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第6R「偽りの人。」←今ここです
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前回の話はこちら。
週明けの月曜日。自宅と会社の往復がまた始まりました。
土日は、父の見舞いのために、また帰省していました。遠距離移動はそれだけで疲れます。
父は小康状態を保ってはいましたが、ICUから一般病棟へ移る見込みはまだ立っていませんでした。長丁場になることは覚悟しておかなければいけません。
寂しがり屋で甘え上手の父の希望に応え、母はあれから2回の面会を毎日続けていたようでした。
車の運転ができない母は、電車とバスを2回ずつ乗り換え、病院まで片道2時間かけて通っていました。
重い荷物を持っての往復4時間。
「夕方帰宅すると疲れてしまって、この1週間は夕食を作る気力が残っていないし、食欲もあまりないの。」
と母は話していました。
父も大変だけど母も大変だ。。。
私も姉も、実家から離れたエリアに住んでいるので、母まで体調を崩さないか心配になります。
両親のこれからのことも気がかりでしたが、頭から離れないのは夫のことでした。
帰省先から自宅に戻った日曜の夜のこと。
夫は、自分はお見舞いにいつ行くべきか、日程を決めることに、とてもこだわっていました。
一般病棟に移ってからでいいよ、と答える私に、見舞いに行くのは義理の息子の務めだと言わんばかりに、行きたがる夫の様子に、違和感を感じます。
同棲時代から不誠実な行為を続けていながら、その妻の父にどの面下げて会いに行くつもりなんだろう。
水面下の不倫継続をカモフラージュしたいからだろうか、と推し量ってみるものの、
妻から見舞いに行けと言われた訳でもないのに、離婚を考えているはずの夫が、自分から進んで見舞いを申し出る必要もないとも思えます。
4ヶ月前に、妻に心の準備もさせず、突然離婚を言い渡した割には、夫はそれ以降全く話し合いを持とうとしませんでした。
財産分与の検索も最近はしなくなりました。相変わらず朝は一緒に出勤するのが当たり前かのように妻を玄関で待っています。
だからといって、妻に許しを乞い、これからも仲良くしていきたい、という能動的な意志も感じませんでした。
不倫相手とはもちろん密会を続けています。2人とも妻にバレているとは思っていません。
そんな状態なのに、義父の見舞いにやたらといきたがる夫。
夫が一体何を考えているのかさっぱり分かりませんでした。
私が帰省していた週末に、夫と不倫相手が会っていたことは、薄々気づいていました。
夫の古いスマホが今のスマホと同期していたため、ネット履歴の情報を私は毎日入手することができていました。
先週のこと。
「週末また帰省するつもり」と夫に伝えた後に検索履歴が更新されました。それを見た瞬間、私は頭を金槌で殴られたように、ショックを受けました。
それは、近郊の温泉宿、その周辺の美術館、電車のルート検索でした。
呼吸がまたハアハアと荒くなり始めます。
画面を上下にスクロールしていた右手の人差し指が震えます。うっかり画面をタップしてページを開いてしまえば、夫側のスマホから古いスマホの存在がバレてしまう。
夫は、私のいない週末にジャイ子氏と旅行へ行こうとしている。
私の父がまだICUにいるという状況下で。
酸欠気味なのか視界が白くぼやけてきます。
人間、愛情がなくなることもあるだろう、とは理解していましたが、
私に対する人としての情も、私の今の精神状態に対する共感・同情も夫にはもうないのか。
バレていないから構わない、という価値観なのだろうか。
涙がぼろぼろ流れます。
悲しい。
悔しい。
ショックのあまり、私は思わず探偵事務所の相談員の南瓜さんに電話してしまいました。
南瓜さんは休暇中だったのにもかかわらず、私のために時間を作ってくれました。
らぶか「南瓜さん、私は絶対証拠を取りたいのです。悔しいです。私にバレていないからって自由に会い続ける彼らがどうしても許せません。」
涙ながらに訴えると、南瓜さんは優しく、そして、冷静に答えました。
南瓜「悔しい気持ちはよく分かるのよ。でもこの場合、通常の調査料金とは別に、調査員2人分の交通費、同じ宿の部屋代もかかる。ご主人が目星つけてるお宿高いんでしょ。予約を確認できている訳じゃないのなら尚更お勧めしない。」
証拠を取るなら、以前のように、この地域内で動きが確実に読める時にしましょう、という南瓜さんの勧めに従い、気持ちを鎮め、調査を入れるのは諦めました。
二人が会うのが分かっているのに何もできず見逃すしかないなんて。
早く合意書をまとめたい。我慢するのはもう耐えられない。
実は自宅を出る前にボイスレコーダーも作動させておきました。見た目はサインペンにしか見えないものです。後日、音声を確認しました。
夫がジャイ子氏と電話で話している音声が録れていました。
私が新幹線で父の病院へ向かっている時間でした。
「あ、ジャイ子ちゃん? 今自宅からかけてる。ふふふ。うん、今ひとり。えっと電話したのはね、今日のことなんだけど。」
初めて聞く夫と彼女の会話でした。
聞いてはいけないものを私は聞いている。ドクンドクンと心臓の大きな鼓動を感じます。
「ちょっと雲行きが怪しくなってきてね。(らぶかが)今日もしかしたら泊まらずに日帰りで戻れるかもって言っててね。」
日帰りなんてするつもりはサラサラありませんでした。2人が温泉旅行に行けないように、牽制をかけておいたのです。調査を入れない以上、私に出来ることはこんなことしかありません。
「あ、うん。来週には(義父は)病室に移れそうなんだけどね。」
ジャイ子氏は、父が入院していることは知っているようでした。
「でさ、今日6時にお店予約しちゃったじゃない?念のためキャンセルすることにして、代わりに日中から会うのはどうかなと思って。たぶん(らぶかは)泊まりになるとは思うんだけどね。」
6時にどこか飲食店を予約していたということは、温泉宿プランは諦めたようでした。
「え?今日はもうやめちゃうの?とりあえず3時くらいから会おうよ。で、日帰りか泊まりか、様子見ることにしてさ。」
ジャイ子氏側の音声はほとんど聞き取れませんが、妻の意図を感じ取って、会うのは危険だと察知したのでしょうか。
夫は妻の嘘を全く怪しんでもいない様子でした。
父の見舞いと母を休ませるために帰省するのですから、日帰りする訳ないことくらい冷静に考えれば分かるはず。夫らしいと思いました。あまり人を疑うことはありません。
「3時から会わない?来週末はお父さんのお見舞いに行くから全然時間作れないと思うし。」
妻と一緒に見舞いに行く予定を不倫相手に平然と話す夫の無神経さに驚きです。
「オッケー。じゃあ、〇〇駅の改札口で待ち合わせる?」
「え? あーうんうん。ああ、先に俺がお店探しておいて、入店してから、連絡した方がいいってことね?」
やっぱり、彼女はそれなりに警戒はしている、と感じました。2人一緒にお店に入るのは危険だと思っているのでしょう。中途半端な警戒モードです。
時間をずらして入店するなどという小手先の技なんて、探偵の手に掛かれば無駄な努力です。プロの追尾から逃れることなんてできない。
私がどんな不貞証拠を掴んで、慰謝料請求したのか、彼女は本当に想像できているのか。
音声データから判明した夫の自宅出入りの時間と、ネット履歴から推測すると、3時に喫茶店で彼女と会い、夕方早めに食事をし、その後ラブホテルに入って、22時に帰宅した可能性が高い。
でも全ては推測だ。
「土曜の夜はいつもの居酒屋でご飯を食べた」
と嘯く夫の言葉に、
「あらそう。」
と興味のなさそうな顔を装って答えるしかできない自分。
悔しいけれど、
私が全て知っていることはまだ言わない。
まずは、二度と夫と会わない、と彼女に誓約させ合意書にサインさせることが先決だ。そのためには二人の関係継続に気づいていない振りをしていなければ。
この音声データは大切に保存しておこう。ジャイ子氏との示談交渉が万が一決裂し、裁判に移行した場合、彼女の証言の信憑性を疑わせる材料の一つになるかもしれない。
私は既婚者と知りませんでした
加害者であるかのように一方的に責められ、耐え難い屈辱を味わっています
金輪際ガキ夫氏に会うつもりはありません
私に慰謝料請求するのであれば、私もガキ夫氏に対して慰謝料請求をします
弁護士経由で、ジャイ子氏の言葉は伝わっていました。
こんな毅然とした回答をする一方で、切れ目なく水面下で夫と会い続けている。
彼女は一体どういう女性なのだろうか。
他人はごまかせても、自分自身はごまかせない。
嘘をついている自分を、彼女はどう思っているのだろうか。
罪悪感はないのだろうか。
妻の親が倒れたのに、密会をし続ける夫の人間性を彼女はどう見ているのだろう。
両者弁護士を入れての示談交渉中にもかかわらず、密会の頻度を全く減らさない2人。
妻に慰謝料請求を取り下げさせるために、画策する2人。
夫が既婚者であると知ってからも不倫を続ける彼女に、再度不貞行為の証拠を取り、彼らの前に突き付けたい。裁判にかけて大勢の人の前で、2人の悪質な行為を明るみにしたい。
憎悪、復讐、執着心。
2人へ向ける負の感情を、どうしても捨てることができず、私はもがいていました。