14) スッチャカメッチャカ | BIG BLUE SKY -around the world-

14) スッチャカメッチャカ

第十四話) スッチャカメッチャカ

2022年 6月13日 19時過ぎに、Erika 叔父さん宅へ戻る。

叔父さんが座る縁台横にはスピーカーが置かれ、信じられないほどの大音量でモーラムが流れている。
傍らに立つマンチェスターシティのブルーのユニフォームを着た初めて見る若者が、スマートフォンをアンプにつなげてプレイリストを流しているようだ。

音響機器から調理器具、電灯から扇風機までのパワーラインは、母屋から電工ドラムをつなげて形成されていた。
パワーラインは驟雨でできたぬかるみを渡り、犬や猫や軍鶏がその上を横切る。
安全管理者が見たら即座に逃げ出すだろう。

Erika 従妹の子に呼ばれ、一緒にテーブルをしつらえて電工ドラムにホットプレートをつなぎ、ジンギスカン鍋に似た鍋でタイ式の焼肉を始める。
この国では、歓迎される側が費用を負担する
この肉も野菜もジンギスカン鍋に似た鍋もホットプレートも、先に提供した食事代で準備したのだろう。
それでもここで宴席を囲むより、正面に座った Erika 従妹の子と一緒に、自転車に乗って川原を駆け抜けたいと思う。



[叔父宅庭先でくつろぐ猫たち,ヤソートーン] (Jun-13, 2022)


モーラム,ルクトゥーンに合わせて、Erika 従妹二人は競うように踊る。
大音響に誘われた近所の人たちが次々と顔を出しては、グラスを掴んで宴席に加わって行く。
足元を犬や猫や軍鶏が歩き回り、時折り音響と電灯の出力が揺らぐ。
滅茶苦茶だ。
Erika 叔父さんは黙して語らず、縁台の同じ位置に座ってどこかを眺めながらグラスを傾ける。

「 旅をなぞってはいけない、なぞろうとすると復讐される。旅をなぞった先に待つものは失望と喪失感でしかない 」

その旅の教訓を、今ここに初めて実感した。
9年前、私の両肩を掴んで揺さぶりながら、「 あら、あなた、また来てくれたの、よく来ましたね 」 と言って歓迎してくれた Erika 叔母さんの他界とともに、秩序までなくなってしまったのだろうか。



[叔父宅庭先の宴席を眺める猫,ヤソートーン] (Jun-13, 2022)


突如起こった怒声と打撃音の先を見ると、Erika 従妹が殴り合いを始めていた。
もう滅茶苦茶だ。
スッチャカメッチャカ, ゴッタ, カオス, コンフザオ, ごじゃ ...  ありとあらゆる無秩序を意味する言葉が過ぎる。
もう潮時だ。

黙して語らぬ Erika 叔父さんのところに行って、両手を高い位置で合わせたワイで敬意を表し、健康と幸福を祈って黙礼する。
Erika 叔父さんは、私に向かって聴き取れない声で一言何か言って微笑む。
その時初めて、9年振りに Erika 叔父さん宅を訪ねて良かったと思った。
いつかまた時のルング・ワンダルングで、Erika 叔母さんにも会えるような気がした。


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