【過去を振り返ると、
今という未来はどのように輝くのか?...】
最新の未知なる作品を観る場として、
映画祭は重要だ。今年(令和5年)、コンペティション
を長編に絞った新潟国際
アニメーション映画祭が3月に始まり、
10月には、東京国際映画祭がアニメーション
部門を新設して海外作品に門戸を
開いたことで、日本におけるアニメーション
映画祭シーンは、一気に状況が
変わりつつある。
2010年代中盤から
スタートした東京アニメワード
フェスティバルや、自分が設立に関わった
新千歳空港国際アニメーション映画祭
も含め、アニメーション映画祭の
戦国時代が始まった感さえある。
今回は、
東京国際と新千歳で観る機会のあった
作品をまず、取り上げる...。
「ロボット・ドリームズ」(2024年日本公開予定)は、
スペインの映画監督
パブロ・ベルヘル(「ブランカニエベス」
12など)が手掛けた初のアニメーションだ。
1980年代のニューヨークを
舞台に、孤独に暮らす「イヌ」と、彼が
購入した「友達ロボット」との交流
と別れを描く。
サラ・ヴァロンによる
同名の短いグラフィック・ノベルに
感動した監督が、自分自身の孤独な
ニューヨーク生活の体験を詰め込んで
長編化している。
アース・ウィンド・
アンド・ファイアーの名曲(セプテンバー)
が第第的にフィーチャーされ、移民
たちの友愛的交流を祝福する本作は、
背後に何度も登場するツインタワーの
存在も有り、9.11以降の世界に対する
ノスタルジーにあふれている。
別れと新しい出会いを
祝福するエンディングには、
誰もが泣かされるだろう...。
昨今、長編アニメーションにおける
面白い動きは、実写映画的文法への
接近にあった。たとえば第1回の新潟で
グランプリを獲った
「めくらやなぎと眠る女」(22)や、
今年のアヌシーで
最高賞を獲った
「リンダはチキンがたべたい!」(23)は、
実写で撮影した
映画をリファレンスとしてアニメーション
を作ることで、映像にリアリティと
生々しさを付与する。
一方、「ロボット・ドリームズ」は、
グラフィックの方向に接近しつつ、
同じことをやってのける。線は原作通りに
太く登場人物は「キャラ」的で、
空間の立体性も、平面的な絵を舞台の
書き割りのようにマルチプレーン的に
配置することで擬似的に作り出すなど、
絵であることを、隠さない。
しかし、そこから、ニューヨークの
雑多で活力ある息遣いが繊細に聞こえてくるのだ。
新しいアニメーションのありかたが
発明されたかのようで、興奮する。
備考:この内容は、
令和5-12-20
発行:キネマ旬報社
より紹介しました。