「千年前の約束、覚えていますか?」
「なに、一体全体?」
酒を飲み交わす宴会場に似つかわしくない、剣を佩いた美貌の麗人が立っていた。
年の頃は17、8歳といったところだった。
長い黒髪を後ろで一つに束ね、切れ長で細面の目は相手を射貫くようにも見える。
今は酒に酔っているのか、頬がほんのりと赤く紅を指していた。
「あの時の約束、覚えていますか?」
「あの時の約束?はて・・・またいつか、会えたら旅をしたいか?」
「・・・・忘れていたんですね」
人間ならば誰もが振り向くだろう美しい顔が般若の形相になった。
「忘れるもなにも・・・・もうあの頃とは何もかも違うぞ?」
「違っていません!」
その大声に反応して周囲が振り返った。
「確かにあの頃とは違い、ますけど・・・・あなたは、私達に、だけは、心を向けて・・・」
目が怪しくなってきたかと思うと、剣を抜くなり相手に斬りかかった。
「そんなのだから、そんなのだから・・・・!!」
「あ、あのなぁ!」
「良くない」
一刀両断の勢いで斬りかかる相手に対抗して、明けの明星のような輝きを纏う剣を抜こうとした。
その動きを察知したのか、背後から美貌の麗人を抑え込んだ者がいた。
「奈央!もっと早く取り押さえろ!
危うく彩に斬り殺されるかと思ったわ!!」
「・・・・そう簡単に、斬り殺されるほど、あなたは弱くない。
その気になれば私を素手で抑えられる」
酒に酔って少し様子が怪しくなっていたが、言葉はしっかりしている上に目はしっかりと相手を見ていた。
「それはそれでいいが・・・・酔ってないか?」
「・・・・彩はすぐに酔う」
淡々と言うと、手刀を落として気絶させた美貌の麗人を担いでいった。
「たくっ・・・・命がいくつあっても足りやしない。
それにしても千年前の約束か・・・忘れることはないさ」
(もう一度また会えたらその時はみんなで旅をしよう、平穏無事な世の中を歩いて行こう。
いつになるかわからないが約束だぞ。
そう言って別れた仲間のことを忘れるはずがないだろうが)
「浮かぬ顔をしてどうしたんですか?」
勢いよく酒杯を煽った彼を心配したのか、日に焼けて浅黒い肌に整った顔の男性が声を掛けた。
「なんでもないさ、陽将。
それよりも・・・・酒の席くらい剣を帯びることはやめたらどうだ?」
「そういうあなたこそどうなのですか?」
悪戯ぽく笑うと、手に持っていた盃をそっと慎重に、彼の盃に触れた。
その顔は整っていて、人間ならば間違いなく女性を惹きつけてやまない顔だった。
「あの子はともかくとして、今のあなたに斬りかかる勇気あるものはまずいないでしょうね。
それなのに剣を帯びるのはどうしてですか?」
「どうしてっなぁ・・・・やめた、飲むか!」
「それでこそあなたですよ、今夜はとことん付き合いますからね!」
「望むところだ、酔いつぶれるまで飲んでやる!!」
その後、仲良く二日酔いになったことは言うまでもなかったそうです。