前田和守~rabypooh~のブログ

前田和守~rabypooh~のブログ

エッセイ・詩・日記など気ままに書いています。


テーマ:

ミリタル恒星系の第二恒星δ(デルタ)

その第三周期上にある惑星γ(ガンマ) ・・・・・

 

 

 

 

    この情報は・・・どこから・・・

 

 

 

 

 

 

アスタが時折感じる違和感

大勢の家族、賑やかなカルマの朝、兄弟、親、使用人、隣人、

その喧騒の中にあって、ナイフのように一瞬刺し入り通り過ぎる

・・・孤独・・・虚無・・・恐怖・・・

 

 

     この人達は誰だ・・・・

     ここは・・・どこだ・・・・

 

 

見慣れた顔が 見知らぬ顔に思える瞬間

見慣れた景色が 見知らぬ場所に感じる瞬間

 

 

カマイタチのように時折訪れ飛び去って行く

この違和感・・・

 

そしてあの、サックベン採りの山での出来事・・・

この空がもし作り物で、破けたらその先には何が・・・

 

アスタが生きているコレが全て

プログラムされたバーチャルな世界で

目覚めると全く違う場所の全く違う人物になっていたら・・・

 

 

認識とは、脳の情報処理がもたらすひとつの形

電気信号処理システムの結果に過ぎない

脳が変われば・・・細胞が違えば・・・結果も変わる

 

同じ色を見ている者は一人もいない!

同じ音を聞いている者は一人もいない!

モスキート音しかり

ロールシャッハしかり

同じ景色も描く者によって違う世界となり

死の淵から生還した者は色彩感覚が激しく変貌する

 

虚空を凝視する猫

空中に向かって吠える犬

突如怯えて逃げる鳥

 

彼らには見えている

我らには見えないものが見えている

見えない事が我らの現実ならば

見える事が彼らには現実

 

ならば現実とは何か!

何を以て現実とし

何を以て非現実と成すのか

 

 

 

明日、祝祭の日

 

前夜から方々でサックベンが焚かれ

祝祭の日の準備が進められていく

ラム建ち並ぶ集落に、炎と煙とサックベンを焼く匂いが立ち込める

十年に一度の祝祭の日が訪れる

 

その夜、サックベンの匂いに包まれ

アスタは眠りの深層部へと入り込んで行った。

そこで見た夢は、アスタの深層心理に埋没していた暗号か

それともプログラムされたデータなのか

 

プログラム・・・

では誰が・・・何の為に・・・

 

 

 

 

 

 

(つづく・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


テーマ:

木の根元に倒れたアスタは、仰向けのまま目を開けると

木の枝々が空を隠しているのが見えた。

第一恒星ミリタルからの光が木漏れ日となってチラチラ注ぐ。

ようやく呼吸を取り戻し、木漏れ日の眩しさを感じていると

枝の葉がザザザザジジジジと震え出した。

次には地がズズズズと振動し

次の瞬間、空を覆っていた枝々が大きく波打ち

ザバンと二つに割れた。

剥き出しになった空では雲が

やはり同じようにザザザザザと震えている。

雲の震えが大きくなった時・・・

空が・・・バンッと二つに割れた。

そこから闇が降ってきてアスタの上に降り注ぎ

アスタをすっぽりと包んでしまうと

アスタは自分の体が急速に冷えて行くのを感じた。

恐怖で鼓動は高まり、それとは逆に

体は冷たく凍っていく・・・

アスタは再び意識を失ってしまった。

 

 

 

次にアスタが気を取り戻した時・・・

 

 

 

アスタは・・・サックベンを採り終えた木々間にいて・・・

兄弟達に声を掛けようとした、その時に居た。

周りの兄弟達や父達もそのままに

まるで何も起こらなかったかのようだ。

これは・・・幻覚か・・・

しかしアスタの心臓は激しく鼓動し

手や頬は冷たく冷え切っている。

何かが起こった筈・・・

 

その時、妹コル、ギル、ヲルが自分を呼ぶ声がした。

「アスター。兄さーん。」

「ほら見て!これ!」

「そこから見えるー?」

「こんなに立派なサックベンよー!」

「こんなに採れたわ!」

「あたしの方がいっぱいよ!」

「なによ、見付けたのはあたしよ!」

「あたしよ!」「あたしよ!」「あたしよ!」

ひとつの体を取り合いながら、賑やかにはしゃいでいた。

山、木々、水面に反射する兄弟達の笑い声

 

木々の葉が震え・・・空から・・・雨が降ってきた

 

何も起きていない。何も・・・なかった・・・

少なくとも皆には何も・・・誰も気づいていない・・・

 

アスタは自分の身にだけ何か分からぬものが起きたのだと感じていた。

誰にも分からぬ何かが・・・

 

 

 

 

しかし・・・その全てを見ていた者がいた・・・

アスタの身に起こった全てを・・・

 

下僕オリエ

 

アスタから16間離れたところで一部始終を見ていた。

オリエだけは一部始終を理解し

一部始終をアスタと同じように感じていた。

オリエは、ただ見ていた。

何もせず、何も言わず、手を差し延べる事も助ける事もなく

ただただ全てを黙って見ていた。

 

それが下僕の自然的存在だった。

あるべきものを起こるがままに

救済も審判もなくそのままに

ただただ全てを見ている・・・

 

 

 

全ての下僕は全てをただ黙って見ていた・・・

 

 

 

 

 

(つづく・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


テーマ:

γ時間で86.4時間歩いた。

アスタ達はようやくミリタル地区に辿り着いた。

 

ミリタル地区

第一恒星ミリタルと同じ名前のその場所は

太陽からのエネルギーが最大限に降り注ぐ原生の地。

野草サックベンは、その地にのみ10年に一度生育する。

小高い山と草叢と小さな池とそして降り注ぐ太陽光線。

植物はエネルギーをいっぱいに受けて

思う存分手足を伸ばし、生を生きて茂っている。

 

父オーギリュウと、もう半分の父バルの合図で

兄弟達はミリタル地区に散入して行った。

兄カイドルは池の方へ

コル、ギル、ヲルの三人は草叢へ

弟ヒルバは山の中腹の木の上へ

アスタは、父オーギリュウ・バルと一緒に山の木々の中へ

他の兄弟達も、それぞれにそれぞれの場所で

充分に育ったサックベンを探し、採取していった。

 

兄弟達は、サックベンを採りながら

声を上げ、名前を呼び合った。

どれくらい採れたのか

良いサックベンが多く生育しているのか、いないのか

手が足りなければ、こちらに来て欲しい

手が空けば、必要な場所へ

様々な会話が、遠く離れた場所同士で交わされ

ミリタル地区の山、木々、水面に反射して響き渡った。

 

どれくらいサックベンを採っただろうか

アスタのいる山の木々の間では、もう採り尽くしてしまった感があり

他の場所へ移動しようかと、兄弟達に呼びかけようとした時

妹コル・ギル・ヲルがアスタを呼ぶ声がした。

妹達がいる草叢では、サックベンが豊作で人手が足りないのか・・・

 

「アスター」「兄さん」「兄さーん」

山、木々、水面に木霊して響いて届く

「アスター」「アスター」「アスター」

「兄さーん」「兄さーん」「兄さーん」

 

「分かったー、今そっちへ行・・・」

アスタが答えようとした時・・・答えようと・・した・・時・・・

声が出ない。自分の声が出ていない

「今そっちへ・・・」

答えようとすればする程、益々喉は詰まり、声は押し込められていく。

首を絞め付けられたようで息すらままならない。

 

「アスターアスターアスターアスターアスターアスター」

「ニイサーンニイサーンニイサーンニイサーンニイサーン」

 

三人の声が折り重なるように響いて届く

 

「アスターニイサーンアスタアスターニイサーンアスタアスターニイサーン」

 

その声は、アスタの耳から飛び込んで頭の中で響いていた。

頭の中をぐるぐると掻き回すように走り回っていた。

 

アスタは叫び声を上げようとしたが喉は逆に強く締まり

息苦しさとめまいで、傍らの木の幹に縋りついた・・・

縋りつこうとした・・・

その時、その木が自分の方へ、自分の上に折り重なるように傾いてきた。

避ける間もなく、木はアスタの上へ・・・

 

次にアスタが目を覚ました時

アスタは木の根元に倒れていた。

倒れたのは木ではなくアスタの方だった。

平衡感覚を失ったアスタは、気を失って木の根元に倒れていた。

 

 

 

 

 

 

(つづく・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


テーマ:

ラムの家族は、血筋で決まるのではない。

資質や適性・相性で、互いに引き合い形作られている。

アスタには曾祖母が三人、曾祖父が九人

祖母が四人、祖父が二人

母が八人、父が一人と半分、兄弟が18人いた。

使用人は、ひと部屋に一人ずつ付いており

ひとりで何部屋も担当する者も

途中で脱落する者もいる。

更に下僕は自家増殖と消滅を繰り返すので

その実数は誰にも把握できていない。

 

生活上の役割も自然発生する。

作物を育てる者、魚を漁る者、品物を売る者

工具を作る者、取り締まる者、纏める者・・・

細胞の分化のように、各々の天分のハマる方向に

自然に引き寄せられて行く。

 

ひとつのラムが、そこに住む家族によって

ひとつの村のように機能していた。

 

 

 

 

その日、アスタは兄弟たちと一人半の父に連れられて

サックベン採りに出かけていた。

サックベンとは、祝祭の日に食べる野草である。

 

父オーギリュウともう半分の父バルは双子であり

バルの体の残り半分はオーギリュウの中に埋まっている。

体や臓器を半分共有している。

これは良くある事で、三人、四人で共有している場合もある。

 

9番10番11番目の妹、コルとギルとヲルも

三人でひとつの体を共有していた。

しかし、心は共有していないので

三人でやかましく喧嘩をするときもあれば

ひとつの皿のスープを頬付けあって飲む事もある。

 

この日は三人はしゃぎ合って

アスタの前の田舎道を

ひとつしか無い体の手と足を奪い合って

転びながら走りながら進んでいた。

 

アスタの3番前の兄カイドルは

体も大きく頭が良くて心が広いので

18人兄弟の中で長男の役割を担っていた。

アスタと一緒に集団の一番最後を歩き

全体を見守りながら、アスタに

空(くう)の話、地の話、草の話をしていた。

 

先頭には、一人半の父と一緒に

十八番目の弟ヒルバが付いていた。

ヒルバは体がとても小さく、空を飛ぶことが出来たので

道のりの先を偵察しては、父の肩に頭に手の甲に戻ってきた。

 

 

そして・・・列最後尾のアスタ・カイドルの更に・・・16間後ろには・・・

 

 

 

 

アスタの下僕オリエが・・・ヒタヒタヒタヒタと・・・

ただヒタヒタと・・・無言で歩いていた

 

 

 

 

 

(つづく・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


テーマ:

ミリタル恒星系の第二恒星δ(デルタ)

その3番目の公転周期上に惑星γ(ガンマ)があった。

 

創世期、熱と窒素と圧力によってγに有機物が生まれ、

互いに入れ込み溶け合い分裂を繰り返し、やがて自律運動を始めた。

億を越える長い年月の後、有機物は高度な知能を持つようになった・・・・・

 

 

 

 

 

少年アスタは、カルマと呼ばれる楽器の音で目が覚めた。

ラムと呼ばれる高床式住居の中空に浮かぶように揺れる寝床。

その床窓(ゆかまど)から、第二恒星δの光が静かに差し込み、

やがて昇る第一恒星ミリタルの通り道を作っていた。

 

住居ラムは、アリの巣を逆さにして宙に向けて伸ばしたように、

幾つもの部屋が折り重なるように連なって作られていた。

ひとつのラムに、幾つかの血族が合結して住み、それがひとつの大きな家族を構成していた。

 

カルマの音色はラムごと、つまり合結家族ごとに違う。

毎朝、ラムの大人達が最上部の部屋に集まり、合結した我々ラムの血族の音色を忘れないよう、

伝承の楽器カルマを奏でて、二つの恒星が昇る朝を迎える。

 

 

少年アスタは14歳。

まだカルマを奏でる年齢ではない。

16歳になると、ようやくカルマに触る事を許される。

目覚めたアスタは、使用人の下僕オリエに連れられて、最上部の部屋に昇り、

カルマの音色に包まれた。

 

弾むようなリズム

細胞を震わせる音色

心浮き立つ旋律

 

やがて同年代の少年達が集まり始める。

朝の挨拶を交わす。

笑う者。はしゃぐ者。怒る者。泣く者。

喧嘩をする者。カルマに合わせて踊る者。

 

日毎訪れる朝、朝、朝、

 

ラムの家族が一堂に会する活気溢れる賑やかな時であった。

 

 

 

 

(つづく・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


テーマ:

左手の指の間に感じた小さな違和感

チリチリとしたわずかな感触

 

やがて左腕を突き抜ける稲妻のような痛みに変わり

瞬く間に右腕までへと拡大して行った

今や僕を支配する大きな激震となり

僕の心まで呑み込んで行った

 

その後、肥大した激震は腕の回復を待たず

右足首から膝、足の付け根、腰

そして左足へと更に肥大を続けて行った

 

その都度、頚椎のズレは第五第六から

四・三・二・・・へと次々と進み

胸椎・腰椎・・・脊椎の様々な箇所が次々とズレて行った

不安定な脊椎は、僕自身を解体して行く

徐々に徐々に・・・忍び寄る影のように・・・壊れて行く

 

何度手術をしただろう

治してはズレ治してはズレ

最早手術も追いつかず、安静を保ち温存療養に依るしかない

 

この両手両足を縛り付ける痛みは・・・!!

・・・治すことは・・・出来ない・・・

僕の毎日は、ただこの痛みに耐える事でしかない

治すことが出来ないのならば

僕が生きていく意味は、ただこの痛みに耐える事でしかないのか

命尽きるまで痛みに耐え続けて・・・

 

 

消灯後

電気の消された病室のベッドに横たわり僕は繰り返す

 

 

20時・・・今、帰宅

 

   ベッドの枕元に置いた時計を見る。

   遅々として針は進まず、もどかしく時間を待つ。

 

ようやく21時・・・今、夕食

 片づけ、ゴミ出し、風呂、洗濯・・・

 メールをチェックし、そして・・・

 

やっと24時・・・今から自分活動だ・・・

 

 

 

病室のベッドに横たわり

両手両足の痛み痺れに圧し潰されながら

僕は毎晩同じ時刻になると繰り返す

 

自分の部屋での毎日のルーティーン

 

20時帰宅

21時夕食

片づけ、ゴミ出し、風呂、洗濯・・・

メールをチェックし、24時から・・・

 

つまらなく過ぎて行った毎日の日常作業

今はもう・・・それすら出来ない・・・

 

頭の中で繰り返すだけだ

毎日毎日

 

20時帰宅

21時夕食・・・

 

 

 

世の中には分からない事の方が遥かに多い

原因も治療法も分からぬものが

笊の目のようにある

治せない・・・治せないんだ・・・

 

 

 

明日の朝

頚椎のもう一箇所がズレて自律神経を圧迫したら

呼吸中枢に影響が及んで自発呼吸が停止する

 

・・・その時、僕はやっとこの痛みから解放される・・・

 

呼吸装置は付けないで下さい

機械で無理に生かし続けないで下さい

生かされえば生かされるほど

痛みが強く続くのだから・・・

 

2年間耐え続けてきた両手足の痛みしびれ

そして手術と壊れてゆく身体

 

静かに終わらせてほしい・・・

治せないのならば・・・

痛みが消えないのならば・・・

 

静かに ・・・・・

  静かに ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

(終わりのない ・・・・・ )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


テーマ:

綿毛のような柔らかな感触に全身が抱き包まれた

日射しが穏やかに添い寝して
体の奥にまで暖かさを滲ませる
ふわふわと浮かんだ空気の層に乗り
ゆっくりと揺られて眠っている
羊水に浮かんだ胎児の感触が蘇り
自分が何者なのかを忘れさせてくれる
これほど甘く裕な眠りは何日振りだろう
溶けるような深い眠りは安らぎを感じさせてくれた
 
「終わりましたよ。大丈夫ですよ。」
 
呼び起されて重たい瞼を薄っすらと開いた。
まだ眠りの中から覗き見しているようで焦点が合わない。
 
「もう大丈夫ですよ。上手く行きましたよ。」
 
Drが僕の顔をのぞき込んでいるようだ。
その言葉を聞き終わらないうちに、再び眠りの奥へ落ちて行った。
 
どれくらいの時間が経ったのだろう。
甘い眠りは徐々に薄れ現実感が濡れ水のように少しずつ体を浸していく。
 
「どうですか?気分は悪くないですか?」
回診に来ていたのか、Drがまた傍らで呼びかけた。
「まだ頭がはっきりしなくて、眠いです」
「もうじき麻酔が切れますから、そしたら戻りますよ」
 
首に手をやると、装具が嵌められている。
点滴は足に刺されてあった。
意識が戻って来れば、現実を思い知らされる。
 
「先生・・・」
呼びかけようとして、両脇の手すりを掴んだ時・・・
ビリッ!
手摺が冷たいせいだろうか、嫌な感覚が両手に蘇った。
動悸で息が苦しい。
確かめるようにもう一度、手すりを握った。
今度は突き刺すように痛みが両腕を突き抜けた。
ウッ、息が詰まる。
 
「せ・・せん・・せ・・い・・・痛いです。まだ腕が痛いです。」
「無理をしちゃいけませんよ。手術は成功しました。
 頸椎がこれ以上ズレない様に固定しましたから大丈夫ですよ。」
「でも腕が・・・」
「一度傷ついた神経は治すことが出来ないんです。これからリハビリで・・・」
 
 
治すことが出来ない!!・・・・・治すことが出来ない・・・・・治すことが出来ない・・・・・治すことが・・・・・
 
 
 
同じ言葉が頭の中で何度も跳ね返る。
 
 
 
 
   ・・・・・治すことが・・・・
    
      
          ・・・・・出来ない・・・・
 
 
 
  ・・・・・治すことが・・・・
 
 
          ・・・・・出来ない・・・・
 
 
 
  ・・・・・治すことが・・・・
 
 
           ・・・・・出来ない・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
            治すことが・・・・・・・・・・・出来ない!!!!!
 
 
 
 
 
 
 
 
(つづく・・・)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

テーマ:

駆け付けた看護師は、僕の様子を見るなり

すぐに当直のDrに連絡を入れた。

「進行が速いな。」

Drは小さく呟き、鎮痛剤と鎮静剤を注射するよう指示を出す。

「注射はやめて下さい。針を刺すのはやめて下さい!」

懇願するように声が漏れた。

今、針を刺されたら破裂してしまいそうだ。

これ以上、刺激しないで欲しい。

今起こっているコレを、静かに治めて欲しい。

ただそれだけだった。

 

「効果は弱いかも知れませんが。」

と前置きを置いて、痛み止めと導眠剤の錠剤が渡された。

 

Drと看護師は、これで良し、といった風で病室を去って行ったが

弱いどころか、錠剤は状況を何も変えてはくれず

歯を喰いしばり運命を呪うように只々痛みに耐え

1秒1秒時間が過ぎるのを祈るように待った。

永遠に続くかと思われるほどの長い夜を痛みと共に過ごした僕は

気力も失せたようにすっかり憔悴し

一睡も出来ぬまま手術当日を迎えた。

 

僕と言う存在自体が、痛みと痺れの塊となった両腕に支配されたように感じる。

僕がこいつらの付属品のようだ。

 

予定時刻より早く手術が行われる事になり

僕はベッドごと、手術室へと運ばれて行った。

 

酸素マスク、心電図、パルスオキシメーター、血圧計・・・

僕を支配する様々なもの達に繋がれていく。

手術台に仰向けに寝かされると

丸い六つのライトが 「これから手術だ」 と宣告するように

強烈に顔を照らしてきた。

 

麻酔薬吸入マスクが取り付けられる。

麻酔科医が耳元で数を数えるうち

急速に意識が遠のいていく。

あぁ、と這い上がろうとした一瞬の間

井戸の中に沈んでいくように“無”になった。

 

 

井戸の底に・・・静かに・・・落ちて行った・・・

 

 

 

 

 

(つづく・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


テーマ:

午後はずっとベッドで過ごした。

明日の手術に備え

右腕から点滴の薬液が

途切れなく体の中に流れ込んでくる。

これは異物なのか味方なのか

ジッと目を閉じていると、冷たい薬液が血管を伝って

体の隅々にまで侵食して行くのが分かる。

点滴のバックが、自分の内臓の一部のように見えてくる。

 

いや・・・逆に僕はコイツの一部なのかもしれない。

繋がれた管の中から、コイツの「体液」が流れ込み

僕の体をコントロールし始めている。

 

僕の血液が、「薬液」という名前のコイツの体液で満たされていく。

僕がコイツにナッテイク・・・

 

僕はそのまま眠ってしまったようだ。

薬液には、抗生剤、ブドウ糖に加えて鎮静剤も入っていたのか

フワッと宙に浮いていくように、自分が自分から遠ざかって行った。

 

どれくらいの時間が経っただろう。

寝ている間に点滴を差し替えたのか

針が先程までより深く刺さっているように感じる。

不快な違和感は、意識をそこに集めさせてしまう。

再び目を閉じて、気を逸らそうとすれば

反発する磁石のように、逆方向へ意識が走る。

遂には刺さっている針のその先端へ、全意識が集中してしまった。

 

点滴台が揺れるのか

針が時々、グズグズッグズグズッと腕の中で動いている。

まるで生き物のように、

まるで自分の意志でそうしているかのように。

グズグズッグズグズッ

グズグズッグズグズッ

 

小さくくすぐるように動きながら

ソイツは徐々に腕の奥へと入り込んでくる。

不快な痛みに顔をしかめた時

ドンッと撃ち抜くような速度で

腕の最深部へ噛み付いてきた。

喰いちぎる様な激痛が指先から脳天まで走り

叫んだが、喉が詰まって声が出ない。

 

ソイツを引き抜こうと左手で掴むと・・・

 

何もない。

 

左手はただ空を掴んだ。

目を凝らして良く見ると

点滴は既に外され、右腕には何も刺さっていない。

 

けれど先ほどの激痛は
右腕から脳天に貫くような激痛は
消えていない・・・
左腕のそれより遥かに激しく強く感じる。
 
何が起こっているのか察しは付いた。

 

僕は激痛で痺れる両腕を伸ばし
助けを求めようとしたが
最早、腕は自分の思いに従ってはくれない。
 
痛みを伴う塊となってしまった両腕と
何分格闘しただろう。
 
シーツを掴みながら、腕を少しずつ
這わせるようにしてベッドの脇ににじり寄せ
痛みと動揺で震えながら・・・
 
ナースコールを・・・・・押した・・・・・
 
 
 
 
(つづく・・・)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 


テーマ:

目覚ましのアラームが遠くで鳴っている。

その音が次第に近ずき、耳のすぐ近くまで寄って来た。

目を覚まし、うっすらと目を開くと・・・いつもの自分の部屋の天井。

首を倒して辺りを見回す。

やはり自分の部屋だ。

あれは何だったんだ・・・ただの夢か・・・

安堵に包まれ、アラームを止めようと左手を伸ばした時

稲妻のような痺れと痛みが左腕を走った。

思わず声を上げ、目を見開くと・・・

そこには病室の真っ白な天井と真っ白な壁。

 

今度は、どっちが夢なんだ・・・

 

心電図の音。点滴のバック。消毒液の匂い。

廊下を走るストレッチャー。

忙しなく出入りする看護師たち。

 

腕に刺さった点滴の針の痛みが

これが現実だと教えていた。

 

レントゲン、MRI、血液検査、DEXA法、ABI・・・

様々な検査が行われ、僕の体が、画像や数値になって

解体されて行った。

自分の体の内部を客観的に見るのは不思議な体験だ。

死んで骨になったら、こうなるのだと見せつけられているようだ。

 

やがてドクターがやってきた。

「手術しましょう。」

もはや何を言われても動じなかった。

 

第五第六頚椎にズレを生じ

神経を圧迫している。

進行すると次第に、右腕、両足へと痛みが広がり

更には自律神経に障害が及び・・・

 

ドクターの説明が続いたが

遠く彼方に居るようで、心に響かない。

これは、本当に自分の話だろうか・・・

また目を見開けば、自分の部屋にいるのではないだろうか・・・

 

 

「明日、手術です。」

ドクターの言葉で我に返った。

 

手術の内容、危険性、成功率など

更に説明が続く。

 

「背骨の中を通っている一番大きな神経ですからね。

 傷が付けば、麻痺や寝たきりの可能性も」

覚悟の上で了解して下さい、と言う趣旨の説明だ。

 

一体、何を了解し、何に同意すると言うのだろう。

説明の言葉は、ただ音として頭をすり抜け

内容が入って来ない。

 

抜け殻のように呆然と佇む僕に

更にドクターが続ける。

 

「同意書がないと手術できないのです。

 このまま放置したら、更に悪化して行きます。

 手術を選ぶのは御自身の意志ですが、

 ただ悪化していくのを待つよりは」

 

そうなのか、悪化していくのか、、、

放っておいても、悪くなる一方か、、、

 

ドクターに促されるまま

同意書にサインをする・・・サインを・・・しようと・・する。

 

しかし右手で握ったペンは・・・指をすり抜け・・・カタン・・・と・・床に・・落ちた。

固まったような空白の時間が流れた。

床に転がるペンの音が病室に響いた。

 

 

 

 

右手の指先に・・・

 

微かな・・・痺れと痛み・・・

 

を・・・

 

感じていた・・・

 

 

 

 

 

そうか・・・悪化・・・して・・・行く・・・の・・・か・・・

 

 

 

 

 

 

 

(つづく・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ameba人気のブログ

Amebaトピックス