雨籠り物思ふ時に霍公鳥我住む里に来鳴きとよもす
 
                           七首 宅守が花鳥に寄せて思いを陳べた歌
                中臣宅守 萬葉集 巻十五 (3782)
 
 
降り続ける雨の中、幽閉された日々には── 思いもまた、ただ沈んでゆく。
家々の窓も扉も閉ざされ、人の姿も言葉も、なにも見えず聞こえない。── 伝わるものはいまは濡れ、ただ雨の音だけがひびいている。
 
黒い雨か、── 疫神はその巨大な黒い翼を、この地上に広げた。
雨の色は黒く変わり、窓も扉も、かたく閉ざされた。
── 閉ざされた中に、思いは出口を失い、沈んでいった。── 行き先は沈降した先にしか、ないかのように。
 
 
だが、雨降る中、霍公鳥が歌っている。── 閉ざされた窓と扉とを越えて、霍公鳥の歌がひびいてくる。
── まるで、遠くからの便りを届けてくれているかのように。
 
沈む思いの中、閉ざされかけていた眼は、ふたたび覚まされる。
── 届けてくれるのか。かなたから、そうしてかなたへと、万にもおよぶ言の葉を。