長時間の大手術を耐えて、父は奇跡的に一命を取り止めました。
一人きりの在宅中に、突然心臓近くに激痛が走り、意識が遠のきなりそうになりながら、父は自力で救急に連絡したようです。
地元の大きい病院へ搬送され、検査の結果、直ちに専門医のいる大学病院へ、ドクターヘリで緊急搬送されることが決まりました。
地上搬送であれば、病院到着まで1時間以上は要したはずで、仮に助かったとしても、後遺症が残ったかもしれません。
県に一機しかないドクターヘリが空いていた。
天候が良好だった。
経験豊富な専門医が手術を担当した。
いくつかの奇跡が重なりました。
ICUの父は、麻酔がまだ効いているのか静かに眠っていました。
生まれてから1度も手術や入院を経験したことがなかった父。
健康そのものだった父が、酸素マスクをつけ、身体中チューブに繋がれている図は、私を動揺させるのに十分でした。
人の命は
親は
永遠ではないのだ
いつまでも私の生きるこの世界にいてくれるわけじゃない
いつか いつか
別れの時が来るのだ
手術の成功に安堵しながらも、この当たり前の分かりきった事実が、現実のものとしてやっと私の中に入ってきた気がしました。
病院を出て、母、姉と共に実家に戻ったのは深夜の3時。
真っ暗なエントランスから玄関に進むと、ドアは施錠されていました。
救急隊員が締めておいてくれたのでしょう。
父は、玄関まで這って行き、ドアを開け、近くに鍵を置いて倒れていたようです。
救急隊員の電話による指示に従っての必死の行動でした。
誰もいない暗い家の中に入ると、台所の蛍光灯だけが薄っすらと灯っているのに気付きました。
中に進み、庭へ続く掃き出し窓を見ると、日中換気をしていたのか、30センチほど開いていました。
カーテンがそよそよと風に吹かれてはためいていたのが、生々しかった。
疲れた
本当に疲れた
父のこれから
夫のこと
夫の不倫相手との攻防
調べたばかりのアスペルガーの情報
脳の中で一度に処理できる容量を超えていました。