長野県木祖村で美酒を醸す湯川酒造店さんのお酒をまとめて取り寄せて飲み比べをしました。
7本目はこれです。
「十六代九郎右衛門(じゅうろくだいくろうえもん)山廃純米 美山錦」。
10年余り、生酛酒母と山廃酒母の酒造りを突き詰めてきた蔵元杜氏の湯川慎一さんは生酛と山廃の違いについて次の様に話しています。
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生酛&山廃は空気中にいる乳酸菌を呼び込んで乳酸をたくさん作らせて強酸環境を作るわけですが、乳酸菌を呼び込む前に他の雑菌が入らないように気を遣わなければなりません。
教科書的には硝酸還元菌による亜硝酸反応を活用して乳酸菌が来る前の雑菌対策をしなければならないわけですが、実際にやってみると山廃は亜硝酸反応が必須で必ず確認しなければなりません。
一方の生酛の方は酛摺りの結果、乳酸菌を早めに呼び込めるために雑菌の入る隙がなく、亜硝酸反応に目を配る必要がないのです。
あと、これまでの経験則で言うと、生酛の方が綺麗な酒ができ、山廃だともっと野性的な仕上がりになります。
結果として、生酛の方が今の売れる酒質になる気がします。
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この話は大変、興味深いのです。
栃木県で「澤姫」を醸す井上清吉商店の蔵元、井上裕史さんも「生酛は淡麗旨口に、山廃は濃厚旨口になります」という話と一致します。
面白いです。
さて、7本目にいただくのは美山錦65%精米の山廃純米というスペックは6本目と同じですが、こちらは火入れで、かつ2020BYに造ったお酒を3年余り低温熟成させたお酒になります。
口に含むと中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面にうっすらととろみ層を乗せて、鷹揚な雰囲気で忍び入ってきます。
受け止めて保持すると、促されるままに膨らみ、拡散しながら、適度な大きさの湿り気を帯びた粒々を次々と射掛けてきます。
甘味は上白糖系のさらりとしたタイプ、対する旨味はタイプの異なる多彩なコクがミルフィーユのように重なり合った印象で、旨味主導で奥行きの深い舞いを展開します。
流れてくる含み香はヨーグルト系の厚ぼったい香りでデコレート。
後から酸味が適量、渋味が少量現れて、乳酸主体の酸味が旨味に絡みついて、そこかしこで溶け合った複雑系の世界に転じていきます。
味わいは熱帯のジャングルのようになり、飲み下した後の余韻もやや引きずるように残るのでした。
それでは、湯川酒造店さんのお酒、最後の8本目をいただくことにします。
お酒の情報(24年58銘柄目)
山廃純米 美山錦 2020BY」
酒蔵「湯川酒造店(長野県木祖村)」
分類「純米酒」「山廃酒」
原料米「美山錦」
使用酵母「不明」
精米歩合「65%」
アルコール度数「13度」
日本酒度「不明」
酸度「不明」
情報公開度(瓶表示)「△」
標準小売価格(税込)「720ml=1630円」
評価「★★★★★(7.5点)」