国産食品は安全だと言われてきたが果たして本当なのか。ノンフィクション作家の奥野修司氏は「コンビニで流通しているすべてのペットボトル入り緑茶から、農薬が検出された。日本の農薬残留値の基準は海外と比べて非常にゆるく、輸出しようとすれば検疫を通らないほど。人体に深刻な影響を及ぼしている可能性もある」という。
「残念なことに日本のお茶からは100%、ネオニコチノイド系農薬が出ました。この農薬は水に溶けやすいので、お湯で抽出されたんですね。これは事実として受け止めなくてはならないと思う。ただ、検出された濃度は、残留基準値の数%にすぎませんので過度に心配する必要はないです」こう語るのは、この衝撃的な事実を調査したチームの一人、北海道大学の池中良徳准教授だ。

検査した茶葉は39検体、ペットボトルのお茶は9検体で、そのすべてからネオニコが検出されたのである。茶葉から抽出したお茶に比べてペットボトルのお茶の数値が小さいのは、使われている茶葉の量が少ないからだろう。

いずれにせよ、私たちの体は、お茶を飲むことで、農薬に汚染されているのだ。東京女子医科大学東医療センターの平久美子医師は、お茶によるこんな症例を語ってくれた。ネオニコの人体への影響に関する研究の第一人者である。「10年以上も前ですが、緑茶を飲んで痩せようと一日に何リットルも飲むのが流行ったことがありました。当時、急に手がふるえる、不整脈もすごい、目がうつろでフラフラ、食欲がない、心臓がバクバク、そんな患者さんがたくさん来られたんです。

お茶のせいではないかと疑い、飲むのをやめてもらうと、数週間でけろっと治りました。まさかと思って、ペットボトルの茶飲料を分析したら、本当にネオニコが検出されたのです。健康のためと思って、せっせと飲んで、病気になっていたのです」

これは急性中毒だから分かりやすいが、ネオニコが厄介なのは、本当の毒性が見えないことである。人間も含めて、ほぼすべての生物は、アセチルコリンなしに生きていけないと言われる。ネオニコは、昆虫のアセチルコリン受容体にくっついて神経を興奮させ続けることで殺す仕組みだ。

哺乳類ほにゅうるいの受容体は、昆虫とは形が違うのでくっつきにくく、だから人間には安全だと言われてきたのだが、今その安全神話がゆらいでいるのである。

人体にも深刻な影響を及ぼしている可能性がある

最初に問題になったのは、ミツバチの大量死にネオニコが関係しているのではないかという疑惑だった。

一般的にDDTと言えば怖い農薬というイメージがあるが、実はネオニコのミツバチへの毒性はその数千倍とも言われ、何らかの影響があって当然だろうと言われてきた。ところがこの話をすると、「ハチが死んだところで、我々の生活に関係ないだろ」と言う人がいる。

この世に昆虫がいなくなれば、種子植物は受粉できなくなって農業は成り立たないことをご存じないのだろう。人間がこれをやらせようとすれば、ものすごいコストがかかるのである。

問題はそれだけではない。ネオニコは人の健康にも影響があるのではないかと言われている。

受容体にくっつくという作用は、ホルモンの作用によく似ている。ホルモンも一種の化学的情報伝達物質で、内分泌腺や細胞から血中に分泌され、血液の流れにのって臓器などにある受容体にくっつくことで作用を及ぼすのだが、それはきわめて低濃度で、10億分の1gどころかpg(ピコグラム)、つまり残留基準値よりはるかに低い1兆分の1の単位で大きな変化を引き起こすのだ。

人間の脳の中にもアセチルコリン受容体はたくさんある。ネオニコが人間の脳神経に影響することが明らかになっていけば、常時摂取しているだけに深刻な事態になりかねないだろう。