亡者の群れが押し寄せる戦場。

不死の力に為すすべもなく力尽きた兵たちの中、1人の竜人(アムルタート)が舞い降りる。


「…静かな眠りも忘れる戦乱の臭い。奴を呼ぶには打ってつけな場所だな」


どこか遠い眼差しを向ける竜人。

その傍らには大きな斬馬刀が刺さっている。

しかしその大きさは馬どころか巨象でさえ両断できる程である。


「とりあえず雑魚は減らさねばな…神子が来る前の肩慣らしと行こう」


そういうと、ザッと刺さっていた刀を抜き亡者に向けて言い放つ。

「我こそは"蒼き守護者"アレフ。恐れぬならばかかってこい!」


亡者の群れは一瞬止まるものの、その恫喝は行軍を制止させるには到らない。


「…ふん、所詮亡者。怯むはずもない…か」


そう言い、眼前の群れを斬馬刀で横なぎに払う。

数十体の亡者が崩れ落ち、しかしその数に陰りはない。


「微かにだが感じる……我には隠せぬぞ、魔人」


紅いオーラを斬馬刀に集約させ前方を打ち払う。


「…よぅ、お出ましか、魔人さんよ」


前方を広範囲に燃やしてしまうほどの業炎を放つも、ある一角には届いては居なかった。


「……フフッ、忌々しきカオスフレア。私はただ私の所有物を取りに来ただけだというのに」


そう言って一歩、また一歩と歩みを始める。


「悪ぃな、アレは災厄の火種にしかならん。例え魔人であっても返すバカはおらん」


「…ならば仕方無い……ここで死ぬがいい」


魔人は手を天へと翳す。

その動きに合わせ地面から亡者が現れる。


「時は稼がねばな」
アレフは斬馬刀を構え直した。
爆音と怒号が響く戦場……。

辛うじて戦線を維持しているものの、兵たちの顔には疲労の色が見てとれる。


…………



「ディート小将、シーア様が参られました」

「…神子が?……よし、通せ」


一際体躯の大きい将、
ディートと呼ばれた男は神子と呼んだ少女と相対する。


「…神子様がこのような戦場に来てはならない。訳がお有りなら使いの者を頼めばよいものを」


ディートは子に言い聞かせるように諭した。


「……ですが、神託である以上私自身で確かめなければなりません」


シーアは一呼吸ののち言い放つ。


「戦乱に災い来たれり、理から逃れるなかれ……"星詠み"(フォーチュン)として私は災いを確かめる義務があります!」

力強く、奮い立たせるように言い放った。

「……災い?……まさか"魔人"!」


ディートは怪訝な表情ののち、驚きの声を上げる。


「であれば尚更危険です。"魔人"に対して我々兵たちは無力……神子を守ることなど…」


「…私の事は大丈夫。既に"守護者"に警護を依頼しました」

「"守護者"……アレフ殿ですか。しかしお二人で戦われるおつもりですか!」


ディートは思案しつつ切り出す。


「…戦線を後退させた後私も参ります。」

「…ディート、ありがとうございます」

「…では」


ディートは一礼すると部屋を出て行った。


「……戦乱に災い来たれり、理から逃れるなかれ……」


シーアは静かに復唱した…。

夕陽が差し込む図書室。

1人の生徒が棚にもたれて
読書をしている。





「…………」



彼が読んでいる本…。

タイトルらしきモノは無く
なんの飾りもない本。


描かれているのは、
名も無き国が
悪しき力によって滅びゆく宿命に必死に抗う様子が描かれていた。


「…よくあるSF小説か」


神子が祈りを始めた、という一節まで読み終えると

本を元の棚へと戻した。



「…惹かれたのは気のせいかな」


夕日が沈みきった頃
彼は学校を後にした。



…………



学生寮へと戻った彼は
さっき読んだ本の一文を
ふと思い出す。


「……混沌を打ち払う救世主」

名も無き救世主がイメージが掴めない。

挿絵もない文字だけの本。

ベッドに寝転んで目を閉じた。

1人の少女が祈祷している姿をイメージする。


召喚の儀式なイメージだろう。


「……混沌を打ち払う救世主」



…………


「あなたの力が必要なのです」





「……トオル」


不意に呼ばれた名前に身体を起こす。


しかし誰の気配も感じない。


確かに呼ばれた名前。


部屋の外かと思い扉を開く。

と同時に暗い部屋に眩い光が差し込んできた。


「…え」


驚く間もないまま、まるで重力が無くなったような錯覚を覚える。


「な、なんだ、これ!!」


……それはどこかに落ちていくような感覚だった。