イアーソーンがアイエーテースの出した条件に挑戦するその日になると、人々はアレースに捧げられた森に集った。
 

国王は玉座に座り、民衆は丘の中段をぎっしりと覆いました。
 

まあ、命知らずの向こう見ずな馬鹿を見物するのは古今東西場所を問わず人気があるということか。

 

さて、まずは青銅の足をした牡牛(鼻の穴から火をふく、道端の草を焼き尽くす火力&音は溶鉱炉のうなり&煙は石灰石に水をかけたよう)を迎え撃ったイアーソーン。
アルゴナウテースの精悍な英雄達もその姿を見て思わず身を震わすような怪物に敢然と立ち向かう。

火の息など物ともせず(これはメーディアの魔法のおかげ)、牛どもの怒りを言葉で鎮め、巧みにそれに軛をかけて鋤をひかせることに成功する。
怪物の怒りを言葉で宥めるのだからメーディアの件といい、相当口の達者な男だったに違いない。

 

続いての難題は例の龍の歯。
イアーソーンが龍の歯を蒔きそれに土をかけると、一群の武装した兵隊がはえてきて、イアーソーン目がけて襲い掛かった。
イアーソーンもそこは英雄の端くれ、最初は勇敢に己の剣と盾でその攻撃を防ぎあるいは切り伏せていたのだが、何ぶんにも数が多い。形勢不利と見るや、ためらわずメーディアの授けてくれていた魔法を使った。
イアーソーンが魔法がかけられた石を敵の真ん中へ投げ込むと――兵隊たちはたちまち同士討ちを始め、此度は平和主義者がいなかったのかあっさりと全滅してしまった。
(コルキスの人々は折角の見世物の不本意な終わり方に大ブーイングをしたに違いない)

 

これで、アイエーテースの課した課題はクリアしたのだが、もうひとつ難題が残っていた。
王が黄金の羊毛を護らせていた眠りを知らぬ龍がそれなのだが(どうやら黄金の羊毛は取ってよいとは言ったが、龍を退らせることまでは契約に入っていなかったらしい)、ところがこれまたメーディアがくれた魔法の薬をふりかけるとあっけなく眠ってしまう。
 

いや、英雄たるものそんなことでいーのか?

と、ちょっと首を傾げたくなるほどメーディアに頼りっぱなしながら、ともかくイアソーンは最後の障害も無事突破して見事黄金の羊毛を手中に収めた。

 

 

イアーソーンはお宝の惜しくなったアイエーテースに出発を阻まれぬよう急いで(ちゃっかりメーディアを連れて)船出すると、一目散にテッサリアへと戻り、黄金の羊毛をペリアースに引渡し、無事に王となった。(ペリアースは以外に潔く王位を明け渡した模様。まっ、きっと死ぬだろうと思って送り出した相手が英雄たる資質を示して凱旋してしまったのだから、下手な抵抗をするのは生粋の悪役か愚か者だけだが)

 

そして、運命に導かれた英雄と異国の王女は首尾よく結ばれる。
メーディアはこの時期、まさにイアーソーンの幸運の女神と呼ぶに相応しい存在だった。