藤木くんと親しく交流していた数年間、今かえりみるに、その思い出といえば、やはり旅にまつわることばかりです。

 

 

 人はなぜ旅をするのか、そして旅を愛するのか。

 

 

 江戸川乱歩の晩年のコトバに「うつし世は夢 夜の夢こそまこと」というものがありますが、藤木くんの場合、そのコトバをまさに旅世界に平行移動させていたような感じがします。

 

 

 一応名の通った会社ではありますが、高校卒業と同時に就職し、その後旅行やら遊びやらに熱中し万年ヒラ社員を自ら義務づけているようなところがありました、それに加えて、なかなか理想的な恋愛もできず結婚もできず、これは私も他人のことは言えませんが、彼にとっての現実は呆気ない砂漠の絵模様のような感じだったのだと思います。

 

 

 煩悩の汗を砂漠の底に滲ませ、やがて彼は旅に出ることになったのかもしれません。そして、藍子と出逢い、夢と現実の混在一合な黄金の時期を神から与えられたのかもしれません。

 

 

 前置きが長くなり、申し訳ありません。

 

 

 私が日本の不動産王ならぬコインロッカー王の道を語ったその晩、彼はこんなことを不意に口ずさんでは私を意外がらせたものです。

 

 

 「今年の5月にね、オータニであったイスラエル建国記念レセプションにさ、然るべきルートで呼ばれたんだよね。しかし、セキュリティチェックが大変で、これじゃ、パーティーにも二の足を踏みたくなるってもんだよ。」

 

 

 なんのことやらわからぬ私はキョトンとした風情で、彼をみつめます。

 

 

 「イスラエルだって・・・・。」

 

 

 そういえば、彼は、日本国内に比べれば、回数は少ないものの、世界中を旅した経験もあるわけです。

 

 

 北欧のお伽噺やら、マンハッタンの刺激的な夜、それにウズベキスタンでの冒険などを、酔いにまかせては、よく私に話してきかせてくれたものです。

 

 

 東南アジアにおける学校教材なんかに寄付をしたりしては、かの地の人脈もそれなりにできたとはいっていたのを思い出したりはしましたが・・・・。

 

 

 しかし、彼の旅行というのは、本来、単なる趣味旅行に過ぎないものだと思っていただけに、建国レセプションだとか駐日大使などというワーズを耳にしては違和感を得た私です。

 

 

 なんとなく、一瞬の黄金色が彼の笑顔から派手派手しく漂う感じがしたものです。

 

 

 「ちょっとね、その関係でさ、大きな買い物をすることになってね。これは、あんまり人に言っちゃ駄目だよ。」

 

 

 微苦笑を浮かべる彼の話に、狐につままれたように、ただただ唖然とする私です。

 

 

 彼が購入しようとしていたのは、長年月にかけてね、己に勝つため己を削るように金を貯め、そして夢みた旅の到着先だったようです。

 

 

 大げさな物言いで申し訳ありませんが、つまり、2000年間、世界中を放浪し、ようやく聖地イスラエルに辿り着いたユダヤ人のようなものだったのかな。

 

 

 偶然めいたおかしな話ですが、彼の購入先である奇妙なる別荘の経緯について簡単に説明させてもらいます。

 

 

 

 

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