2024年1月がはじまりました。本年もどうぞよろしくお願いします。

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1月1日に発生した石川県能登半島地震により、被災された全ての方々に心よりお見舞い申し上げます。皆様の安全と被災地の1日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。私がここからできることをしていきたいと考えています。

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今月の西高根モンテッソーリ子どものいえは、半分はお休みとなります。


イタリア(ミラノ•コモ•ベルガモ)のモンテッソーリスクール5校の視察とブルーノムナリメソッドのWSに参加させていただく機会を得ましたので、モンテッソーリ教育の0-3歳、3−6歳、6−12歳の環境、モンテッソーリ教育のアートの環境をこの目に焼き付け、それを館林に持ち帰りたいと思います。


今月はレッスンが少なくご迷惑をおかけしますがどうぞよろしくお願いします。

  

昨年のレッスンの中で、子どもたちは私に多くのことを教えてくれました。


その中の1人にHくん(6歳)がいます。Hくんは子どものいえに来たばかりの頃はいつも「先生、〇〇していいですか?」「先生、あの本どこですか?」「先生、〇〇ってなんですか?」「先生、こっち来てください。」「先生、先生、先生。」と私が近くに行くまで座って私を呼び続けていました。私がすぐに駆けつけることができないと涙をポロリ。思ったようにできなかった時も涙をポロリ。気がつけば90分のレッスンの中で何度も涙がポロポロポロ。という日々が続きました。

 

なんなら、玄関にお迎えに行った時から涙がポロリという日もありました。「子どものいえは嫌いではない。」ということで、お母さんは毎月レッスンの予約を取りHくんを連れてきてくれました。

 

私はHくんの涙の理由が「不自由さ」「悔しさ」「悲しさ」「不安」「自信のなさ」からきていると考えました。先生がいなければ同じ場所から動くこともできずに、ただ私を呼ぶことしかできませんでした。すぐにこなければ声も大きくなり涙も出ます。周りの状況など目に入らないほど「先生を呼ぶこと」に必死です。

 

Hくんが「不自由さ」のために泣いているのだとしたら、まず「自由」に動けるようにしてあげたいと思いました。そのためレッスン毎に教室の中を案内しました。「Hくん、今日の教室を案内するね。ここには画用紙、ハサミ、色鉛筆、クレヨン、絵具、ねんど板、絵本、図鑑・・・。どれを使ってもいいですよ。使ったら元の場所に必ず戻してね。ルールはそれだけです。」という具合です。いわゆるオリエンテーションです。

 

たったそれだけなのですが、すぐにHくんの教室での言動に変化がありました。

 

「〇〇して良いですか?」と許可を求める言葉が減りました。子どものいえは自分のやりたいことを好きなだけやって良い場所なので、そもそも誰かに許可を得る必要がないのです。

 

「どこにありますか?」と物の場所を尋ねることがなくなりました。どこに何があるのか、使った後はどうすれば良いのか知ったからです。必要なものを自分で取りに行き戻すことができるようになりました。先生を待つだけでなく自分で動けるようになりました。そのため「先生、先生」も「こっち来てください」もいつの間にかなくなりました。

 

「自分で選んだことを自分でやる。」「待ち時間がない」それだけで「悔しさ」「悲しさ」の出番もかなり少なくなりました。先生が来るまで呼ぶことに費やしていたエネルギーを、本来の自分のやるべきことに使えるようになりました。


Hくんはお父さんの仕事の関係で海外に行った経験があり、自然に地球儀、大陸、国、国旗に興味を持つようになりました。そして、今はレッスン毎に国旗の本作りをしています。


国旗の本作り(洋服は半袖)


国旗の本作り(洋服は半袖)


国旗の本作り(お友達がいても)•右は画用紙のポシェット作り(5歳)


国旗の本作り(季節が変わり洋服は長袖になっても)


文字(ひらがな・漢字・カタカナ•アルファベット)も国旗作りを通して覚えています。人生初の漢字は「首長国連邦」です。国旗の本作りの中で、国の名前を書きたい気持ちが漢字を書かせたのでしょう。大事なのは幼い子どもに文字(ひらがな•カタカナ•漢字•アルファベット)を書かせることではなく、書きたい気持ちが子どもの内側にあることです。


カタカナ(ヨーロッパ大陸は赤色)


そして「フランスはヨーロッパ大陸だからシールは赤だね。」と7つの大陸毎に決めている色とシールの場所も知っているので、国旗を書いたら大陸毎に分類し色シールを貼り、裏に国の名前を書いて完成です。手順に特に決まりはなくHくんがこのように決めました。


国旗の本作りは誰よりも詳しくなり、他のお友達に作り方を見せてあげるようにもなりました。一つでも得意なことができると自信がつき、不安の出番も減ってくるのです。一生懸命取り組んでいるHくんの姿が他のお友達にとっての環境の一部になります。


こちらはHくん


こちらはHくんに憧れるYくん(4歳)。「僕もあれやりたい!」Hくんをみているだけでやる気になります。Hくんに憧れるのはYくん1人だけではありません。異年齢構成のクラスのとても良いところです。


モンテッソーリ教師はHくんに何をしたかというと、教室にあるものの場所と使い方を見せました。惑星•大陸•地形の名前を紹介しました。それによりHくんが自ら学び始めたのです。


太陽系の惑星


世界地図パズル。My 世界地図パズル制作中。


世界の陸と海(絵の具)


地形の説明カード


対称地形(海と陸)、左は5歳


海の色水作り(青が水に混ざる様子に釘付け)


別の日の対称地形(みたものを書きます)、左は同じ6歳


アジア大陸のパズル•左は花の部分のパズル(4歳)


材料置き場で、画用紙と筆記用具を選んでいます。何を選んでも自由です。


そして、とうとうHくんが気づきました。「子どものいえには国連加盟国198の全ての国旗がない!」ということに。


6歳を過ぎてそれに気がつくと、子どものいえから自ら出ていくことになります。Hくんの知りたいことがわかる場所へと。それは図書館かもしれないし、どこかの博物館かもしれないし、インターネットかもしれない。


小学生には今度はそこにたどり着ける方法を紹介していくようになります。


戸田デザイン研究所の「完全版•国旗の絵本」国連加盟国(日本が独立国と認めている国)198の旗があいうえお順に大きくなっています。1月のレッスンでHくんに紹介したいと思い、新規購入しました。


Hくんの変化は、お母さんが毎月子どものいえに連れてきてくれたからこそだと思います。完全に涙が消えたわけではありませんが、「そんな時もあるけどこんな時もある」振り返れば「できた」がこんなに増えています。


多くの人が理解しやすいように教師といっていますが、モンテッソーリは教師のことを「モンテッソーリガイド」と呼んでいます。バスガイドさんが初めての土地の紹介をしてくれるように、モンテッソーリガイドは、子どもたちを取り巻く環境を子どもに紹介するのが仕事です。


大人が知っている知識を子どもに教え込むことはありません。

 

そのため、教室の環境をどのように整えていくかは教師の大切な仕事になります。通ってくれている子どもたちに何を紹介したいかを常に考えています。


2024年もきっと、子どもたちから色々なことを教えてもらう一年になるのでしょう。今年も教室でお待ちしています。




西高根モンテッソーリ子どものいえ代表

古賀久美子