「ジュウロクダンゴ?」

そんな言葉を初めて聞いたので、思わず聞き返した?

 

「えっ? お団子お供えしないの? 16個?」

まるでこちらに常識が欠けているとでも言いたげに芽生が答えを返してくる。

 

「16個って、多いな……、ってか、十五夜と何か関係あるの?」

団子と言えば、月見団子、月見と言えば十五夜だ。満月よりもひとつ多いってことは、スーパームーンの時にでも特別な月見でもやるんだろうか?

 

「月見じゃないよ、神去来だよ、神様をお迎えするの」

芽生の故郷は東北のコメ産地で、そこでは今でも、春には山から下りてくる神様をお迎えし、秋には山へと帰っていく神様をお見送りし、その年の豊穣を祈願し感謝するのだという。

 

「へぇ、家の辺にはそんな風習なかったなあ」

関西の出身である僕は、これまでそんな風習に関わったことがなかったので、今一つピンとこないままだ。

 

「家はコメ農家じゃなかったから、何となくやってただけだけどさあ」

この時期、長かった冬がとうとう終わり、お山が緑を芽吹き始めると、なんだかそわそわし始めるのだという。

 

「ああ、今朝、なんか山、綺麗だったもんな」

朝の散歩に二人で出かけた時に、すっと空が晴れ渡り朝日を受ける近くの山がやたらと綺麗に見えたのだった。

 

「でしょ、農家じゃないけど、新しい季節に神様をお迎えするのってなんかよくない?」

どうだ良い提案だろうと言わんばかりに、芽生が続ける。

 

「……そうだな、お迎えしてみるか」

招いた神が善神であるとは限らないのだが、信心もイワシの頭からって言うし、やりたいって言うんだから、まあいいか。

 

「やったぁ! じゃ、準備しとくから、早く帰ってきてね」

芽生が嬉しそうに言う。

芽生の嬉しそうな声を聴くのはいい気分だ。

 

「わかったよ、じゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

芽生に送られて家を出る。

会社までは一時間半、ちょっと大変だけど、僕らはこの春、ようやく念願のマイホームを手に入れたばかりだ。

 

(十六団子ね)

駅までの道、朝に芽生と見た近くの山を仰ぎ見る。

あの山から十六団子を食べにやってくるという神様が、芽生の田舎の山の神様のような良い神様だといいなと思う。

きっと、こうやって二人の人生が重なり合って、その家の歴史みたいなものが出来ていくのだろう。

 

この秋には、新しい家族も加わる予定だ。

会社までの長い道行き、いつの間にやら、芽生と十六団子で神様をお迎えするのがすっかり楽しみに思えてきた。