国と東電に刑事罰を~1324人が福島地検に刑事告訴
福島原発事故から1年以上経っても被曝被害の刑事責任を問われないのは社会的に許されないとして、福島県民1324人が11日、国や東電役員らを業務上過失致傷罪に問うべく、福島地方検察庁に告訴状を提出した。現在進行形の被曝被害。子どもたちの被曝回避や避難支援もままならないまま、誰一人として刑事責任をとらないままに原発再稼働までが実行されようとしている現状に、ヒバクシャ・福島県民
らが〝待った〟をかけた
【検察官を突き動かすのは世論】
福島地検に告訴状を提出したのは、三春町の武藤類子さん(58)ら1324人。
被告訴人は、経産省安全保安院の寺坂信昭院長、原子力安全委員会の斑目春樹委員長、原子力委員会の近藤駿介委員長、文科省の板東久美子前生涯学習政策局長、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーの山下俊一福島県立医科大学副学長、東京電力の勝俣恒久取締役会長や清水正孝前取締役社長ら、計33人。
耐震設計指針改定の際に具体的な津波対策を講じなかったとして業務上過失致傷罪(刑法211条)、SPEEDIを公表せず子どもたちの避難基準を年20mSVに改悪、安全宣言を繰り返して住民を避難させなかったとして、やはり同罪の適用を求めた。東電役員らに対しては、さらに「人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律」(公害罪)第3乗第2項を、法人としての東京電力株式会社にも公害罪を適用するよう求めている。
この日は告訴人のうち、約200人が訴状提出に参加。横断幕を掲げながら、福島市市民会館(同市霞町)から福島地方検察庁(同市狐塚)までをデモ行進。武藤さんや河合弘之弁護士(68)ら5人が代表して刑事捜査課の統括捜査官らに告訴状を手渡した。告訴団側は、今月中にも告訴人から寄せられた委任状や陳述書を提出する構え。捜査官らは「内容を審査して受理するか否かを決める」とし、告訴状の預かり証を交付した。河合弁護士は「正式に受理され捜査が始まるまでには最低、一年はかかるだろう。長い闘いになる」と見通しを語った。
告訴団は3月16日に結成。約3カ月間で1300人を超える賛同者を集めた。告訴団長の武藤さんは「どれだけの人が参加してくれるか心配だった。福島県民は黙っていないぞという、1300人以上の想いを無駄にしてはならない。原発事故の責任の所在を明らかにしないで、本当の福島復興はありません」と話した。
河合弁護士は「刑事責任追及を求める世論が一番重要。検察は世論を注視しながら捜査を進めるもの。告訴人がもっと増えれば、検察官を立件・起訴に突き動かす最大の力となる」として、賛同者を増やすよう呼びかけた。
福島地検に向けて行進した告訴人たち。
約200人が訴状提出に同行した
=福島市霞町
【再稼働を論じるのは被曝の責任をとってからだ】
浪江町に生まれ育った男性(58)は「誰も責任をとっていないなんて許せない」と告訴人に加わった。
元大工。自宅も自ら建てた。巨大地震にも倒壊することなく耐えたが、翌12日に避難のため家を出て以来、一時帰宅で数回帰っただけになってしまった。しばらく横浜市内に避難していたが、現在は伊達市内の民間借り上げ住宅で母親と避難生活を送っている。
「野田首相や佐藤県知事、東電の幹部には『家の鍵を預けるから自由に使ってくれ』と言ってやりたい。町民は誰も、いずれ浪江町に帰って暮らせるなんて思っていないよ。線量計を持って一時帰宅すると、自宅周辺で軽く10μSVを超えるんだから。どうして嘘をつくのか。正直に汚染状況を話して責任をとってほしい」
自宅は雨漏りやネズミなどの糞ですっかり荒れ果てているという。「亡くなった父親の墓が町内にあるが、遺骨を移すのも簡単ではなく、どうしたものか悩んでいる。こうやって苦しんでいるのに、その責任もとらないまま大飯原発を動かそうとしているなんて、本当に許せないよ。とんでもないよ」と語気を強めた。
郡山市の男性は、孫の内部被曝を心配する日々。「生産者の苦しみは理解しているつもりだが、幼い孫がいるとつい、食べ物の産地に目が行ってしまう。原発事故がなければこんな思いをすることもなかった」と苦悩を吐露した。いわき市の主婦は事故直後、一カ月ほど新潟県に自主避難したが、夫の仕事の都合もあり、いわき市に戻った。「子どものことを考えると、福島に帰るのは怖くて仕方なかった。これは、原発事故という名の犯罪。責任を明確にしてほしい」と涙で言葉を詰まらせた。
「告訴状の提出日を今日にしたのは、やはり3.11を意識したからです」。団長という重責を引き受けた武藤類子さんにとって、この3カ月間は告訴人集めに奔走し続けた日々だった。当初、1000人を目標に県内各地を回ったが、300人以上も上回る賛同者が集まった。原発事故を機に避難と残留など不毛な対立が生じてしまったとして心を痛めてきた。
「今日は、私たちの行動を後押しするような晴れになった。刑事告発は、将来の子どもたちに対して責任を果たすだけでなく、バラバラにされてしまった福島県民の心を一つにつなぐきっかけにもなったらうれしい」と話した。
会津若松市の男性は、被曝からわが子を守
ろうと必死に動いてきた。「このままうやむや
になってしまうのは絶対に許せない」
=福島市市民会館
【原子力村の常識は一般市民の非常識】
弁護団の一人、保田行雄弁護士(61)は「避難区域の策定や損害賠償といい原発再稼働といい、福島県民の意思が無視されたまま事態が動いている。経産省の原子力安全保安院は、薬害エイズ問題の沖の厚生省薬務局と同じ。専門家と呼ばれる人たちにしても薬害エイズ同様、いかにいい加減かは明白だ。山下俊一氏らに健康調査を行う資格はない。さっさと福島から去ってもらいたい」と糾弾した。
河合弁護士も「被曝を傷害と位置付けられるか、法律上の論点になることは承知の上。自殺なさった方々にしても、原発事故がなければ命を絶つことはなかったわけで、原発事故との因果関係は明らかだ。当時の国や東電の幹部らは、十分に刑事処分に値する」と述べた。
さらに「オリンパスの粉飾決算問題を見てください。あれよりも何万倍も大きな事件なのに、メンバーチェンジがない。東電の役員は、誰一人として刑事責任も財産的責任も問われていない。個人責任を追及せずして真の制度改革はないのです。彼らは厚顔無恥としか言いようがない。原子力村は常識では計り知れない。原子力村の常識はわれわれの非常識ですから」と、刑事責任を問われないまま関連会社に天下りしようとしている清水前社長らを批判。「野田首相は『国民の生活を守るため』と原発再稼働を決めたが、それならまず原発を止めることだ。後世にツケを残したくないのなら、原発を止めよ。まず脱原発を成し遂げてから、消費増税の議論をするべきだ。再び原発事故が起きてしまったら、日本の未来はありません」と語り「これだけの人数の福島県民が、地元福島で刑事告訴をしたことに意味がある。告訴人として立ち上がった誇りと自信を持って、さらに告訴人を増やしてほしい」と呼びかけた。
原発事故から15カ月。
ようやく直接の被害者たちが刑事処分を求めて立ち上がった。
二本松市出身で都内の大学に通う女子大生(21)は、まだ告訴人にはなっていないが告訴状提出には駆け付けた。
「私も告訴人になろうかな」
被告訴人には、東京電力の勝俣会長や清水
前社長らの名前がずらりと並ぶ
(了)