<あらすじ>

子供の頃に、事情により兄妹のように育った黒木聡志と白井優奈。二人は十三年の時を経て、優奈が就職のために上京した東京で再会する。密かに惹かれあいつつも、過去の出来事に縛られる二人。また、黒木の恋人・美和子も優奈の存在に気づき、ある計画を企てる。そんな中、黒木は過去との決別のために、長い間音信不通であった母との再会を果たすため、金沢へと向かう。この三人の関係はどこへ向かうのか?


夜明けのひかり 第二部




十一月も終わりの金沢は、薄い雲に覆われ、淡い太陽の光が滑走路を鈍い灰色に照らし出していた。

小松空港に降り立った黒木は、黒いボストンバッグを下げ、まっすぐにレンタカーのカウンターに向かった。時刻は十一時過ぎ。母との面会の時刻までまだ大分ある。市内でゆっくり昼食でも食べて行けるだろう。

「黒木様ですね!お待ちしておりました。営業所までご案内いたします!」

やけに元気のいい、レンタカー会社の若い男性スタッフは、決まり文句を一通り並べて満面の笑みを浮かべた。軽く会釈を返し、彼のあとに続く。週末だからだろう、旅行客の姿が目立った。

整備された車に乗り込むと、ギアをドライブに入れた。道が混んでいなければ、半時間ほどで金沢市内に入れるだろう。母との面会時間は、午後の三時だった。アクセルを踏みつつ、窓外の久しぶりの景色に目を向ける。だがそれも、一向に黒木の心には入ってこなかった。母は……どうしているのだろうか。それを思うと、柄にもなく、落ち着きをなくす自分に気づき、思わず苦笑してしまう。母はきっと……あの頃と、少しも変わっていないのだ。

金沢駅に近づくにつれ、道は渋滞し始めた。黒木は車をひとまずホテルに置くことにし、駅近くのホテルの駐車場に入った。フロントへ立ち寄ったが、やはりまだ時間が浅くチェックインは出来なかったので、黒木はそのまま街へ出た。冷やりと冷たい風が頬を撫でる。

昼食を取りがてら寄りたいところもあった。事前に連絡もしておらず、今日在宅しているかも分からないが、母に会う前に会えるのならば、是非会っておきたい人物がいた。駅前の気の利いた和菓子屋で菓子折りを一つ買うと、バスに乗り、尾張町へと向かった。尾張町から茶屋街に抜ける細い坂を下ると、辺りには風情のある木造家屋が並び、浅野川の川面を渡る風が、寂しげに水面にさざ波を立てていた。週末ということもあり、人の往来がそれなりにあるが、この街は夜の街だ。どこも戸は閉められており、駅前などに比べると随分ひっそりとした雰囲気だった。黒木はその並びの、一軒の出格子の茶屋の前に立った。「坂井」という表札が小さく出ている。黒木は一瞬ためらったが、その表札の下の小さな白いボタンを押した。古いドアホンの音が中で鳴るのが聞こえる。ややあって、ガタガタと人の気配がし、はぁいというしわがれ声と共に、一人の背中の曲がった老婆が戸口に現れた。彼女は黒木の顔を見上げると、おやあ、としわの寄った顔を更にしわくちゃにして笑った。

「こりゃあ、黒木のおあんさんとこの。えらい、ながいこって」

黒木はそのゆったりとした物言いに、自然と顔が綻んだ。素直に頭を下げる。

「はい……。ご無沙汰しております、志乃おばあさん。突然押しかけて、申し訳ありません」


Next...