて家族のもとに戻るということは、拉致被害者家族にとってだけではなく、日本国民全体にとっての願いです。何故なら、もし自分の家族が拉致されたら、と考えてみる想像力を有するならば、拉致被害者家族の苦悩を自分のことのように共有することになるからです。(もし自分が当事者の立場だったら、と考えてみる想像力の必要性は、全ての場合に当てはまります。このエッセイを執筆している2010年4月現在において、米軍普天間基地移設問題で苦悩している鳩山由紀夫首相の場合についても同様です。)
しかし周知のとおり、金正日政権は五人ばかりを返しただけで、残りの被害者については、死亡したとか入国していないとか主張して、一向に返そうとはしません。金正日たちが拉致被害者を返さないのは、もし返してしまえば、そうした拉致が金正日自身の計画によるものだということが明らかになるからです。日本政府は北朝鮮に対して経済制裁を行なっていますが、それだけでは、拉致被害者全員の救出という願いが実現されることはなさそうです。
どんなことでも願いの実現は、その願いが実現されるときのことを具体的にイメージすることから始まります。それでは、拉致被害者救出という願いが実現されるときの具体的イメージとは、どのようなものでしょうか? 拉致被害者たちは北朝鮮の国土のどこかで生活し、密かに救出を待っています。その救出のイメージとは、北朝鮮の国土を隈なく捜し回って発見・保護し、日本に連れて帰るというものです。
それでは、その捜し回る主体となる者たちとは、いったい何者でしょうか?それは、決して北朝鮮政府の調査団ではありません。何故ならば、いっとき彼らは調査するとか言明していましたが、本当は調査するまでもなく、拉致被害者がどこに在住するかはすべて把握しているはずだからです。というのは、彼らは自国で働かせるため日本人を拉致したのだから、拉致被害者をどこで働かせているかはすべて把握していなければなりません。だから、北朝鮮から拉致被害者を救出する主体となる者たちは、決して北朝鮮の調査団ではありません。
その主体となる者たちとは、その救出を願う日本国民の委託を受けた者たちです。それは例えば、日本の自衛隊が想定されます。日本の自衛隊が北朝鮮から拉致被害者を救出する?そんなことは北朝鮮政府が許さないでしょう。しかし、そのときには北朝鮮政府がもはや存在しないのだと仮定すれば、そうした調査・救出は可能となってくるでしょう。
しかしそうしたことは、どのような過程を経て実現されることでしょうか?それは例えば、次のようなシナリオが考えられます。
ヨーロッパでは1990年頃に冷戦が終結しましたが、東アジアではまだ冷戦が終結していないので、そのことが北朝鮮のような共産圏国家を存在せしめ続けてきたのです。東アジアの冷戦とは、アメリカ・台湾・韓国・日本と、中国・北朝鮮との対立です。この冷戦は、中国の共産党一党独裁が崩壊するときに終結するでしょう。それまで北朝鮮を傘下にしてきた中国が民主化すれば、北朝鮮は後ろ盾を失って孤立することになります。こうなれば、アメリカも韓国も北朝鮮に対して躊躇なき行動に出ることができるでしょう。
いっぽう日本では、例えば隠岐諸島や能登半島などにミサイル防衛システムが配備され、北朝鮮から発射されたミサイルを確実に撃墜できるようになっているとします。そして日本国民の北朝鮮への反感がますます増大し、それに応じて金正日政権のほうも威嚇行動がエスカレートしていきます。そしてついに、北朝鮮から日本本土に向けてミサイルが発射されます。しかしミサイル防衛システムが完備しているので、そのミサイルは確実に撃墜されます。
このような事態になれば、同盟国の日本が攻撃を受けたということで、米韓連合軍が北朝鮮へ軍事侵攻を行ないます。そうなれば金正日政権はひと溜まりもなく崩壊し、北朝鮮は米韓連合軍の占領下に置かれます。圧政に苦しんできた北朝鮮の国民が解放されるのはそのときです。
やがて北朝鮮は韓国に併合され、朝鮮半島に単一の民主主義国家が誕生することになるのですが、このような状況になれば、日本の自衛隊が北朝鮮国内を隈なく捜索して拉致被害者を救出するということが可能になってきます。それまでの圧政からようやく解放された北朝鮮の国民は、その捜索に進んで協力してくれることでしょう。
東アジアの冷戦が終結すれば、北朝鮮から拉致被害者を救出できるだけでなく、沖縄などの米軍基地もほとんど必要ではなくなるでしょう。
沖縄に米軍基地が必要なのは、朝鮮半島や台湾海峡での有事に備えるためです。その有事とは、例えば先に述べた、米韓連合軍の北朝鮮侵攻による金正日政権の崩壊と、それに伴う拉致被害者の救出といったことです。このような有事に備えるため沖縄などに米軍基地が必要なのです。しかしそうした有事によって東アジアの冷戦が終結するのならば、その有事が勃発する前はそこに米軍基地が必要なのですが、その有事が終了して東アジアでの冷戦が終わりを告げたあとは、そうした米軍基地がほとんど必要ではなくなるのではないでしょうか?
日本では今、沖縄の米軍普天間基地の移設問題が焦点になっています。米軍基地は以上のような理由により現在は必要不可欠のものですが、それが沖縄に集中していることによって、沖縄県民が最も負担を強いられています。特に普天間基地は街中にあるので、その周辺の住民は極めて危険な状態にあります。その危険を回避するため、自民党政権時代に辺野古のキャンプシュワブへの移設が提案されました。ところが、その計画を見直すという選挙公約を掲げて2009年に民主党が政権を獲得しましたので、辺野古が最善の移設先だと主張するアメリカと、辺野古ではなく沖縄県外への移設を主張する沖縄県民との間で、民主党政権は板挟みになっています。平和が当たり前になっている平時には、有事に不可欠となる米軍基地の必要性が忘れられがちです。そのため地元住民の不満ばかりが強調されてきました。
鳩山首相は沖縄県民の負担を軽減するため県外移設の方向で検討していますが、現実に移設候補地となったところでは、地元住民が猛反対をして交渉さえできない状態です。そうした地元住民の意識の中では、自分たちが住む地域の平和を愛するあまり、その平和が日本全体の安全保障の枠組みの中で成り立っているという認識が抜け落ちているのでしょう。そのため、日本の平和を守ってくれている米軍基地の存在を忌まわしいと感じ、沖縄県民の負担を分かち合うことを拒否するのでしょう。(ただし、その県外移設候補地については、アメリカ側も軍事計画を遂行する上で適切ではないと拒否しました。)
しかし、米軍基地の存在は永遠のものではありません。東アジアでの冷戦が終結するまでの暫定的なものです。かつて東西に分断されていたドイツでは、ベルリンの壁が永遠に続くものと思われていたに違いありません。しかし1989年11月、ベルリンの壁は劇的に崩壊しました。同様のことが東アジアで起こらないとは限りません。中国の共産党一党独裁が崩壊し、北朝鮮が韓国に併合されるようなことになれば、東アジアでも冷戦が終結し、沖縄その他の米軍基地はほとんど不必要となるのではないでしょうか?
そのときが来れば、それまで日本を守ってくれていた軍事基地を撤収するアメリカ軍と、その基地の地元で負担を強いられてきた住民の皆様とに、御苦労様でした、と全国民からねぎらいの言葉を捧げられることでしょう。そしてそのときは、長年にわたって北朝鮮に拉致されていた人々が戻ってくるときであることを確信します。
しかし周知のとおり、金正日政権は五人ばかりを返しただけで、残りの被害者については、死亡したとか入国していないとか主張して、一向に返そうとはしません。金正日たちが拉致被害者を返さないのは、もし返してしまえば、そうした拉致が金正日自身の計画によるものだということが明らかになるからです。日本政府は北朝鮮に対して経済制裁を行なっていますが、それだけでは、拉致被害者全員の救出という願いが実現されることはなさそうです。
どんなことでも願いの実現は、その願いが実現されるときのことを具体的にイメージすることから始まります。それでは、拉致被害者救出という願いが実現されるときの具体的イメージとは、どのようなものでしょうか? 拉致被害者たちは北朝鮮の国土のどこかで生活し、密かに救出を待っています。その救出のイメージとは、北朝鮮の国土を隈なく捜し回って発見・保護し、日本に連れて帰るというものです。
それでは、その捜し回る主体となる者たちとは、いったい何者でしょうか?それは、決して北朝鮮政府の調査団ではありません。何故ならば、いっとき彼らは調査するとか言明していましたが、本当は調査するまでもなく、拉致被害者がどこに在住するかはすべて把握しているはずだからです。というのは、彼らは自国で働かせるため日本人を拉致したのだから、拉致被害者をどこで働かせているかはすべて把握していなければなりません。だから、北朝鮮から拉致被害者を救出する主体となる者たちは、決して北朝鮮の調査団ではありません。
その主体となる者たちとは、その救出を願う日本国民の委託を受けた者たちです。それは例えば、日本の自衛隊が想定されます。日本の自衛隊が北朝鮮から拉致被害者を救出する?そんなことは北朝鮮政府が許さないでしょう。しかし、そのときには北朝鮮政府がもはや存在しないのだと仮定すれば、そうした調査・救出は可能となってくるでしょう。
しかしそうしたことは、どのような過程を経て実現されることでしょうか?それは例えば、次のようなシナリオが考えられます。
ヨーロッパでは1990年頃に冷戦が終結しましたが、東アジアではまだ冷戦が終結していないので、そのことが北朝鮮のような共産圏国家を存在せしめ続けてきたのです。東アジアの冷戦とは、アメリカ・台湾・韓国・日本と、中国・北朝鮮との対立です。この冷戦は、中国の共産党一党独裁が崩壊するときに終結するでしょう。それまで北朝鮮を傘下にしてきた中国が民主化すれば、北朝鮮は後ろ盾を失って孤立することになります。こうなれば、アメリカも韓国も北朝鮮に対して躊躇なき行動に出ることができるでしょう。
いっぽう日本では、例えば隠岐諸島や能登半島などにミサイル防衛システムが配備され、北朝鮮から発射されたミサイルを確実に撃墜できるようになっているとします。そして日本国民の北朝鮮への反感がますます増大し、それに応じて金正日政権のほうも威嚇行動がエスカレートしていきます。そしてついに、北朝鮮から日本本土に向けてミサイルが発射されます。しかしミサイル防衛システムが完備しているので、そのミサイルは確実に撃墜されます。
このような事態になれば、同盟国の日本が攻撃を受けたということで、米韓連合軍が北朝鮮へ軍事侵攻を行ないます。そうなれば金正日政権はひと溜まりもなく崩壊し、北朝鮮は米韓連合軍の占領下に置かれます。圧政に苦しんできた北朝鮮の国民が解放されるのはそのときです。
やがて北朝鮮は韓国に併合され、朝鮮半島に単一の民主主義国家が誕生することになるのですが、このような状況になれば、日本の自衛隊が北朝鮮国内を隈なく捜索して拉致被害者を救出するということが可能になってきます。それまでの圧政からようやく解放された北朝鮮の国民は、その捜索に進んで協力してくれることでしょう。
東アジアの冷戦が終結すれば、北朝鮮から拉致被害者を救出できるだけでなく、沖縄などの米軍基地もほとんど必要ではなくなるでしょう。
沖縄に米軍基地が必要なのは、朝鮮半島や台湾海峡での有事に備えるためです。その有事とは、例えば先に述べた、米韓連合軍の北朝鮮侵攻による金正日政権の崩壊と、それに伴う拉致被害者の救出といったことです。このような有事に備えるため沖縄などに米軍基地が必要なのです。しかしそうした有事によって東アジアの冷戦が終結するのならば、その有事が勃発する前はそこに米軍基地が必要なのですが、その有事が終了して東アジアでの冷戦が終わりを告げたあとは、そうした米軍基地がほとんど必要ではなくなるのではないでしょうか?
日本では今、沖縄の米軍普天間基地の移設問題が焦点になっています。米軍基地は以上のような理由により現在は必要不可欠のものですが、それが沖縄に集中していることによって、沖縄県民が最も負担を強いられています。特に普天間基地は街中にあるので、その周辺の住民は極めて危険な状態にあります。その危険を回避するため、自民党政権時代に辺野古のキャンプシュワブへの移設が提案されました。ところが、その計画を見直すという選挙公約を掲げて2009年に民主党が政権を獲得しましたので、辺野古が最善の移設先だと主張するアメリカと、辺野古ではなく沖縄県外への移設を主張する沖縄県民との間で、民主党政権は板挟みになっています。平和が当たり前になっている平時には、有事に不可欠となる米軍基地の必要性が忘れられがちです。そのため地元住民の不満ばかりが強調されてきました。
鳩山首相は沖縄県民の負担を軽減するため県外移設の方向で検討していますが、現実に移設候補地となったところでは、地元住民が猛反対をして交渉さえできない状態です。そうした地元住民の意識の中では、自分たちが住む地域の平和を愛するあまり、その平和が日本全体の安全保障の枠組みの中で成り立っているという認識が抜け落ちているのでしょう。そのため、日本の平和を守ってくれている米軍基地の存在を忌まわしいと感じ、沖縄県民の負担を分かち合うことを拒否するのでしょう。(ただし、その県外移設候補地については、アメリカ側も軍事計画を遂行する上で適切ではないと拒否しました。)
しかし、米軍基地の存在は永遠のものではありません。東アジアでの冷戦が終結するまでの暫定的なものです。かつて東西に分断されていたドイツでは、ベルリンの壁が永遠に続くものと思われていたに違いありません。しかし1989年11月、ベルリンの壁は劇的に崩壊しました。同様のことが東アジアで起こらないとは限りません。中国の共産党一党独裁が崩壊し、北朝鮮が韓国に併合されるようなことになれば、東アジアでも冷戦が終結し、沖縄その他の米軍基地はほとんど不必要となるのではないでしょうか?
そのときが来れば、それまで日本を守ってくれていた軍事基地を撤収するアメリカ軍と、その基地の地元で負担を強いられてきた住民の皆様とに、御苦労様でした、と全国民からねぎらいの言葉を捧げられることでしょう。そしてそのときは、長年にわたって北朝鮮に拉致されていた人々が戻ってくるときであることを確信します。