久しぶりにこの浅瀬から星が見える。いつも雨が降り続けていた。
星は天空にも、この浅瀬にも広がっている、古代人たちが見ていたときと何も変わらずに。
水面に広がる野草が、淡く紫に光っている。
── もうすぐ新月だ、天空の果てに月読は隠れ、それならなにが野草を淡く光らせているのか。
水面を走る、南からの季節の風なのか。
── いまは水面も眠りについている、まとわりつく淡い光に埋もれ、そのことに微笑みながら。
目を覚ませば、大嵐の中で誰からも恐れられてきた、天空のあの水の神は、眠るときはいつもお気に入りの場所だけを選ぶのだろう。
夜闇の果て、星宿のもとにかすかに稜線が見えるここは、天空の水の神のお気に入りの場所なのだろう、── 淡い光がまとわりつく、この水面が。
誰からも恐れられてきたものなら、それに従えば、おそらく多くを与えてくれるのだろう。
だが、従わなかったとしても、多くを与えてくれるのだろう、── 紅く光を通す水晶珠でも、蒼く光を通す水晶珠でも、与えられるものであるという点で、変わりはない。
── なにを受け入れるかという話なのだ。
夜の水面に南風は遊び、水面は光をまとい、笑いさざめきながら、それでもまじめな口調で話しかけてくる。
「きみはね、いつまでもここにいてはならない」
「いまだけなんだ、ただ迷い込んだだけなんだよ」
「── 出られなくなったら、大変だから」
「出口から出るさ、── 入り口から出ても構わないけど」
「あの方に閉じ込められたら、出られなくなる。あの方は、閉じ込めた人の歌を聞き、物語を聞き、── そんな中で眠るのがお好きなんだ」
「このあたりがどんな場所なのか、知っているさ、── 新月に近いのに、川面に光が広がっているから、このあたりの謂われがわかるんだ」
「それがわかっていて、── 」
「覚めているときの居場所が、わかってさえいればね」
河原は広く、新月は近く、水面のざわめきは静かに寄せてくる。
淡い光は、水面に満ち、── 時計を忘れてきた。いま何時なのかわからない。
呼ばれて来ただけなのだ、異郷の風が運ぶ楽の音に招かれて。── おそらくは、歌を聞かれ、物語を聞かれたいために。

Psalm 42: Ainsi qu'on oit le cerf bruire (à 8)